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第二十六話:大魔王様と強くなった【誓約の魔物】たち

本日、魔王様の街づくり(GAノベル)七巻が発売です! そちらもぜひ!

 戦争がはじまり、プロケルは自身が先頭に立ち誓約の魔物たちを連れて攻めていった。

 戦力は三体の【誓約の魔物】とわずかばかりの【収納】されていた魔物のみ。

 だれがどう見ても自殺行為と言わざるを得ない。


 ダンジョン戦では、攻めと守りでは圧倒的に守りのほうが容易い。

 守りが優位な理由は数多くある。ダンジョンとは敵の侵攻を想定して、罠をしかけ、魔物を配置し、自身の操る魔物が優位な戦場を用意したもの。


 それを少数精鋭で突き進むのは、愚かだ。

 この【戦争】は創造主の手によって、パレス魔王で放映されている。

 こちらの世界の魔王たちはわずかな手駒で【樹】のダンジョンに踏み込んだプロケルを嘲り笑い、「おいおいおい」「死んだなあの魔王」「相手はあの【樹】の魔王ですわよ?」なんて言っていた。


 彼らは正しい。

 プロケルにはこちらの世界に飛ばされたばかりで、戦力が乏しいという事情がある。

 勝つつもりがあるのなら攻めを捨てて守りに戦力を集中させるのが定石だ。


 少ない戦力をわざわざ分散させ、不利な攻めを少数戦力で行うなど、論外の愚行。

 しかし、それはあくまで連れている魔物が常識の範疇にいる場合。


 数分後、世界最高の鍛冶師にして錬金術師、エルダー・ドワーフのロロノが作り出した十二機の最高傑作機ラウンズ。


 その一体、アトミック・スカーレットの放つ滅びの一撃を目にして、放映を見ていたすべての魔王、水晶で監視していた【樹】の魔王の顔面が引きつり、次に浮かんだのは恐怖。


 彼らの心は一つになっている「ありえない」。

 たった一撃で百をも越える魔物たちが塵も残さず消え失せた。

 その中にはAランク、それも変動レベルで生み出され極限まで鍛え上げられた魔物も多くいた。

【樹】の魔王は多くの魔王から魔物を借り受けている。


 事実上、これは【樹】の魔王と【創造】の魔王の戦いではなく、こちらの魔王連合VS【創造】の魔王の戦い。

 多少強力な魔物がいても、質を伴った数で押しつぶせる。

 そう【樹】の魔王は侮っていた。

 ここまでの質は想定していなかったのだ。


「なんだ、あの光は、あんなの、ありえない」


 樹の魔王が、水晶の部屋でガタガタと震えていた。

 理不尽なまでに圧倒的で暴力的、すべてを滅ぼす光。

 あの光を撃ち込まれたら負けだ。

 何をどうやっても防げない。


 あれだけの力を一魔王が持てるはずがない。あの力は創造主のそれで規格外すぎる。

 不公平すぎる。

 あんなものを異世界の魔王は平然と使うのか?


