-序章-2人の後を追う
2512年人類は、地球史上最大の危機に瀕していた。資源は使い尽くし、地球の4分の1が砂漠化、今や国と呼べるものは50と存在しない。そんな中資源の奪い合いが起こり、10年に渡って今も続く世界大戦が繰り返されている。
俺は軍事施設に幼少期から入隊し、戦争にも参加している。今はなんとか最前線には出兵せずに済んでいる。1日の半分を訓練に費やし、寝る時間を抜いて余った時間はアニメや漫画を見ている。しかしある日、慣れつつあったそんな日々に終止符が打たれた。わかっていた事だ。自分が所属する10000人の部隊が最前線に行くことになった。
「なんてめんどくさい。」
移動中の車内向かいに座っているゆきという子が言う。15歳という若さで戦争に女でありながらも参加している、はっきり言ってまったく理解不能な存在だ。
「余裕だな。戦争を舐めてるのか?」
この小隊の隊長に言われているが、どう考えてもゆきのように緊張を蚊帳の外に置く思考にはなれない。相手のほとんどはロボットだ。立ち回りができても、銃を乱射され数の暴力で負けるのが目に見えて分かる。人より一回り小さい兵器だとしても数えきれないほどいる。想像したくもない。隣りに座っている和樹もいつものような、調子の良い顔はできていない。
「なぁ、やっぱ俺ら死ぬのかな。ロボット相手に前線を守り続けるって無理じゃねぇの...?」
「軍の上層部からの任務だろ?俺らを駒としか見てねぇような奴らだぞ、俺らは捨て駒で確定だな。」
俺の一言で車内の兵士の顔が一気に青ざめる。その後の車内は、誰も一言も言葉を発しなかった。
戦場について、ようやく戦争というものを実感する。早朝に到着したこともあり。見渡す限り霧、それもただの霧ではなく赤い霧。血生臭い匂いもする。霧が晴れれば、あたり一帯死体と鉄塊がゴロゴロ転がっている。こんな戦場に最低限の物資供給のみで戦い続けなければならない。基地も隠れる気がまったくないことがわかる、草原のど真ん中に建てられている。資源の少なさゆえに、ミサイルなどは使う気は相手もないのだろう。ミサイルが飛んでこないとは言え、誰もが絶望を口にしていた。
それから何度かの激戦はあったものの、基地まで相手を進軍させたことはない。いつも相手の燃料切れを見越した撤退まで耐え続けた。そんなこんなで、もう一年が過ぎる。死体に囲まれた生活だ、不衛生極まりない。案の定、俺は病に落ちる。戦闘にはいくものの、いつも安全なところで見ているだけだ。いつも看病してくれるゆきも戦場で戦っているのに、俺は何もできない。
病にかかって一ヶ月弱、色々なことがあった。俺の体はとうとうダメになった。病でまともに動けない。そろそろ死ぬというところまで病が侵攻している。
「俺ももうすぐそっちに行きそうだよ。夢であってほしいよ。まったく。」
和樹は一週間前に死んだ。足を撃たれて動けなくなり、ロボットの波に消えていった。来た時にいた顔見知り、6人くらいいただろうか。今はゆき1人だけだ。
そのゆきも、俺と同じ病気にかかっていたことが昨日分かった。が、動けるから、という理由で戦場では戦うらしい。いつも明るくても合理的で生意気な奴だが、今日は胸に手を当てながら戦場に向かっていた。俺は何もできない。歩くのがやっとの俺は、装甲車の中で戦況を見守るしかなかった。ロボットも前よりは減ってきている気がする。
ゆきが死ぬ。俺が安全な装甲車で見守る中、堀から出た瞬間に、右太腿から腹まで、5発ほど銃弾が貫通した。まだ意識はあるようだ、吐血しながらこちらを見ている。 目が合う。 その瞬間、ロボットの走行音、銃声、人の声、全てが聞こえなくなった。ゆきは笑っている。いつもはそんな笑顔見せないくせに。すぐ後ろまで迫ったロボットには見向きもせず。こちらを見て。笑っている。
和樹もそうだった。笑って死んでいった。
高速で移動するロボットに跳ねられて、ゆきは宙を舞う。
「うわぁぁああああああ!」
車内で激痛も気にせずに叫ぶ。和樹の時と同じだ、なんとも言えない喪失感が込み上げる。ゆきが死ぬとこなんて想像もしていなかった。都合のいいように、最後まで生き残っていたから、死なないものだと心の中で思っていたのかもしれない。病のせいか心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。銃火器を積んでいるこの車を全速で走らせる。ロボットの波にに突っ込む。周りの軍人も目を丸くしている。気にせずロボットの大群突っ込んだ後は気力もなくなり、意識が遠のく。ロボットの大群の中の装甲車の運転席で、手榴弾の栓を取る。意識がなくなり。装甲車と共にロボットを巻き込んで大きく散る。何もできなかった悔しさに耐えかねて、何かしたいと思う気持ちに身を任せた自爆。残していった味方の役には立つだろう。何もできなかったこと、怒りと解放を求めたこの惨めな死に方をゆきと和樹は許してくれるだろうか...。死んだ後なのに考えることも出来るもんだなと思いながら、なぜかこの神々しいじじぃが視界に入る
気づけば目の前に初老のじじぃが立っている。
「君の死因は病気が原因の1つとして挙げられるね?病気はワシら神の手違いで起きた産物じゃ、ワシも責任を感じている。そこでじゃ、転生させてあげようと思う。もちろん良い家庭で良い生活が待っているじゃろう。少しファンタジーな世界じゃが、悪くはないじゃろう!」
「俺の和樹とゆきへ心の葛藤を返せ!」
こんなに間の悪い野郎は初めてだ畜生!少し経って落ち着いて、話を聞けば、病気が死因にからんで死んだ人は異世界に飛ばされるらしい。輪廻転生って奴だろうか。和樹は確か持病を持っていた、死ぬ少し前からだんだん弱々しくなっていっていた。ゆきも俺と同じ病気が死因に絡んでくる。例外無く異世界に飛ばされるなら、その世界で会うことも可能かもしれない。
「その世界に行った時、記憶はどうなる。」
異世界ファンタジーでは記憶の引継ぎは定番だ。聞いてみる価値はある。
「神の手違いなんでな、希望した者には皆残しておる。他にも人並み以上に色々なことをこなせるようになっておる。どうじゃ?行ってみて損はないだろう?」
「少し前に来た、和樹とゆきもその世界へ行ったぞ。」
「?!...」
決定だ。行くしかない。少しでも希望があるなら、あの2人ともう一度話したい。
「行かせてください...。」
地球でなれなかった、手からこぼれ落ちる物を全て抱えて生きていける存在。その異世界で俺は、
主人公になりたい。
「ありがとう。爺さん、頼むよ。」
これは腐ったあの残酷な世界で無力に死んでいった。何もできなかったらこそ、何もかも出来るようになりたかった者の異世界物語。