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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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ピクニック(2)


昼食の後、近くの施設を回る。アザラシのショーを見て、ふれあい動物園でウサギなどの小動物と戯れ、ふたりが無邪気な笑顔を見せている。

楽しい時間を過ごして時刻が午後3時を回り、帰る時間が近くなりお土産を買うために店に入る。女子ふたりが仲良く相談しながら商品を見て回る。由佳ちゃんの親へのお土産は僕が用意すると話をしてあり、僕は菓子を購入した後に店の隅で佇んで、楽しげに話をしているふたりの買い物が終わるのを待った。


由佳ちゃんがぬいぐるみを両手で抱えて僕のほうに駆けてきて、小首をかしげながら僕に尋ねる。


「可愛いの見つけちゃった。どう?」

「...ああ、可愛いな」


由佳ちゃんの返事を期待している表情とぬいぐるみの丸っこい姿を見て、差し障りのない言葉で肯定をする。由佳ちゃんが笑顔になり「買ってくるね」と言い残してレジに駆けて行った。


由佳ちゃんの後ろに栞里さんがおり、一歩離れたまま栞里さんが僕を見てにっこりとする。まっすぐ僕を見て、僕に見せるように動物柄の菓子の箱を両手で胸の前に持っている。


「迷ったんだけど、わたしはお菓子にしたよ。あとでみんなで食べよう。」


その姿はいつか見た姿で、幼き頃の栞里ちゃんを思い出す。


「買ってくるね」と言って栞里ちゃんがレジに駆けていった。



帰り道は来た時とは別のルートを選び、ロープウェイに乗って移動する。ゴトゴトと音を鳴らしながらゴンドラが駅を離れ、中空に上っていく。

ゴンドラの窓は大きく、中空からの迫力ある景色を見ることができる。窓辺に立ち外を眺めると、陽が傾いているが雲ひとつ無くよく晴れた空の下、日陰となった山肌の富士山がはっきり見えた。

栞里さんは座席に座り、由佳ちゃんは窓辺に立ち下を覗いている。


「うわっ、高いね。ちょっと怖いかな。栞里ちゃんは見ないの?」

「わたしは、、、富士山を見てるからいいよ。」

「悠人は大丈夫そうだね。」

「まあな。下を見なければ問題ない。」

「え~、下を見ないでどこを見てるの?」


由佳ちゃんが隣に立つ。僕は彼女を一瞥してから再び富士山を見た。


「富士山だ。今日の富士山は綺麗だよ。」


夕方の陽が空を次第に橙に変えていく。富士山の模様が次第に見えなくなり、シルエットになっていく。

由佳ちゃんがその景色を見て言葉をなくし、僕の腕をとって抱きしめる。僕は一瞬振りほどこうとしたが、諦めて成り行きに任せた。

富士山が見えなくなりゴンドラは駅に入っていく。由佳ちゃんが僕の腕を抱えていたことに気が付き、慌てて手を放して赤い顔で僕を見た。


「ごめん」


僕は彼女を見て、いいよという意味で頷いた。


「富士山、綺麗だったろ?」

「うん、綺麗だった。」


ゴンドラのドアが開き、栞里さんが僕たちを手招きする。由佳ちゃんが気が付いていない様子のため、僕は彼女の手を取って、ゴンドラの外に出た。

外に出て手を離すと、彼女はもう片手で手を抑えて胸の前で抱える。


「ありがと」と絞り出すように言うと、横を向いて視線を逸らした。


由佳ちゃんとの付き合いは長い。中学1年の時からクラスメートで机がとなりだったことから話をするようになる。2年生のときに放課後に一緒に自学自習をするようになり、僕たちが付き合っているという学校内での噂をきっかけにトラブルになり近しくなる。解決してから暫くの後に彼女から好きだと告白された。その想いは受け取らなかったが、その後も仲の良いクラスメートとして、高校3年生になろうとする今までの数年付き合ってきた。これまでも頭や背中を叩いたり腕を組むなどのスキンシップがあったが、サバサバとした友達としてのものだった。

