ピクニック(1)
早朝から出発して電車とバスに乗り継ぎ、目的の観光地に着いた。神社を目指して通りを歩いていくと、朝の9時前という早い時間だが、店を開ける店員さんにおはようと声を掛けられる。
森の入口に朱の鳥居があり、鳥居を潜ると、ひんやりとした空気と、森の香りに包まれる。
キィキィと声が聞こえ、木の幹を駆け登るリスの姿が見えた。由佳ちゃんが駆けて行き、森の中を覗くが、見失ったようで足を止めてこちらを見る。
「いまの、リスじゃなかった? 結構大きかったね。」
「そうだな。」
「えっ、そんな反応なの?」
「うちのほうでも森に入れば居るぞ。神社のあたりとか。」
「そうなの? 神社に行くのは初詣だけかな。あまり行かないな。」
歩いて追いつくと、由佳ちゃんが隣に並んだ。栞里さんは1歩引いて後ろをついてくる。
しばらく歩くと木々の間に建物が見えてきた。手水舎で清めてから100段程の長い階段を上り鳥居をくぐる。視界が広がり正面に朱色の門が見えた。周囲を見渡すと建物に囲まれている。お札所は向こうと判断して門をくぐると、正面に朱に塗られた権現作りの本殿が見えた。
拝殿の前に三人で並んで立ち、鐘を鳴らして拝礼をする。心の中でこの場の三人の健康が続くことを祈願する。
後ろを向くとお札所が見え、御守りを貰ってふたりに渡した。
「御身守の御守り、健康祈願だな。それからもうひとつ、幸福の御守り。」
「ありがとう。」
「ありがと、悠人。」
「境内はだいぶ広いけどひと廻りしよう。もう少し付き合って欲しい。」
「うん、いいよ。」
境内を歩き社を廻ってお参りしていく。ふたりは文句を言わずに付いてくる。出来るだけ説明をして、ふたりが退屈しないように気を配る。最後に御朱印を貰ってお参りを終えた。
神社への道を戻り、行きに挨拶をしてくれた喫茶店に入り休憩をする。飲み物とケーキを頼んで一息ついた。
「結構楽しかった。神社には初詣でしか行かないんだけど、拝殿?で祈って終いだと思ってた。見るところが色々あるんだね、説明してくれて勉強になったよ。いままで気にしたことなかったから、新しい発見ってやつ? 建物も綺麗でさ、楽しかった。ところで、最後に何か押して貰ってたじゃん。あれなに?」
「御朱印だ。お参りに来たことの印かな。」
「見せて貰ってもいい?」
「ああ。」
手提げから御朱印帳を取りだして由佳ちゃんに手渡す。表紙には桜色の地に富士山が描かれている。
「一枚の紙を畳んでいる。本ではないから開くとき気をつけて。」
「あ、ほんと。」
御朱印帳をテーブルに広げる。
「たくさんお参りしてるんだね。...知ってる神社がある。...真ん中に神社の名前が書いてあるのが多いね。これとか読めないけど何処なの?」
「お寺だな。脇にお寺の名前が書かれている。中央のは観音様を祀っている建物の名前だ。」
「ふ~ん。結構前からお参りしてるんだね。最初は3年くらい前なんだ。」
ひと通り見た後、御朱印帳を畳んで「ありがと」と御朱印帳を返してきた。
「この後どうするの? 栞里ちゃんは行きたいところあるんでしょ?」
「わたしは、、」
栞里さんが僕を見る。なにか戸惑っているようだ。
「ほら、言わないと伝わらないよ?」
「うん。あのね、水族館に行きたいの。また時間かかっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
「いいぞ。由佳ちゃんも良いかな。」
「いいよ。」
「では、行こう。」
水族館に入り、大きな水槽を眺める。よく見る魚の群れの周りでカラフルで独特な顔の魚たちが優雅に泳いでいる。大きなエイが水槽にぶつかり腹を見せて泳いで行った。
栞里さんは水槽をかじりつくように見ている。その様子をみていた由佳ちゃんが話し掛けてきた。
「栞里ちゃんはいつもあんな感じ?」
「ああ。水族館が好きで水槽の前でずっと見ているよ。特にクラゲが好きなんだけど、ここにはクラゲがいないから大人しいほうかな。」
「大人しいというか、ずっと動かないんだけど。」
「この前は水族館に3時間居たけど、クラゲしか見なかっんだ。そのときはずっと喋っていたかな。」
「ふ~ん。あたしあっちを見てきたい。悠人は?」
「ここにいるよ。前に泣かれて大変だったんだ。」
「そっか。じゃあちょっと行ってくるね。」
10分くらいして由佳ちゃんが戻って来た。
「栞里ちゃん、まだ見てるね。」
「ああ。キョロキョロしているからそろそろだろう。」
栞里ちゃんがこちらを向いて、笑顔になり小走りで駆けてきた。
「悠くん、お待たせ。」
「どうだった?」
「のんびりした子がいて、群れをよけられなくてあたふたしてね、可愛くてずっと見てたの。でね、、、お腹が空いちゃった。」
「御飯にしようか。」
「うん。」
いつの間にか正午を過ぎており、湖が見える広場で昼食にした。芝生の上にシートを敷いて弁当を広げる。
「はい、稲荷ずし。梅を混ぜていてサッパリしてると思うよ。」
「あたしのは、鮭とおかかのおにぎりなんだけど、混ざっちゃってどっちかわからなくなっちゃった。まあ食べてみて。」
「おかずは唐揚げと卵焼き。さあ食べましょ。お腹空いた。」
「それでは、「「いただきます」」」
稲荷ずしを最初に手に取り食べる。酢飯にカリカリした梅の実といくつかの具が混ぜてあり、甘めの油揚げに良く合った。
「うまいな、これ。」
「うふふ、ありがと。」
「だいぶ早起きしたんじゃないか?」
「ううん、いつもと同じくらい。昨日のうちに準備してたし、いつものお弁当より種類が少ないから簡単よ。種明かしすると、これ酢飯にふりかけを混ぜただけなの。だからとっても簡単。昨日のスーパーで、これいいなって思って買ったんだ~。」
「おう、そうか。」
「あたしは寝坊しちゃった。あたしのほうが先に目を覚ましたはずだったんだけど、起きたら栞里ちゃん居なくて、台所に行ったらほとんど出来ててさ、慌てておにぎり作ったんだ。ごめんね、栞里ちゃん。」
「ううん、いいよ。」
「不思議なんだよね。目が覚めたら栞里ちゃんが寝てたから、抱きしめて感触を確かめてたら、二度寝しちゃった。栞里ちゃんが起きるときに気がつくはずだったんだけど。」
「うん、抜け出すのに苦労したよ。」
「で、寝坊したんだけど、それでもちゃんと起きて、おにぎり作ったところを褒めて欲しいな~。」
「ああ、ふたりともありがとう。」
「えへへ~」




