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第二十五話:大魔王様の殲滅戦

 戦いが始まる。

【樹】の魔王の軍勢が一気に俺のダンジョンに雪崩れ込む。

 魔王同士の戦いは先に【水晶】を砕いたほうが勝利する。

 ゆえに、一秒でも早く仕掛けることは間違ってはいない。

 ……ただ、あまりにも素直すぎる。

 こちらの世界の魔王は【戦争】慣れしていないのかもしれない。


 創造主はこの世界を失敗作だと言った。そして、あいつは失敗作に関心を向けないし、時間を割かない。

 魔王たちにとって【戦争】というのは非常にリスクが高く、創造主のテコ入れでもなければ滅多に起きないもの。創造主が、こちらの魔王たちで遊んでいないのなら、彼に【戦争】経験が少なくても無理はない。

 それに対して、俺は若い魔王ではあるが徹底的に創造主に玩具にされたせいで、【戦争】慣れしている。


「ロロノ、一番槍を任せる」

「ん、とっておきをお見舞いする。ラウンズの紫と緋を使う」


 世界最高の鍛冶師、エルダー・ドワーフたるロロノ。

 彼女の作るゴーレム、その中でも特級性能を持つものをアヴァロン・リッターと呼ぶ。


 さらに、そのアヴァロン・リッターのなかでも生産性・コストを度外視した上で、汎用性を捨て、それぞれの得意分野に特化させた特機が十二機存在する。


 それをロロノは【円卓騎士ラウンズ】と呼んでいる。

 例えば、赤は超重装甲・超推進力、超火力の突撃仕様。

 例えば、白は超軽量・超航空性能・超精密砲撃の空戦仕様。

 例えば、黒は超機動力・超汎用・超頭脳の指揮官仕様。

 というふうに。


「きて、アトミック・スカーレット」


 ロロノの命令で、緋色のラウンズが起動する。

 他のアヴァロン・リッターに比べて一回り以上巨体であり、ずんぐりした体型であり、マッシブな印象を受ける。

 特徴的なのは、その背には己と同じサイズの巨大なミサイルを搭載していること。


 緋色が得意とするのは広範囲殲滅戦。

 ラウンズ最強の瞬間魔力放出量と、それに耐えうる機構と強度を持ち、その圧倒的な放出量を完全に制御し、無駄なく使い切る能力を獲得させた。


 この巨体と超重装甲は、敵の攻撃に対する備えではない。

 圧倒的すぎる魔力放出を可能にするためであり、自らの攻撃の余波に耐えるため。

 その代償に、機動力は最低、格闘能力は皆無、総合的な能力であれば通常型アヴァロン・リッターにも劣るだろう。

 しかし、その一撃は何ものをも凌駕する。

 広範囲殲滅、ただその一点だけを突き詰め、他を切り捨てた機体。

 俺はけっして嫌いじゃない。

 ……そして、こいつの力を活かすには必要なものがある。


「マスター、紫からデータが転送されてきた。敵は定石通りの動き」

「やはり、【樹】の魔王は素直すぎる」


 この場合の定石は、第一層、第一フロアに障害物や壁などをあえて配置しない見晴らしのいい広い空間を作り、そこに大戦力を送り込む戦術をさす。

 だだっぴろい空間というのは、大軍にとって優位なフィールド。

 入り口から侵入してくる少数の敵をあらかじめ用意した大戦力で叩き潰すというのは理にかなっている。

 悪くない。

 だが、そんな定石は腐るほど見た。

 腐るほど見たがゆえに、それに対抗する定石が俺の中にある。


「ロロノ、データ分析にどれぐらいかかる?」


「あと二十秒……ん、問題ない、吸収・反射能力を持ってるのはいない。緋の一撃を以て壊滅させられる。紫を呼び戻す」


 数十秒後、ロロノの言葉に応えるように、何もない空間から紫が染み出て、人型の機械となる。

 スリムで凹凸がない機体。

 これもまたラウンズ。

 名をインビジブル・ヴァイオレットという。

 紫の特化機構は隠密・情報収集。


 可視光を遮断し、一切の熱を発さず、匂いはなく、音もなく動き、魔力を漏らさない。完全なステルス。

 魔物の【気配感知】すら無力化するほどの隠密性能であり、そのうえで各種の優秀なセンサーを搭載している。


 紫の役割は斥候、誰にも気づかれずに侵入し、情報を持ちかえってくること。


