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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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由佳の試練



「おはよー」


朝から由佳の元気な声が家の中に響いた。出迎えた栞里さんの後に続いて由佳ちゃんが居間に入ってくる。


「悠人、おはよう」

「おはよう」

「ごめんね、朝から来ちゃって。学校始まるまでずっとバイトで、ゆっくり出来るの今日しかないんだ。」

「忙しいんだな。」

「新学期が始まる前だから散髪に来る子が多くて忙しいんだって。」


栞里さんがお茶とお菓子を持ってきた。


「お茶にしましょう。パウンドケーキにドライフルーツを入れてみたの。...膨らみが少ないわね。ちゃんと出来ていると良いのだけれど。」


パウンドケーキをテーブルの上で切り、切り口を確認している。ムラはなさそうだが、あまり膨らまなかったことを気にして、大丈夫かな?と首を捻っている。

僕は手を伸ばして、切ったばかりのパウンドケーキを掴んで頬張った。


「ん、うまいぞ。みんなで食べよう。」


栞里さんに微笑むと、彼女はにこりと笑う。

パウンドケーキが取り分けられたが、僕が1切れ食べたからだろう、数が合わなくなって余った2切れは元の皿に残しており、テーブル中央に置いている。栞里さんらしいと思い苦笑した。


「余りは二人で食べていいよ。僕はつまみ食いしたから。」


由佳ちゃんがニヤニヤとして僕を見た。


「そういうのをサラっとやるところ、色男だね。」

「早く食べたかったんだ。食いしん坊なだけだよ。」

「まったく、そんなんだから誤解される。」


僕はそれでいいんだと首を縦に振り苦笑する。由佳ちゃんは僕を見て呆れたと首を横に振って苦笑した。


「このまえ悠人と会った後に、叔母さんに聞いてみたんだけど、小さい頃にあたしたち遊んでたみたいなんだ。」

「そうか。」


由佳ちゃんが栞里さんを見てニコッと笑う。


「栞里ちゃん、あたし小さい頃、栞里ちゃん家の近くに住んでたんだって。それで公園で一緒に遊んでたみたい。...栞里ちゃん?」

「あ、ごめん、なに?」

「小さい頃に栞里ちゃん家の近くに住んでて、公園で一緒に遊んでたみたいなんだ。」

「えっ、そうなんだ。」

「小学校に入る前だって。あたしは全然覚えてないんだけど。」

「わたしも分からないけど、...その頃の写真はある?」

「栞里ちゃんぽい子と写ってる写真は無かったよ。あっ、あたしの写真を持ってくればよかったね。今度持ってくるよ。」

「うん。わたしも写真を持ってくるね。」


ふたりで手を取り合って笑いあっている。意思が合ったところを水を差すようだが、もうひとつ探すところがあるだろうと口を挟む。


「あー、あれだ。うちにある写真を見ようか。二人とも写っているかもしれない。」

「あ、そうだね。持ってきてくれる?」

「ああ、わかった。ちょっと探すのに時間かかるかもしれないから、なにかやっててくれ。」

「うん、お昼ごはん作りながら待ってるから。栞里ちゃん、野菜持って来たんだ。何かに使って頂戴。」

「ありがと。お昼はなにするのか決めてる?」

「ううん、あたしが作れるのはこの前見せちゃったからもう無いんだ。」

「悠くんはリクエストある?」

「そうだな。...魚は? このところ食べてないから。」

「そうだね。ツナ缶以外で食べたのは先週のサバ味噌煮かな。...由佳ちゃん、買い物に行きましょう。」



栞里さんと由佳ちゃんが買い物に出掛け、僕は写真を探す。

父さんが編集したアルバムと、写真を保存した光ディスクを見つけた。アルバムを開いて中身を見たが、母さんの写真集と化したそのアルバムには、僕以外の子供は写っていなかった。


