エピローグ:大魔王様は帰還する
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あれから、何事もなく……とはいかなかったものの大きな諍いを起こさずに夜会は終わった。
そして、パレス魔王から街に帰ってきて、約一ヶ月経っている。
その間、街を繁栄させたり、こちらの魔王たちと交渉したり。
加えて、神の力の把握などもあり、それなりに忙しかった。
しかし、ようやくアヴァロンに戻る日がやってきた。
……神の力を調べていると神様というのはこんなことまで可能なのか? と驚く反面、逆にできないことも多かった。
神様になれば、世界を渡るなんて簡単だという期待はあったが、現実はそんなに甘くない。
そのせいで、もとの世界に帰るには【転移】に特化した魔物が必要であり、生み出し鍛えるのにこれだけの時間がかかり、今に至る。
「おとーさん、帰ったら忙しくなるの」
「そうだな。とうとう俺がいないことがバレたみたいだしな。予断を許さない状況だ」
今までは、スライム種の魔物を俺に化けさせ、うまく騙せていた。
しかし、ついにばれてしまったらしい。
見た目は同じでも、【魔王権限】は使えない。
敵対する魔王が本気で疑い、ある程度の犠牲を許容するなら、確証を得る方法があるのはわかっていた。
しかし、それを実行してくる奴がいるとは驚きだ。
そんな相手だからこそ、一刻も早く戻る必要が出た。
ロロノがくいくいと俺の袖を引っ張る。
「マスター、戻ったらすぐにゴミ掃除。私も手伝う。……ううん、いらない。神の力があれば、マスターだけでなんとかなる。今のマスターならたいていのことは余裕」
「いや、俺はあくまでこっちの世界の神であって、向こうじゃ力は振るえない……もっとも、こっちで作った土産を持ち帰ることぐらいはできるがな」
もちろん、そうする。
向こうでの強制された魔王同士の潰しあいを止めるには圧倒的な力が必要だ。
争いをやめろと言うだけではなんの意味もない。
まずは圧倒的な力を見せつけた上で、無理やりにでも話を聞かせる。
そのためなら、神の力だって利用する。元の世界で神の力が使えないだけで、神の力を有効活用する裏道はいくらでもある。
創造主も放っては置かないだろう。俺が神の力を使っていると察すれば、向こうもまたテコ入れをしてくる。
向こうの世界での神である創造主はもっと直接的に力を振るえる。
しかし、俺は神という存在のルールを知った。つまりは創造主の底が見えた。
ルールを知ればある程度の対処はできるのだ。
神の力を打ち破る策を練り、俺も、アヴァロンに残った面々も創造主を打ち破るための準備をしている。
ここからの戦いは、魔王たちとの戦いではなく、創造主との戦いだ。
「そうなのですね。気を引き締めないといけません。ご主人様、私からも一つ質問があります。こっちの世界、あの人に任せて大丈夫なんですか?」
アウラがそう言って視線を向けたのは、俺の魔物ではなく、こちら側の魔王。
「大丈夫だ。じゃなきゃ、任せないさ」
アヴァロンも放置できないが、こっちはこっちで不安定だ。
いきなり、よその世界からやってきた魔王が神様になったから俺に従えと言ったところで反発は出る。
俺が【戦争】で力を見せつけ、神の力を手に入れたこともあり、魔王たちは表面上おとなしくしているが、寝首をかこうとしているのは間違いない。
一人、二人見せしめにしてしまうのが一番早いが、彼らは今後の展開で重要な戦力となる。
遺恨は残したくない。
だから、俺が不在時にはこちらでにらみを効かせる神を用意した。
「不在時は任せた」
「まあ、僕にまかせてよ」
俺の不在時は【欲望】の魔王エリゴルに託す。
中性的な少女魔王。ちなみに異界の歌姫ルルイエ・ディーヴァのルーエはキャラかぶりだと彼女を嫌っている。
俺は一部の力を除き、神の権能を授けることができる。
その力があればエリゴルは他の魔王を押さえつけられる。