 魔物たちが死に際によこした通信では、あの滅びの光を放ったゴーレム、それと同等のものがまだ十一機もいるらしい。

 そして、プロケルが率いる三体の魔物はそれ以上に強いとある。


 なら、いったい、あの滅びを何発撃てるというのだ。

 震える手で、【樹】の魔王は魔物たちに指示を出す。

 心は出会いがしらの一発ですでに折れかけている。

 だけど、彼にはこの世界を代表する魔王としての意地と誇りがあった。

 それが彼を最後の最後で支える。


 負けられない。

 正面から挑めば虐殺される。

 だから、勝つことだけを考える。


 別に相手を全滅させなくてもいい。ただ、魔王の首を取れば終わりだ。

 範囲攻撃を喰らわないように、魔物たちをちりぢりにさせ、全員にわき目もふらず魔王だけを殺すように命じた。

 死角からの一撃、超遠距離からの狙撃、異空間からの不意打ち、ダンジョンに毒を充満させる。

 やりようによっては、戦いを避けつつ【創造】の魔王を殺せる。

 それに特化させる策を次々に与える。


 彼は優秀だった。……ただ、惜しむべきは圧倒的ではなかったこと。

 彼は【創造】の魔王という圧倒的な相手と戦うにはあまりにも力不足だった。


 ◇


 金髪で煽情的な体を持つエルフが不機嫌そうにしていた。


「ふう、舐めているんですかね。その程度で私の眼を私の風を欺けると思うなんて……そんなにふざけられると、うっかり殺しちゃいます」


 エンシェント・エルフ、アウラの瞳が翡翠色に輝いている。

【翡翠眼】。

 世界樹の守護者たる原初のエルフにのみ与えられた魔眼。

 千里眼、透視、霊視、超動体視力、未来視というポピュラーな魔眼の能力は備えたうえで、気や魔力、思念すらを見通す。

 その眼から逃れることはできない。


 加えて、エンシェント・エルフは風に愛されている。

 半径一キロにわたり、その風と感覚を共有する。

 風がすべてを彼女に伝える。

 ゆえに、風が満ちる空間に身を置いている限り、彼女から逃れることは不可能。


 七百メートル先で、樹木に擬態していた魔物のもとに風が集まり、魔物は圧縮され、押しつぶされる。

 土の中に潜り、様子を覗いていた魔物は、その空気穴に二酸化炭素を流し込まれ肺の中の酸素をすべて持っていかれ死亡。

 異空間から狙いを定めていた魔物は、異空間から首を出した瞬間に風の刃で首を切断される。


 ありとあらゆる奇襲がただ一人のエルフによって無効化される。


「むう、アウラは頑張りすぎなの。敵を見つけて処分するのが速すぎてクイナの出番がないの」

「それが私の取り柄ですからね。クイナちゃんは火力、私は斥候、ロロノちゃんがバランス役。私が瞬殺できないのはちゃんと任せます」

「たぶん、クイナの出番はないの。ここには強くてもふつーのAランクくらいしかいない。……物足りなすぎるの。よくこれで、おとーさんに喧嘩を売れたものなの。おとーさんを馬鹿にしすぎ、殺したくなるの」


 クイナがつまらなさそうにして、アウラはそんなクイナを撫でる。

 その合間に、空からこちらを狙っていた鳥型の魔物は、急激に周囲の気圧が下がったことで耳から血を吹き出しつつ墜落。

 アウラの対処は早すぎて、的確過ぎる。

 半径一キロの風を完璧に掌握している故の索敵性能と攻撃速度。


 昔は、もう少し控えめな能力だったが、本物の世界樹と出会い、その寵愛を受けたことでアウラは大きく力を増した。

 ……今の彼女は、世界樹の守護を行う種族として生まれただけでなく、まぎれもない世界樹の巫女だ。


「アウラ、さっきからかなりハイペースのようだが、魔力は持つのか?」

「大丈夫です。アヴァロン特製の黄金リンゴポーションを飲んでいますから」


 アヴァロンの始まりの樹。疑似世界樹には黄金のリンゴが実る。

 それを使ったポーションは他のポーションとは一線を画す性能がある。


 魔力の回復量を高めるものを飲んでいれば、これぐらいはできるか。

 そんなふうにして次々にダンジョンのフロアを抜けていく。

 アウラの索敵能力は敵の発見だけじゃなく、地形の把握や罠の発見にも役立つ。


 最短経路を容赦なく進んでいるので踏破ペースが凄まじい。

 そうして、五つの階層を抜けて、第六階層の第二フロアに差し掛かった。

 そこは入り組んだ坑道で、少し息苦しい。

 アウラが風で見つけた敵について説明する。

 対処ではなく説明をしたということは、アウラの手に負えない相手ということ。


「ようやく、クイナのお仕事なの」


 クイナがもふもふのキツネ尻尾をぶんぶんと振る。

 出番が来て嬉しいようだ。

 アウラの話では、金属で出来たゴーレムの大群が待ち構えているらしい。

【樹】のメダルからはゴーレムが作れる魔物がいるとは考えにくい、おそらく借り物だろう。

 金属製のゴーレムとなると風では破壊し辛いし、背負っているアンチマテリアルライフルの弾丸で処理すると貴重な弾薬を浪費する。アウラとは相性が悪い。

 だが、クイナの火力なら苦にならない。


「行ってくるの!」


 飛び出したクイナの尻尾をロロノがぎゅっと掴む。


「こやっ!? 何するの! 尻尾はでりけーとなの! あと、おとーさん以外さわっちゃダメなの」

「クイナは切り札担当。相手の最強戦力と戦うために温存。マスターの指示忘れた?」

「それはそうなの。でも、ちょっとぐらいならすぐに回復するの」

「却下。常に万全でいて。いつ敵が仕掛けてくるかわからない。私とアウラで処理できるものは処理する。それに、そのゴーレム軍団に興味がある。異界の技術で作られたゴーレム。たぶん技術系統が根っこから違う。その技術、私のラウンズの糧になりえる」


