表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家政婦の彼女 -ふたりが夫婦になるまで3―  作者: はじめ みのる
そして僕たちの関係が始まる
1/39

家政婦さんが来た日


「父さん、来週から海外に転勤するから。二年間の予定だ。土曜日に出発する。」

「お父さんの転勤に私もついていくわ。」


僕にそういうと、目の前で両親がいちゃいちゃしだした。「新婚旅行みたいね」とか言っている。仲の良い夫婦で結構だが、僕は穏やかではない。


「僕はどうなる。ひとりで暮らせということか?」

「あなたひとりでは不安なので家政婦さんを呼んでいるの。私達が出発する日、土曜日の午後に来るから仲良くしてね。」

「お金は?」

「お小遣いは銀行に振り込むわ。食費などの生活費は家政婦さんに渡すから、必要になったら家政婦さんに聞いて。」


通帳とハンコを受け取った。岡田悠人(ゆうと)と書いてある。僕の名だ。


「高校にはきちんと通ってね。次は三年生なのだから受験勉強を頑張ってよ。必要なときには帰って来るからね。」


準備が出来ているようで、何を言っても無駄と察した。


「わかったよ。何かあればメールするから。」

「ん、そうね。母さん達が帰るまでこの家を頼むわね。」



一週間が経ち土曜日が来た。父さん達が出発し、居るときは邪魔と感じるときもあったが、今日からしばらく居ないと思うと少し寂しくなる。

午後に家政婦さんが来ると聞いており、どんな人が来るのか不安と緊張で何も手に付かない。ゲームをして時間を潰していると玄関の呼び鈴が鳴った。


玄関を開けると若い女性がいる。僕より頭ひとつ低い程の背丈。ブラウンのロングヘアー、眉毛が細くきりりとしている。ナチュラルな化粧だが、肌が艷やかだ。可愛い顔立ちで、どことなく見覚えがある。


「こんにちは。悠くん?」


聞き覚えのある声に知人を思い出した。


栞里(しおり)さん? 久しぶり。」


彼女は微笑んだ後、真面目な顔をしてから挨拶をする。


「家政婦として来ました、真木栞里です。今日からお世話になります。」

「こちらこそお世話になります。悠人です。」


僕は平静を装うが、内心は慌てている。家政婦の人は勝手におばさんだと思い込んでいたのだが、若い女性が来るとは思ってもいなかった。

僅かな時間固まっていたが、彼女が僕を見ていることに気が付き、ドキッとする。


「あの、お邪魔してもいい?」

「ああ、はい、どうぞ。」


居間に導く。彼女は大きな旅行バッグを持ってきていた。家政婦の仕事道具でも入っているのだろうか。

椅子に座るように促し、僕はお茶の用意をしてから彼女の対面に座った。


「栞里さん、ずいぶんと印象が変わってて、誰だか分からなかったよ。」

「1年ぶりね。だいぶ痩せたから変わったかも。悠くんも変わったね。大人っぽくなった。」


栞里さんは僕の従姉になる。幼少のときから中学生になるまで一緒に遊んでいた。その後は親戚として法事などで会う程度になる。

何を話したらよいのか分からず無言の時間が流れる。彼女は静かにお茶を飲んでから、マグカップをテーブルに置いた。


「荷物を運びたいけど、わたしの部屋を教えて貰える?」

「え?」

「今日からここに住むの。聞いてない?」


僕は聞いていない。一緒に住む? 栞里さんと?


「どうしたの?」


彼女に声を掛けられ、我に返る。


「ごめん、ちょっと考えてた。」


空き部屋はひとつしかない。倉庫になっていたはずで、片付けてあるのか不安だが、行ってみることにした。駄目なら今日は両親の部屋に行ってもらおう。


「たぶんあの部屋だろう。案内するよ。あ、荷物は僕が運ぶよ。」

「ありがとう。」


彼女の荷物を持ち2階に上がる。手前が僕の部屋。その奥の部屋が空き部屋だ。ドアを開けると見覚えのない部屋になっていた。白いカーテンが掛けられ、ベッドが置かれている。

部屋が整っているので、ここで良いのだろう。僕は荷物を置いた。


「多分ここかな。何かあったら言って。」

「うん、ありがとう。」


彼女を部屋に残して居間に戻りテレビをつける。少しすると彼女が降りてきた。デフォルメしたナマズの絵が書かれたエプロンをしている。


「早速だけど、夕食を作るわね。」


台所に立つ彼女の後ろ姿を見ながら、母さんにメールを送る。すぐ返信があったので何度かやり取りした。


「家政婦さんが来た。栞里さんだとは聞いていないし、ここに住むってことも聞いていない。」

「言ってなかったっけ? 以前は仲良かったんだし、問題ないでしょ。もし手を出したら責任とるのよ。」

「仲良かったって言うけど、もうあの時とは違うよ。」

「簡単ではないのは分かるけどね。割り切りなさい。では、仲良くするのよ。可愛いお姉さんが出来て良かったね。じゃあね。」


栞里さんが料理を運んでくる。


「彼女?」

「いや、母さんに。栞里さんが来たとメールしたんだ。」


食卓に料理が並んでいく。温かいご飯に豚生姜焼き。ふたり対面で座り、一緒にいただきますをして箸をつける。


「栞里さんは、なぜうちに?」

「4月から通う大学がここから近いのと、アルバイトを探してたので、丁度良いと思って。」

「其処野大学?」

「うん。」

「家からでも通えるのでは?」

「まあね。住んだほうが交通費が浮いて得だったの。迷惑だった?」

「・・・分からない。正直なところ、どう接していけば良いのか悩んでる。」

「そうね。わたしも悩んだけれど、居辛くなったら家に帰ればいいかなって。」


そういうと栞里さんは、少し寂しそうににっこり笑う。相槌をしながら僕は苦い顔をした。


「悠くんは今度高校三年生でしょ? 進学するの、それとも就職?」

「大学に行く。」

「そう。受験勉強、手伝うわね。」

「ありがとう。」



食後、自分の部屋で寝転びながらマンガを読むが、モヤモヤしてマンガの内容が頭に入らない。気を紛らすためにTVゲームを始めた。

しばらくして、階段を上がってくる音が聞こえる。


「ゆうくん、お風呂できたよ。」

「わかった。」


階段を下りると栞里さんが待っていた。


「明日は時間空いてる? 近くを案内してほしいの。近所に何があるのか知りたいわ。」

「ああ、いいよ。」

「朝ご飯はいつも何時?」

「7時からかな。」

「明日も7時に用意するわね。」

「ああ。」

「出掛けるのは9時ころでいい?」

「わかった。」



いつものように1時間ほど勉強をしてからベッドに入る。勉強の時間は決めていて、22時から1時間だ。科目は曜日で分けている。開始時間は成長につれて後ろにずれて行ったが、寝る前に勉強する習慣はいつの間にか根付いていた。

ベッドに入って間もなく、階段を上がってきてドアを閉める音が聞こえた。栞里さんが隣の部屋に入ったのだろう。

気になって、息を潜め聞き耳を立てると、微かにカチカチと音が聞こえる。パソコンのキーボードを叩く音だろうか。

しばらくして音が聞こえなくなり、僕はいつの間にか寝ていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