「ううう、やっぱり不安です。この人、どこか信用出来ないんですよ」
「まあまあ、監視がついてるし。僕も変なことはしないし、できないよ。もうちょっと信じてもいいんじゃない。アウラちゃん」
からからとエリゴルが笑う。
アウラの心配はわかる。
だけど、この一ヶ月の間に起きたとある事件と、彼女が語った願い、その二つが俺に彼女を信じさせた。
……もし、彼女に裏切られたのなら俺はそこまでの男だということだ。
「後は頼む、エリゴル。それに……」
彼女の名前を呼ぶ。
エリゴルのお目付け役だ。
なにかあれば、俺に連絡が来るし、定期連絡がなければなにか起こったと判断する。
エリゴルを信じているが、それでもこういうものを用意しないのはただの手抜きだ。
「じゃあ、魔王様、【誓約の魔物】の方々、あとおまえら、シエルの中に入るのです」
シエルはすでに、少女の擬態をとき、雫型のノーマルモードだ。
その姿が一番、力を振るいやすい。
転移は質量が少ないほど、消費魔力が少なく、精度が上がる。
シエルの中に全員が入らなければ、無事に世界を渡ることはできない。
あごを大きくあけて、次々に俺の魔物たちがシエルの中に【収納】されていく。
そんな中、シエルの横で俺たちを見守る魔物がいた。
「頼んだ。パディル」
「……(こくり)」
それは蛇の尻尾を持った青い馬だった。
こちらの世界で生み出した転移完全特化の魔物。
向こうではティロ、こちらではパディルが同時に専用術式を使うことで、世界を渡れる。
そして、パディルはこちらに残していく魔物の一体だ。
両方の世界からの転移術式でないと世界を渡れない以上、連れていくわけにはいかない。
これから、何度も行き来する予定なのだから。
パディルの他にも、こちらの俺のダンジョンを守る魔物や街を運営する魔物を残していた。
彼らならうまくやってくれるだろう。
それから……。
「本当に俺たちと来るのか?」
「はい、アヴァロンでお勉強させてください」
「好きだから、一緒がいい」
こちらの世界で知り合ったキツネ美少女姉妹もアヴァロンに来ることになった。
こちらに残って人側の代表になってほしかったが、本人たちの希望もあってこうなった。
目的はアヴァロンで学ぶこと。アヴァロンで力をつけてからこちらの世界に戻ってきて、街を治める。
「そうか、ならもう何も言わない。厳しくいくからな」
「はいっ!」
「がんばる」
確かに彼女たちには色々と知識が足りない。勉強してからのほうがいいだろう。
アヴァロンなら教師役は多いし、実務も経験できる。
将来を考えるなら、ありな選択肢だ。
「あの、魔王様たち、そろそろ口を開けてるのが辛いのですよ。早く入るです!」
「すまないな。シエル」
「ごめんなさい!」
「んっ、急ぐ」
キツネ姉妹と共にシエルの口の中に入る。
シエルの中に入ると意識が遠くなっていく。【収納】の副作用だ。
次、目覚めたときは【転移】が終わり、アヴァロンだろう。
寄り道は終わりだ。
アヴァロンについたら懐かしいみんなと再会を祝って、それから本当の戦いを始める。
そう、神殺しだ。
俺たちを弄ぶ創造主を倒し、自由を手に入れる。
……それが難しい場合、つまりは最悪の状況まで追い込まれたら、賛同する魔王と魔物をすべてこちらに移住させるという保険も用意してある。
此処から先は神同士の騙し合い。
必ず勝ってみせよう。
そして、俺達は自由を手に入れるのだ。
今日で一章最終回! ここまでで「面白い」「続きが読みたい」と思っていただければ画面下部から評価をいただけると幸いです!
また、今回を区切りにしばらくお休みさせてください。魔王様の街づくり→大魔王様の街づくりの間を埋めるか、あるいは大魔王様の二章を書くか、それとも別の選択をするか。魔王様を取り巻く環境次第で考えたいと思います
ここまで、魔王様の街づくりシリーズを読んでいただきありがとうございます!!