 ロロノの眼がらんらんと輝いている。

 ……この子はこういう子だ。研究バカ。どんなときでも貪欲に知識を得ようとする。


「むう、それロロノちゃんが戦いたいだけなの」

「否定しない。でも、マスターの命令に従っているのは私のほう。きつ寝でもしておいて」


 ちなみにきつ寝とは丸まりつつ尻尾を枕にして寝る高等技術だ。

 あれはとても可愛らしい。


「ラウンズ。インフィニティ・グリーン。フォートレス・ブラウン、前へ」


 ロロノが二体のラウンズに指示を出す。

 インフィニティ・グリーン。緑は継続戦闘能力、つまりは戦い続けることに特化したラウンズ。

 自動修復機能、魔力吸収機構、極限までロスを排除した最高効率の機体。周囲の物質を取り込むことが可能で、取り込んだ材料を使い弾丸の補充やパーツまで生み出す。

 そのうえ、大破しても動き続けることができる。

 永遠に戦い続けることを目的とした機体。

 一切の誇張なしに無限に戦い続けられる。長期戦ではもっとも頼りになる機体だ。


 そして、フォートレス・ブラウン。

 その役割は要塞。

 絶対防御、特殊な装甲を幾重にも重ね、そのうえで魔力結界と特殊な防御機構まで持っている。

 傷一つつけられず、その防御力をときには攻撃力へ転換できる。

 永久機関と絶対防御。

 この二体を選んだ意図は明白。戦力の温存。

 ……それと、相手のゴーレムをじっくり見たいという気持ちだろう。

 他のラウンズなら一瞬で勝負がついてしまう。

 この二体は攻撃力だけならラウンズとしては平均以下。


「ロロノ、趣味に走るなとは言わないが時間をかけすぎるなよ」

「ん、弁えてる。すぐに砕いて、ばらして、フォートレス・ブラウンで回収。二分もかからない」


 フォートレスの特殊能力を忘れていた。

 あれは要塞。武器・弾薬の貯蔵及び、鹵獲した機体の運搬もできる。

 限定的だが、分厚い装甲の下に物質を異世界に保存できる機構がある。

 異界のゴーレム軍団に、インフィニティ・グリーンとフォートレス・ブラウンが突っ込んでいく。


「でっ、そうなるとやっぱり、こう来ますよね。わかりやすいです」


 アウラが背負っていた、アンチマテリアルライフルを引き抜き、視線を向けることすらなく背後に向かって発砲。


「あんまり同族殺しは好きじゃないですが、マスターを狙った以上、是非もありません」


 アウラが振り向く。

 遥か後方には、首から上がなくなった高位エルフがいた。

 正面のゴーレム軍団は囮だ。

 ただの暗殺は通じないと考え、次は陽動作戦に出たのだろう。

 しかし、相手が悪かった。アウラは油断などしない。

 そして、風ではなくアンチマテリアルライフルを使ったということは、それを使わないといけないほどには強い魔物。

 クイナが反応していないことから、超高レベルの隠密系スキルもあったはずだ。

 おそらくは切り札の一枚。

 それがアウラの前ではこうも無力。


「さて、ロロノちゃんはどうでしょうか? おっ、敵もそれなりにはやるようですね。インフィニティ・グリーンとフォートレス・ブラウンだけじゃ時間がかかるのか、もう一体投入しました。でも、これで終わりですね」


 あっさりと異界のゴーレム軍団は壊滅し、フォートレス・ブラウンがそれを回収する。

 ロロノは無駄を嫌う。少なくとも、あの残骸を回収する価値はあるらしい。


「さあ、行こうか」


 まったく危なげなく俺たちは進む。

 けっして敵が弱いわけじゃない。

 俺たちが強すぎる。

 一年前の俺たちならもっと苦労しただろう。


 自在に、【空狐】への進化ができない天狐のクイナなら……。

 ラウンズを揃えられていないエルダー・ドワーフのロロノなら……。

 世界樹と出会い、世界樹の巫女になっていないエンシェント・エルフのアウラなら……。

 あるいはぎりぎりの戦いだったかもしれない。


 しかし、現実はこうなっている。

 悪いが容赦はしない。

 このまま押し切らせてもらおう。

 

本日七巻発売ですよ! 単行本がなろうの魔王様の街づくりに追いつきそう。いずれは大魔王様と魔王様の間も書けたらなと……


いつも応援ありがとうございます! 面白いと思っていただければ画面下部の評価をしていただけるとすごく嬉しいです!

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GAノベル様から魔王様の街づくり 七巻が発売!
書き下ろしではルーエが大活躍!
↓の表紙はこちらに!
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