「栞里ちゃんと衿ちゃんが写っていないのは驚いたな。父さんの母さん好きもここまでくると気持ち悪い。...仕方ない。光ディスクを取り込むか。」


数十枚あるディスクを見て、ため息をつきながらパソコンを起動した。



ふたりが買い物から戻った。栞里さんが興奮しながら買って来たものを取りだしていく。


「悠くん見て~。すごいよお魚、カンパチ一匹。小振りだけど80センチくらいかな、大きなしっぽ。黄色に色付いてて可愛いね~。」


エラと尾を掴んで頭上に持ち上げて踊っている。それを由佳ちゃんは嫌そうな顔で見ていた。


「悠人、いつもあんななのか?」

「そうだ。」

「魚屋で凄い勢いで喋っていたぞ。魚屋のおばさんがどん引きしていたくらいだ。」

「そうか。一緒に魚屋に行ったことがないから知らなかった。」

「...イメージ変わったよ。」

「そうか。この後料理するんだろ? 頑張れよ。」

「え?」

「教えて貰うんだろ? 魚を捌くの。」

「えーっ!」


由佳ちゃんは絶句した。


何度か絶叫がありつつも、無事に料理が出来あがり昼食となった。カンパチは刺身、塩焼き、あら煮になり、他にアサリの酒蒸、イカの生姜炒め、きんぴらごぼうが並んだ。

由佳ちゃんが正直な感想を述べる。


「美味しい。美味しいんだけど。...生の魚とイカ、初めて触った。初めて捌いた。...ネチョっとしてて、内臓が気持ち悪くて...たぶんもうやらない。」




昼食後、パソコンの出力をテレビにつないで、三人でわいわいキャッキャッと騒ぎながら写真を見る。騒いでいるのは女子ふたりで、僕は言われるがままに黙って操作をしている。

本来の目的はそっちのけで、あれが見たい、これが見たいというリクエストに答えていく。


栞里ちゃんが髪を黒く染めた後の三人で買い物に行った時の写真。記念に三人で並んで撮ったものだ。


「可愛い。そっくり。これは見分けられないよ。どっちが栞里ちゃん?」

「わたしはこっち。」と右側を指差す。

「どうして分かるの?」

「詩衿と決めてたの。並んで立つときは右が詩衿でわたしが左。」

僕の母さんと栞里さんのお母さんが並んで写っている写真。二人とも赤ちゃんを抱えていて、栞里ちゃんはお母さんの足に掴まって立っている。


「お母さん若くて可愛い。ちょっと太ってるのかな。いまはガリガリなのよ。...これより前はあるの?」

「電子ファイルはこれが一番古い。これより前だと父さんのアルバムがあるよ。見るか?」

「うん、見せて。」


父さんのアルバムを開くと、母さんの写真が並んでいる。中学生の頃の写真。高校生の頃の写真。成人式の写真。


「お母さん、写ってないな~。姉妹でいつも一緒に居たって聞いていたのに。」

「悠人が生まれた。赤ちゃん可愛いな。」


再びパソコンの写真を見ている。

僕が赤ちゃんの時の写真。小さな栞里ちゃんが座って赤ちゃんを抱えており、赤ちゃんは小さな手で栞里ちゃんを掴んでいる。

僕が歩きだしたころの写真。栞里ちゃんに向かって歩きながら手を伸ばしている。

僕が3歳のころ。僕と衿ちゃんが栞里ちゃんと手を繋いで歩いている。


「小さな栞里ちゃん、可愛いな~。」

「わたしお姉さんやってるね。」

「いまでは考えられないね。」

「一応、ふたりよりお姉さんなんだよ。忘れてると思うけど。」

「うん、年上と言われてもね...」

「もー!」


幼稚園のころの写真を一覧表示している。


「あ、これってこの前の場所じゃない? 遊覧船が写ってる。この写真、大きくしてもらえる?」

「これだな。」

「あ、これあたし。あたし男の子っぽいよね。この子は悠人?」

「そうだな。」

「ここで見切れてるのは栞里ちゃんかな。次の写真!...これ、髪がとても明るい。可愛い。」

「あたしだと思う。」

「一緒に写ってるけど、一緒に遊んでる感じではないな~。次!」


数枚進めた。


「あっ、あたしと悠人が手を繋いでる。次!...栞里ちゃんと詩衿ちゃん。4人で遊んでるね。みんな可愛い。」


数枚進めた。


「あたし叔母さんに抱っこされてる。叔母さん若い。」

「お母さん。しがみついてるのは詩衿ね。」


数枚進めた。


「これ、この前のロープウエイ。あたしと詩衿ちゃん? 手を繋いで一緒に外を見てるけど...富士山を見てるのかな?」


その後何枚か一緒に写っている写真があった。



「やっぱり一緒に遊んでたね。」

「うん。」

「あの場所で知り合った感じだね。」

「うん。」

「えへへへ」「うふふふ」

「あたしたちずっと友達だったね。」

「うん!」





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