由佳の手料理(2)
栞里さんと由佳ちゃんと三人で近所のスーパーに買い物に来ている。僕はカートを押しながら二人の後を付いて歩く。
栞里さんは食材を見ながらゆっくりと通路を進み、由佳ちゃんはあちこちに動き回っている。カートに次々と食材が入れられていき、3人3食(夕食、朝食、弁当)でこんなに要るのかと疑問に思い始めたころ、栞里さんが説明してくれた。
「多くてごめんね。後で使う分も一緒に買ってるの。大変だけど運ぶのお願いね。」
「わかった。任せてくれ。」
「悠人、これもお願い。」と由佳ちゃん。
「ああ任せろ。」
「なんだか、悠人、お父さんみたいだね。カートを押しながら黙って後ろを付いてくるところ。」
「そうか?」
「どこかに行っちゃったらお母さんから怒られるから。」
由佳ちゃんが楽しそうに笑っている。そういうものなのかと周りを見るが、平日の昼間だから当然だが、お父さんと思われる人の姿が見えない。そういえば父親と一緒に買い物をしたことがないと気が付き、世間一般のお父さんはスーパーでの買い物ではそういうものだと認識した。少なくとも由佳ちゃんのお父さんはそうなのだろう。少し楽しくなり、由佳ちゃんが娘で、お母さんは栞里さんかな?と空想する。
「ほら、こっち来て、お父さん。」
そう言って由佳ちゃんがカートを引っ張り喜んでいる。「おう、ちょっと待て」と言いながら引っ張られるままに付いていき、栞里さんの後を追いかける。
「はい、これで全部揃ったよ。」と栞里さんが牛乳をカートに入れた。
レジでの支払いを終わらせて、袋に入れていく。
「悠くん、はい、これお願いね。」
「えーと、ちょっと多くないか?」
「うん、お願い。お父さん。」と、悪戯っぽく笑う。
その顔を見て、仕方ないなと肩を竦める。
「あ、居た。栞里ちゃん。」
声のしたほうを見ると、由佳ちゃんが小走りで駆けてくる。
「ごめん、お菓子見てたら逸れちゃった。あ、これ持つのね。あたしはどれ?」
「由佳ちゃんはこれ。重いのは悠くんに頼んだところ。悠くん、お願いね。これ背負えるから。」と、買い物袋の肩掛けを掴む。
「ああ、任せてくれ。」
家に着き、居間で一息ついている。
ふたりは台所で料理の準備を始め、僕は椅子に座って寛ぎながらその様子を見ている。テレビを見ていると邪魔だろうし、勉強をする気にもならない。ただ居るだけというのは暇だなと思っていると、栞里さんから声を掛けられた。
「悠くん、出掛けてきたら?」
「いいのか?」
「うん。由佳ちゃんと仲良くするから大丈夫。」
「では、出掛けてくるよ。少し走ってくる。」
「悠人、美味しいの作っとくから。」
「ああ、楽しみにしてるよ。行ってくる。」
席を立ち、手を軽く上げてふたりに合図する。栞里さんが玄関まで見送りに来て「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。
夕方になり帰宅すると、台所からふたりの楽しげな声が聞こえてくる。台所で仲良く料理をしており、揚げ物をバットに上げているところだった。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「悠人、お帰り。」
「お土産にアイスを買って来たんだ。夕食後に食べよう。」
「いいわね、ありがと。御飯がもうすぐ出来るから、シャワー終わったら来て。」
「ああ、分かった。」
栞里さんにアイスの入った袋を渡し、シャワーに向かう。
シャワーから出て居間に行くと、由佳ちゃんがテーブルに料理を並べていた。炊き込み御飯、豆腐の味噌汁、唐揚げ、卵焼き、ポテトグラタン、野菜サラダ。
「美味しそうだね。」
「頑張ったよ。栞里ちゃんに教わりながらだけど。卵焼きだけでもいっぱい失敗しちゃった。食べて貰うものを作るって、大変だね。」
「そうだな。...ありがとう。」
「ん、どういたしまして。」
栞里さんが洗い物を終わらせて、こちらに来る。
「いつもよりちょっと早いけど、食べましょうか。」
「そうだな。」
ふたりが椅子に座る。三人揃って「いただきます」をする。
「炊き込み御飯は、由佳ちゃんがひとりで作ったの。」
「へー。うん、香りも良いし。...美味しいな。」
「えへへ、ありがと。簡単なのよ。麺つゆで味付けして、シーチキンとキノコを入れるだけ。あっ、あと油揚げね。」
「今日買ったやつ? 昆布つゆだっけ。」
「そう。うちで使ってるのを買って貰っちゃった。」
「無かったから丁度よかったの。他の料理にも使ってるわよ。」
「卵焼きも食べてみて、美味しいから。あっ、栞里ちゃんの味だから、悠人はいつも食べてるか。」
「うん、美味しいよ。」
「牛乳入れるのは意外だった。ふわりと出来あがって、美味しくて。」
「気に入ってもらえて嬉しいわ。」
「そのチーズ焼きも食べてみて。あたしが失敗したのを、栞里ちゃんがアレンジしてくれたの。」
「うん、これも美味しい。」
「ポテトサラダを作ってたんだけど、茹でるのが足らなくて失敗しちゃったんだ。串を挿して確かめるの忘れてた。」
「ああ、家庭科でやった憶えがあるよ。そんなのあったな。」
「そう、それ。基本って大事だね。そのポテトにベーコンとホワイトソースを掛けて、チーズを掛けて焼いたの。」
「そうか、美味しいな。」
由佳ちゃんが笑顔で栞里さんを見る。栞里さんも笑顔で由佳ちゃんと目を合わせてから頷く。
ふたりの雰囲気がすこし変わったと思う。楽しそうではあったが、どこかつっかえたような関係だった。それが今は無くなっている。
僕はふっと笑う。
「どうしたの?」と栞里さん。
「仲良くていいなと思って。」
「ん。」
「料理はもう終わり?」
「今日は終わり。明日の朝、稲荷ずしの中身を詰めて、おにぎりを作って、弁当箱に詰めれば完成よ。」
「栞里ちゃんが稲荷ずし。あたしがおにぎりを作るから。」
「楽しみだな。」
栞里さんが思い出したのか、話題を変えた。
「悠くんは、どこに行ってきたの?」
「お寺にお参りして、明日の無事故をお願いしてきた。」
「この前、走ったところ?」
「いや、今日は北に向かった。このあたりかな。」
スマホで地図を表示して指し示す。栞里さんと由佳ちゃんが覗きこんだ。
「名前は知ってるけど、行ったことないな。」
「わたしは知らなかったわ。」
「この辺りでは一番古いお寺だそうだ。」
「お寺には、よく行くの?」
「ああ。お寺と神社だな。」
「ふーん、悠人にそんな趣味があるとは、知らなかったな。」




