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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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詩衿の髪留め


由佳ちゃんの家を出て、自宅に向かって栞里さんと並んで歩く。夜8時を過ぎており、空は晴れて星が出ているが月明かりが無いため道は暗い。街灯の明かりが点々と見える。

街灯の光を反射して、栞里さんの右耳の上に着けている髪留めがキラリと輝いた。以前に、詩衿ちゃんに告白するよりも前に、栞里ちゃんと詩衿ちゃんにプレゼントをしたことを思い出す。あれは中学生になったばかりの頃、今から5年前だ。懐かしくなり、そのときのものではないだろうとは思いながら、髪留めの装飾を見ようとしたが、歩いているため分からなかった。


「悠くん、どうかした?」

「栞里さんの髪留めがキラッとしてね。以前にプレゼントしたことを思い出した。」


街灯の下で栞里さんが足を止め、髪を押さえて髪留めを僕のほうに向ける。銀色の髪留めが2つ。三日月の飾りと流れ星の飾り。


「覚えてる?」

「覚えてる。大事にしてくれてたんだ。」


栞里さんが歩きだして、大きな公園の角を曲がる。


「詩衿とは、お別れできた?」


僕は驚いて栞里さんを見る。暗闇の中で表情は見えず、栞里さんの輪郭だけが見えた。

ふたりには目的を言わなかったが、今日の旅行の目的は、衿ちゃんの遣残したことを終わらせること。衿ちゃんの悩みが片付いたら一緒に行こうと約束していた神社への参拝。そのころには大人になるからと泊まり掛けでの旅行を思い描いていた。


「神社に行って富士山を見る。詩衿と悠くんのデートではいつもそうだった。予定を聞いたときに詩衿と行くんだって思った。」

「もうすぐ一周忌だから、約束を果たそうと思った。衿ちゃんは行けなくなったけど、僕だけでもこの休みに行こうと思っていたんだ。...ふたりを誘ったのは、きちんとお別れをするためだ。」

「詩衿も来てくれたと思うよ。詩衿の髪留め。ここにいるから。」「そうだな。一緒に行ったんだな。」

「うん。」


髪留めをプレゼントした時のことを話しながら家に向かう。中学生になって行動範囲が広がり、3人だけで初めて出掛けたときだ。



駅でふたりと待ち合わせをしている。衿ちゃんの姿をした女子がふたり、手を繋いで片方を引っ張るように待ち合わせ場所に来た。困惑しながら僕はふたりに声をかける。


「おはよう」

「おはよう」「おはよう」

「ええっと、どっちが栞里ちゃん?」

「こっち」「わたし」


引っ張られていたほうが栞里ちゃんだという。黒髪になり、ふたりの見た目がとても似ているため見分けられない。


「どうしたの? その髪。」

「学校で注意されて染めたんだって。1年そのままだったのに、2年生になって注意するなんておかしいと思わない?」


ぷんぷんと怒っている。なお怒っているのは衿ちゃんだ。


「おねーちゃん、なんでわたしの後ろに隠れてるの。悠くんが困ってるよ。」

「だって、はずかしいよ。」

「髪の色だけでしょ? それに恥ずかしいって、わたしの髪も黒いんだけど、失礼だと思わない? ほら、並んで。双子っぽくなれたんだから楽しまなくっちゃ。」


栞里ちゃんが出てきて衿ちゃんと並ぶ。栞里ちゃんのほうがすこし背が高く、すこし髪の色が黒い。


「栞里ちゃん、可愛いよ。似合ってる。」

「えっ」


栞里ちゃんが驚いたように僕を見て頬を染める。


「わたしはどうなのよ?」


衿ちゃんが僕に詰め寄り文句を言った。


「衿ちゃんも可愛いよ。ふたり並ぶと双子みたいで、ふたりとも可愛いから。」


僕は焦ってやや早口で言葉を並べた。

周りの通行人から「双子と付き合ってると大変だな」「彼氏は必至だな」とか聞こえてくる。別に付き合ってないから、とか思ったが、そもそも女子と駅で待ち合わせしてこれから出かけようとしているわけで、デートみたいだと思って恥ずかしくなった。


「は、早く行こう。店が閉まるよ。」と僕は踵を返して歩き出す。

「悠くん、まだ朝だから大丈夫だよ。」

「あ~、悠くん待って。」


衿ちゃんが右手、栞里ちゃんが左手を掴む。僕は周りの視線が恥ずかしかったが、両手を掴まれていて隠れることができなかった。


目的の店に着いて、ふたりは仲良く商品を見ている。母の日のプレゼントを買いに来ていて、僕はふたりの後姿を見ながら買い物が終わるのを待っている。

ふたりの髪の色が同じになり、今日の服装はお揃いだ。従姉妹で幼少のころから仲良くしているとはいえ、見た目がそっくりとなったふたりの見分けはつかない。間違えないようにしなければと思い、ため息をつきながらふたりの後をついていく。


「悠くん、これどうかな? 可愛いよね。」

「ああ、そうだな。」

「こっちはどう? これもいいよね。」

「ああ、そうだな。」

「こっちもいいな~。」

「これもいいかな。」

「ああ、そうだな。」

「そうだなしか言ってないよ。もっとちゃんと見てよね。」

「ああ、そうだな。」

「んもう!」


どれでもいいから早くしてくれと思いながらついていくが、ふと脇を見て、そこにあったものが気になった。


買い物が終わり、昼食にファミレスに入った。ふたりが並んで座り、静かにメニューを見ている。黙っていると見分けがつかないなと思い苦笑する。僕が笑ったのを衿ちゃんが気付いて口を開いた。


「なに笑ってるのよ。なにか思い出したの?」

「いや、ふたりともそっくりだと思って。双子のようだ。」

「ん、まあそうね。見分けられる?」

「話をしてるから分かるけど、黙ってたら難しいかな。」

「悠くんでも難しいか~」

「だからね、」


カバンから先ほど購入したものを取り出して、袋から出してふたりに手渡す。


「こっちが栞里ちゃん。こっちが衿ちゃん。」


銀色の小さなヘアクリップで、栞里ちゃんに三日月、衿ちゃんに流れ星の飾りがついている。


「栞里ちゃんはこのまえ誕生日だったろ。誕生日おめでとう。衿ちゃんのは、ついでだ。」

「ついでってなによ。まあ貰っとくね、ありがと。」

「悠くん、ありがと。とても嬉しい。」


衿ちゃんはすぐに髪につける。栞里ちゃんは胸の前で両手で持ち喜んでいる。性格が出ていて微笑ましいと思った。




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