恐怖心
零れそうな涙を、必死で堪える。
これが何の涙なのか、何故自分が泣きそうになっているのか、わからない。
「....っ」
「時間が欲しいだろう。もう下がって、少し落ち着いた方がいい。」
「....はい。」
僕が部屋を出ようとすると、「矛盾していると、分かっている」と大神様が息を吐くように言った。
「厳しいことを言うが、全てを知ってしまった以上、君に拒否権はない。時間は与えるが、あまり待てない。無理かもしれんが、前向きに考えてくれ。また後日、ここへ呼ぶ。」
「...わかりました。失礼します。」
拒否権はない、ね。
部屋を出ると、ミチヒトが駆け寄ってきた。
「何の話してたんだ?...って、お、おい、大丈夫か?!本当に何の話をしたんだ?!それともどこか痛いのか?!」
え?あれ?
ミチヒトの顔を見たら、涙が出てきた。
それに、全身の力が一気に抜け、その場にペタンと座り込んでしまった。
「な、何でもない。大丈夫だから。」
僕は作り笑いをした。
けれどミチヒトは信じてくれなかった。
「なわけないだろ。なあ、どうした?何があったんだ?」
ミチヒトの優しさが、余計に僕の胸を締め付ける。
涙は増し、僕は声を抑えるので精いっぱいだった。
そんな僕の姿を見て、ミチヒトは静かに僕を抱いた。
「っ。うっ、えっ。」
僕もそれに甘えて、ミチヒトのシャツを掴んだ。
「う、うあ、うああああ...」
怖い。怖いよ。
死ぬのが?悪魔が?邪神が?
分からない。何が怖いのか。
分かるのは、この感情が恐怖心だということだけ。
神様はやっぱりいない。
正確には、人間が考えているような神様はいない。
「神様」は、所詮人間の妄想にしか過ぎなかった。
願い事を叶える?ばかばかしい。
いるのは、ストーカーみたいに追いかけてきたり、ノリが軽かったり、人間を生贄や、脅したりする、悪魔だ。
悪魔に責めいられる?
僕からしたら、神様の方が、よっぽど悪魔だ。