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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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夫婦ごっこ(3)



朝になり目が覚めた。いつものように日記を書き、着替えてから居間に向かう。食卓に料理を運んでいた栞里さんが、僕を見てパァっと笑顔になった。


「悠くん、おはよう」

「おはよう」


椅子に座り、朝食の準備が整うのを待つ。栞里さんが笑顔で料理を運んでくる。いつもより笑顔が多いと感じた。

朝食が始まる。いつもとそう変わらない食事だが、美味しく感じた。


「悠くん、今日は穏やかな顔をしてる。」

「そうか。ぐっすり眠れたんだ。それでかな。...穏やかな夢を見たんだ。夢の中で衿ちゃんが、ありがとうって言ってたよ。」

「そっか。良かったね。」


彼女が微笑んで僕を見る。つられて僕も微笑み、頷いた。

昨日の衿ちゃんからのメール。寝ているときに感じた暖かみ。どちらも目の前の彼女の優しさなのだろう。言葉にはせず、心の中で感謝する。


「悠くん、今日は予定ある?」

「いや、無いよ。」

「買い物に付き合って欲しいの。いいかな? 明日、詩衿が好きだった料理にしようと思ってて、ちょっと多くなりそうなんだ。」

「ああ、いいぞ。何時に出る?」

「10時はどう? お昼は外で食べましょう。」

「わかった。準備しておく。」



栞里さんが忙しく洗濯や掃除をしている。その音を聞きながら、僕は自室で机に向かいパソコンを使用している。栞里さんは家政婦の仕事として家事をしている。だから今の状況は当為なのだが、それでも家事を手伝わなくていいのか気になった。


彼女が家政婦ではなかった場合、僕はどうしていただろうか。手伝ったとき、手伝わなかったとき、彼女は僕をどう思うだろうか。

家に持ち込んで仕事をしていた父さんは、母さんが家事をしている音を聞いて、どのような思いだったのだろうか。家に仕事を持ち込んで休日でも仕事をしている父さんを、母さんはどう見ていたのだろうか。


「夫婦ってなんだろうな。」


独り言を吐き、再びパソコンと向き合った。



10時の少し前に居間に行く。栞里さんがキッチンの掃除をしており、僕に気が付くと手を止める。


「悠くん、もう少しかかるから待ってて。」

「いいよ。栞里さんに話があるんだ。終わったらお茶にしないか?」

「うん、わかった。すぐ終わらせるね。」


彼女が掃除をしている姿を見ながら、紅茶の準備をする。ティーカップを拭き終わる頃に彼女が部屋から出て行った。湯沸かしのケトルが蒸気を立てているのを見て、彼女の気配りに関心する。

ティーポットをお湯で洗い、茶葉を入れてお湯を注ぐ。食卓に運んだところで彼女が戻って来た。


「終わったよ。お茶にしましょうか。紅茶、用意してくれてありがとう。」


彼女が冷蔵庫を開けて箱を取り出し、食卓で蓋を取るとアップルパイが出てきた。


「さっき、お隣のおばあちゃんに頂いたの。手作りしたんですって。」

「美味しそうだな。」

「作り方を教えてって、お願いしちゃった。」


嬉しそうに彼女が言う。僕もつられて微笑んだ。

ティーカップに紅茶を注ぎ、おやつを始める。


「それで、話ってなに?」

「夫婦について、まだ考えたい。引き続き協力してほしい。」

「うん、いいよ。」

「僕たちは学生だから共働きの夫婦と同じだと思う。家事を含めて、よい方法を考えたい。それでお願いがあるんだ。家政婦としての仕事だと割り切らずに、夫婦として言いたいことを言って欲しい。僕も遠慮しないから。」

「うん、わかった。...遠慮してたの?」

「ああ。君の仕事だからと手伝うのを我慢していたんだ。」

「ふふっ、悠くんらしい。」

「君から何かあるか? お願いとか。」


彼女がくすくすと笑う。


「どうした?」

「ううん、悠くんは悠くんなんだなって思って。」

「ん?」

「うちのお父さん、いつもあれやれこれやれって命令ばかりなんだ。逆にやってってお願いすると文句を言うの。頑固? 意地っ張り? だから男の人はみんなそうなのかなって思ってた。悠くんもそうなのかなって。

だけど違ってたよ。子供の時の悠くんは優しくて、その時のままだったら良いなって思ってたんだ。だけどお願いをしたら文句言うかもしれないって、悠くんは違うって思いながらも、そうやって育ったから、身構えてたんだ。

昨日、どう考えたのかを教えてって聞いたとき、聞くまでにとても迷ったんだ。だって悠くんがわたしに伝えなくていい、伝えないほうがいいって思って言わなかったんだから。...だから、聞くのは悠くんを否定することだから、文句を言われるって思ってた。

だけど話しを聞いてくれて、今も、言いたいことを言って欲しいって、お願いがあるかって聞いてくれて、嬉しいんだ。

ずっと一緒にいるのにいまごろ気が付いたよ。悠くんはわたしのお願いを聞いてくれるんだって。おびえる必要無かったんだって。」

「そうか、頑張ったんだな。」

「ずっとそのままでいて欲しい。」

「もちろんだ。もしも変わってしまったなら言って欲しい。思い出すから。」

「うん。」


思い出の中の彼女はいつも頷いていた。そういうことなんだと思い、彼女が抱える闇の一端を見た気がした。



「もうひとつ話があるんだ。僕は仕事をしている。...これは僕が書いた小説だ。僕は小説家になろうと思う。」


隣の椅子の上から書類を掴み、食卓の上に置いた。


「毎日、自室で小説を書いている。できるだけ頑張るが、いつか君に迷惑をかけるだろう。相談しながらやっていきたい。」

「うん、わかった。」

「収入の問題もある。これを職業として親元から独り立ちしたとき、収入は不規則で、無い場合もあるだろう。出来るだけ努力をするつもりだが、上手くいかない場合はある。僕の妻になる人はその重荷を背負うことになる。それでもいいか考えてほしい。」

「え? うん。考えとく。」


「最後に、この小説を読んでほしい。そして明日の夜までに、この小説を世の中に出していいか判断してくれないか。僕と衿ちゃんのことを元にしている。フィクションだから変えているが、事実と同じ部分は多いから。」

「うん、読んどくね。」




長かったおやつの時間が終わり、ふたりで買い物に出掛けた。途中で、栞里さんの様子がどこかおかしいことに気が付いた。




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