転居
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山道を歩き続けること体感、約30分。
「ほい、着いたよ―!」
「おお!」
言われた先には、一軒の木でできたログハウスがあった。
「ほら、入った入った!」
言われて、若干急かされ気味に俺(達)はログハウスの中に入っていった。中は粗末だが、清潔感があった。家具は、ベッドが一つと木製のテーブル、椅子が2つ、そして何故か空の本棚が一つあった。普通置くとしたら箪笥とかだろ。なんで本棚…
「どう?凄いでしょ?」
ミアが「どう?褒めて褒めて?」みたいな顔でドヤってくる。正直ウザい。なんか転生のときに話しかけてきた感じだともっと大人びた印象を受けたが、案外精神年齢は低いのかも。
なんてことを考えながら、俺は正直な感想を口にする。
「ああ。まあ、生活には困らなそうだな。」
言いながら、加奈をベッドに寝かせる。
「でしょ?ちなみに、町までは徒歩で20分くらいになるかな。まあ、山道だから、体感的にはもっと感じるかもしれないけど。魔物とかは普通に出てくるから、気を付けてね!」
「そうなのか。そういえば、言語とかは大丈夫なのか?俺は日常会話に差し支えない程度にはこの世界の言葉は話せるが、こいつは、な。ほら、町に行ったときとか…」
加奈の方を指差す。
「…ああ、それは大丈夫。なんだったら、ステータス魔法を使ってみれば?」
「?…精霊よ、我が力をそこに具現せよ。〈ステータス〉」
ちなみに今のがステータス魔法である。正直、魔法名がステータスとか、やる気あるのか?とは内心思うけど、便利なので目を瞑ってきている。
表示されたステータスには
=========================================
テンリ:[感覚[+視覚(未来視・過去視)][+聴覚][+嗅覚][+味覚][+触覚]]
職業:魔術師
レベル:1
ステータス
体力:120 魔力:470 物防:135 魔防:385
俊敏:215 器用:360 運気:200 耐性:110
スキル
〈言語理解〉
=========================================
「ハア⁉」
思わず声が出てしまった。滅茶苦茶ステータスが上昇している。この世界での能力の平均値がおおよそ150である、ということを考えると…たしかに体力などは平均を下回っているが、魔力…平均の三倍以上とか…純粋に頭おかしいよな。この世界の「強者」のステータスが最高350くらいだからな…
「ね?スキルに〈言語理解〉って追加されてるでしょ?だから――」
「いやいやいやいや!確かにそれもあるけど、何なのこのステータス!え?おかしすぎない⁉」
「…あ!それね…。なんか転生と転移の際に実は体にかなり負担がかかるらしいんだよね…」
そう言ってミアは加奈の方を見た。
「それで、それに二回も耐えきったせいでステータスが伸びてるってわけ。」
「そういうことか…」
うーん。一応、納得はしたんだが、なんていうか転生のときも転移のときも意識がなかったから、正直実感が沸かない。いや、逆か。負担がかかるから意識がなくなる、ってことか?まあどっちでもいい。
「そういえば、加奈の方のステータスはどんな感じなんだ?」
「カナ?…ああ、あの子ね。うーん、君ほどじゃないけど、まあ伸びてるかな。」
「そうなのか。…そういえば、「精霊に適合した」とか言ってたな。どういうことだ?」
「ああ、知らないんだ。君が転生する前に暮らしてたのはサリア小国だっけ?あの辺では精霊に適合してる人は少ない、というか精霊自体珍しいからね。うーん、ギルヴァエン神聖国とかだと結構多いかな。」
「ギルヴァエンって、あの超大国のか?」
「うん。…で、「精霊に適合したってどういうことか」だっけ?精霊に適合するってことは、自分の魔力の一部を精霊に預けて、その魔力によって精霊は具現化できる。かわりに、精霊を宿してる方は代わりに精霊の力を行使することができる。いわば、人と精霊の共存関係、みたいなものだね。」
「わかった。だが、ちょっと待てよ?「自分の魔力の一部を精霊に預けて、その魔力によって精霊は具現化できる」だっけか?つまり、精霊は自然にある魔力を吸収できないってことだよな?」
「うん。そういうことだよ。精霊の力、これを大方精霊魔術って言うんだけど、精霊魔術を使える人のことを精霊術師とか言うんだけど、まあこれは関係ないか。」
「ああ。あと、精霊魔術の内容とかはどうなってるんだ?」
「各精霊毎にちがうよ。それこそ…時間を操作するみたいな普通の魔法じゃ到底なしえないものから、空を飛ぶだけ、とかの魔法の応用でできるようなものまであるからね。」
「ふーん。大体分かった。」
…加奈に適合した精霊の内容が気になる。しかし、だ。
「えーっと、取り敢えずこれからどうすればいいんだ?」
「え?」
「いや、何も無しにここ来たわけだし、な。あるものと言ったら、この服と…、定期、は役に立たないだろうな。鍵、も使いようがないし。あと…財布とスマホか。あっちの金は使えないだろうし、スマホも…電源つかないか。」
「ん?何それ?」
「いや、ただのスマホだけど…?」
「それ使う?使わないんだったらボクにくれない?」
…いつになくミアの目が輝いている。とは言ってもまだ会ってから1時間程しか経ってないんだが。
「いや、電源もつかないし、使うあては無いからいいんだが…」
「本当?ありがとう!」
「っちょ、おい!」
「?何?」
「いや…まあいいや。んで、金の入手とか、方法分からないか?」
ふるふる。ミアが首を横に振る。分からないのかよ…。いや、そもそも、話聞いてるのか?
「さて、どうしたものかね…。」
考える。
………。
………。
ズシッ
………。
ん?
「おいミア、今なんか聞こえなかったか?」
「んー?」
ズシッ
「ほら!まただ!」
「…うん。確かに聞こえた。」
…
…
…
ドガガッ!
「いやーどーするかねーこれ」
「…取り敢えず外行ってくる。」
「りょーかーい」
はぁ。少しは仕事しろって…と内心愚痴を吐きつつ、外に様子を窺いに行く。そこには、
漆黒の鱗に覆われた蜥蜴――人間五人分ぐらいのサイズのやつ――が家に体当たりを繰り返していた。
「……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




