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家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: 海來島オーデ
そして僕たちの関係が始まる
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料理(1)


「あ、やっぱり。久しぶり。」

「あら、こんにちは。いらっしゃい。」

「約束、破ったよね。しっかり聞かせて貰うわよ。」

「わかったわ。どうぞ上がって。」

「お邪魔します。」


下川さんは鋭い目つきで栞里さんを睨んでいる。言葉もきつい口調だ。

二人は知り合いだったのか。驚いた。


居間にふたりを招いて椅子を勧める。


「あ、紅茶を入れるから。」

「私はお菓子を用意するわね。あ、悠くん、ティーカップ買ったの。用意するわね。」


テーブルに白磁で無地のティーカップが並ぶ。ティーポットと並べると(さま)になっている。


「いいね、ティーポットに合っているよ。」

「よかった。」


紅茶を注いで「どうぞ」と各席の前にカップを置く。その間に栞里さんがパウンドケーキを持ってきた。


「はいどうぞ。ココアでマーブルにしてみたの。」

「ありがとう、いただきます。」と高橋さん。下川さんは軽く頭を下げた。


栞里さんが各席にケーキ皿を置いてから席に座る。僕の隣に栞里さん。僕の前に高橋さん、隣に下川さんだ。


「下川です。以前はどうも。」

「あ、高橋です。」


下川さんが射るような目付きで栞里さんを見ている。


「家政婦さんですよね。」

「はい。」

「前に話し合ったことを憶えてますか。」

「はい。」

「栞里ちゃんでいい?」

「...はい。」

「あたしがなんで怒ってるか分かるよね。まあ、しょうがなかったんだと思うけど。」

「うん、ごめん。」

「じゃあ、また今から友達ね。」

「え?」

「連絡先交換しよ。あれからスマホ買ったんだ。」

「ん。由佳ちゃん変わらないね。」

「あたしはあたしだよ。」

「ありがと。」

「毎日ここに来てる?」

「うん、毎日いるよ。」

「お弁当のおかずの作り方を教えて。お願い。」

「いいわよ。」

「明日、来てもいい?」

「えっ、うん。」

「10時はどう? 一緒にお昼ご飯を作りながら教えて。迷惑掛けた分は仕事を手伝うよ。」

「うん、大丈夫だけど、お願いするときは言うわね。」

「おっけー。...あ、いただくね。...うん、美味しい。」


パウンドケーキを食べた下川さんが、目を白黒させている。


「ありがと。レシピ通りに作っただけなのだけど。」

「あたし前に作ったらパサパサだったよ。今度作ってるとこ見せて?」

「うん、いいわよ。」

「明日は何を作る? 持ってくるよ。」

「ううん、こっちで用意するからいいわよ。何を作るかまだ考えていないし。」

「それじゃ悪いから。...うん、適当に持ってくるね。別の料理に使ってくれればいいから。岡田くんもお昼食べるでしょ?」

「明日だな。食べるよ。」

「よし、あたしの手料理を食べさせてあげるね。」

「ああ、わかった。」

「ケイちゃんは来る?」

「ん~、私はいいや。」

「残念。じゃあ、明日からお願いします。」

「うん、こちらこそ。」

「えーと、僕の予定は聞かないの?」

「なにか予定あるの?」

「いや、何もない。」

「じゃあいいじゃん。美味しいごはん食べさせてあげるから、楽しみにしてて。」

「はぁー、わかったよ。」


「今日、昼ごはん食べるよね。すぐ作るから待ってて。」

「あたし手伝うよ。」

「私も手伝います~。」


3人で台所に向かった。慌ただしいと思いながらその姿を何気なく見ている。


「キッチン広いね。三人居ても余裕ある。」

「コンロ周りが広いし、楽そう。」

「冷蔵庫が少し離れているから、不満はそこくらい?」

「使ってみると、食材を置く場所が広いから、使うものを冷蔵庫から全部出して、必要な分だけ取ってからまたしまうの。だから全然気にならないわよ。」

「あー、あたし苦手かも。次はあれ出して~とかやっちゃうわ。」

「ゆかちゃん準備できなさそうだもんね~。出したら出しっぱなしだし。」

「もう、その通りだから困っちゃうじゃない。」


三人とも笑い声を上げる。


「それで、何を作るの?」

「カレーライスよ。はいこれ、炒めてもらえる?」

「挽肉ね。任せて。」

「高橋さんはサラダの盛り付けをお願い。はいこれ。野菜洗ってね。」

「任せて~。」

「由佳ちゃん、つぎこれ混ぜて。」

「はいよ。」

「水いれて、全体がグツグツしたら一度火を止めてルーを入れてね。10分混ぜながら煮込んだら出来上がり。」

「はーい。あらかじめ必要な分量で分けてあるのね。」

「うん、用意しながら作るのは大変だから、作り置きできるものは暇なときに準備しとくの。」

「勉強になる。あたし作りながら切ったり量ったりしてたから忙しくて、それで失敗してたかも。」

「高橋さん、最後にゆで卵。切ってから乗せてね。」

「はーい。」


「ごはんよそうわね。」

「出来たからカレー掛けるよ。」


テーブルに料理が並べられていき、全員が席についた。


「「いただきます。」」


「美味しい。ジャガイモ入れてないのに味がする。なんで?」

「ルーと一緒にジャガイモのポタージュを入れたの。固まりがあったほうが美味しいけど、今日は手抜きね。」

「ジャガイモは大変なの?」

「洗ったり芽を取ったり、手間かかるの。」

「あー、そうだね。作り置きは?」

「ジャガイモは冷凍するって聞いてるけど、まだ試してなくて。」

「ふーん。いろいろ考えてるんだね。家政婦さんって大変そう。」

「最初は大変だったけど、いまは余裕があるかな。買い物と料理の時間がほとんどになってる。」

「毎日何時間くらい仕事してるの?」

「うーん、まとめると4時間くらい? いまは学校が無いから、結構自由に過ごしてる。学校始まったら大変かな~。」

「朝早いでしょ? 大変じゃない?」

「ううん、朝ごはんは7時で、6時から準備始めれば十分間に合うから、いまは5時半くらいに起きてるよ。学校始まっても、近いからあんまり変わらないかな。」

「えっ、あんた何処に住んでるの?」

「此処だけど、も?」


下川さんが強張る。僕は苦笑いをする。高橋さんがニヤリと笑い、楽しそうに聞いてきた。


「同棲?」

「違うぞ。同居だ。」

「彼女じゃないの?」

「違う。」

「これからも?」


僕は言葉に詰まる。栞里さんが顔を背けたのが目に入った。


「先のことは分からないが、予定はない。」

「ふーん。」


下川さんに表情が戻り、テーブルに両手をついて立ち上がった。


「あたしも住む。ここに住む。」

「下川さんは駄目だろ。同級生で同居は学校で問題になる。」

「由佳って呼んで、前みたいに。あたしも悠人って呼ぶから。」

「あ~、わかったから落ち着け。」

「落ち着いてるもん。」

「とりあえず座って。」

「ん~、わかった。」


下川さんは座りながら話を続ける。


「一度泊まりに来ていいかな。栞里ちゃんと話がしたいし。あ、もちろん栞里ちゃんの部屋に泊まるよ。」

「まあ、1日くらいならいいかな。栞里さんはどう?」

「うん、いいよ。いつにする?」

「明日は?」

「いいよ。悠くんもいいよね。」

「ああ。」




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