いま見えている彼女は、女の子のようにいじらしい姿を見せている。これまでとのギャップが大きく、どう扱えばいいのかわからない。

迷った末、特別なことは何もせずにいつも通りに扱うことにした。


「行くよ。」

「うん。」


返事を聞いてから歩きだす。彼女が付いてくるのを確認して一息ついた。栞里さんも由佳ちゃんの隣を歩いてくる。

電車に乗るころには由佳ちゃんもいつもの様子に戻り、何気ない会話をしながら移動する。乗り換え駅の周辺で夕食を取り、また電車に乗って自宅の最寄駅に到着した。


まだ夜7時過ぎだが、日が沈んで辺りは暗い。由佳ちゃんを家まで送ることにした。


「家まで送るよ。栞里さんもいいよね。」

「いいよ。」

「ありがと」


僕が先頭で歩きだすと、由佳ちゃんが隣についた。


「悠人、あのね、手を繋いでもいいかな?」


由佳ちゃんが真剣な表情で僕を見ている。

栞里さんを見ると、暗くてその表情は見えないが頷くのが見えた。


「構わない。」


右手を差し出すと、由佳ちゃんが左手を絡めた。


無言のまま歩いて行く。道程の半分、5分ほど歩いたところで由佳ちゃんが口を開く。


「楽しかった。悠人が行きたいところに一緒に行って、一緒に同じものを見て。学校では言葉が少ない悠人が、外ではこんなに話をするんだって驚いて。」

「そうか。」

「だけど悲しくもなって。あの御朱印帳は詩衿ちゃんのでしょ?」「そうだ。」

「詩衿ちゃんのために神社に行って、富士山を見た。そうなんだって気が付いた。」

「そうだ。だけど違う。僕が行きたかった場所なんだ。その度に衿ちゃんを思い出すだろう。たぶん次第に悲しみは薄れていくけど、忘れることはない。それはもう僕の一部で、それを含めて僕なんだ。」

「そっか。」


また無言のまま歩いて行く。由佳ちゃんの家が見えてきた。


「送ってもらったのは久しぶりだね。」

「そうだな。」

「また今度、送ってね。」

「ああ。」

「じゃあ。」

「いや、おばさんにお土産を渡すから、挨拶だけさせて。」

「あっ、そうだったね。」


由佳ちゃんが玄関のドアを開ける。


「ただいま~、お母さーん。」

「お帰り。どうしたの?」

「岡田です、どうも。これ、お土産です。」

「あらあら、ありがと。気を使わなくてもよかったのに。さあ入って。ケーキがあるから食べていってね。栞里ちゃん久しぶりね。どうぞ入って。」


強引に押し込まれ、お邪魔することになった。奥に行くとテーブルがあり、椅子に座る。

おばさんが台所に入り、用意をしている。由佳ちゃんが身を乗り出して、小声で話をしてきた。


「ごめんね、お母さん強引で。」

「大丈夫だ。」

「栞里ちゃんも。疲れてるでしょ?」

「ううん、大丈夫。」


おばさんがケーキとお茶を持ってきて並べていく。


「由佳の面倒を見てくれてありがとね。栞里ちゃん、大人っぽくなったかしら? うちの由佳なんてずっと子供で、どうしたら落ち着くのかしらね。」


おばさんが席につき、一緒にケーキを食べながら、この2日間で何をして何処に行ったかを話した。


帰り際。


「由佳と仲良くしてくれてありがとうね。いつまでも友達でいてくれるとおばさん安心だわ。栞里ちゃん、またいつでも泊りに来てね。」

「はい、ありがとうございます。」

「悠人くん、いつも気にかけてくれて、ありがとね。」

「僕のほうが助けられていますよ。」

「ううん、この子は辛いことがある度にあなたに甘えて助けられているのよ。だからこれからもお願いね。」

「お母さん、目の前で恥ずかしいことを言わないでよね。あたし甘えてないし。」

「はいはい、そういうことにしましょう。悠人くん、だからよろしくね。」

「はい、わかりました。」

「もう、悠人まで!」


親子で言い合いをしているのを見ながら、挨拶をして玄関を出た。




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