【誓約の魔物】であり、俺と繋がっているロロノなら、紫のデータから魔物の種類・ステータス・スキルまで分析できてしまい、敵は丸裸となる。


 敵の大戦力に対して広範囲殲滅攻撃をぶちかますのは悪くない手だが、気をつけないといけないことがある。

 一歩間違えればこちらが壊滅してしまうリスクがあるのだ。

 物理や魔法の無効スキルをもっている魔物がいるだけなら、まだいい。なにせ、魔物すべてがそのスキルを持っているわけでない。こちらは戦力を削れればいいのだから。


 やばいのは反射スキルや吸収スキル持ちの魔物がいる場合。

 安全に広範囲殲滅魔術をブチかますには、情報を集め、それを逆用されないことを確認しなければならない。

 そして、紫ならそれが可能。

 ロロノが紫から受け取ったデータをもとに、緋に指令を出す。


「緋のラウンズ、アトミック・スカーレット。奴らを殲滅する元素は炎。……アトミック・バスター、モードファイア発射準備」


 ロロノの命令で、緋のラウンズが発光する。

 凄まじいまでの魔力光。

 アヴァロン・リッターなど、ツインゴーレムコアを搭載機種のみができる【バーストドライブ】。


 一時的に魔力放出量を数倍にまで高められる。

 その際の魔力放出量はSランク魔物すら凌駕する。

 そして、緋が一回り大きい理由はツインゴーレムコアではなく、トリプルゴーレムコア、一基ジェネレーターが多いこと。

 むろん、通常の機体ならそんな魔力に耐え切れず、魔力回路が一瞬で焼き切れる。


 しかし、この巨体にはそれに耐えるための特殊な魔力回路を搭載している……頑丈な分いろいろと問題がある魔力回路ではあるが。

 通常のものと比べ反応速度が著しく低いからレスポンスが劣悪、重量は大幅に増加、物理的に大きいから関節部の動きに干渉して設計に大きな制限を受ける、動作に柔軟性がないから魔術に応じて変化させることができず、予め仕込んだ単一の魔術しか使えない、と欠点だらけ。

 それでも、一撃をもって殲滅することだけを考えるなら問題ない。


「いつ見ても緋の力は圧巻だな」

「ん、私の自信作。ただ、殲滅しつくす、それだけを追求した意欲作。欠点は他の子が補う」


 そんな圧倒的な魔力すべてが背部に背負っている巨大なミサイルに吸収されている。

 これこそが、アトミック・スカーレットの必殺武器、アトミックバスター。


 科学と魔術の融合。

 超火力の兵器に、魔力の力が加わる。

 アトミック・スカーレットに唯一許された魔術、それはアトミック・バスターへの【装填チャージ】。

 その場その場で適切な属性の一撃へ昇華する。

 選択肢は炎・氷・闇・光・無。

 今回選ばれたのは炎。


【樹】の魔物らしく、炎を苦手とする魔物が多いことは紫の持ち帰ったデータからわかっている。

 紫のデータが、緋を活かす。

 甲高い音が緋の背負うアトミック・バスターから響き始める。

装填チャージ】完了。


「マスター、命令を」

「ああ。アトミック・スカーレット、ぶちかませ」


 機械音で命令に応え、緋は敵ダンジョンに足を踏み入れていく。


「マスター、アトミック・スカーレットの映像見る?」

「ああ、面白そうだ。見させてもらおう」


 緋と一緒に、ダンジョン内に入れば、そんな手間はないのだが、いかんせん、あれの攻撃はおおざっぱすぎる。

【樹】の第一フロアはせいぜい九万平米。

 ……そんな狭さじゃ、どうやってもアトミック・バスターに巻き込まれる。

 あれはそういう兵器だ。

 ロロノが手元のデバイスを操作すると、空中に動画が投影される。

 さて、【樹】の魔王は俺の第一手をどう受ける。為すすべもなく大損害を受けるのか、あるいは対応してくるのか、見ものだ。

 ◇


 緋色に輝く、鋼の巨人が進軍する。

 フロアに足を踏み入れた途端、それを待ち構えていた【樹】の魔物たちが一斉攻撃を開始する。

 ドルイド系列の魔物たちが木矢や魔術を放ち、人面樹たちは植物操作能力を使い、緋の周囲の木々の枝が襲い掛かる。

 土属性魔術の使い手も多く、石礫や鉄の槍なども降り注いでいる。

 しかし、緋はまったく怯まない。

 当然だ。

 緋は自らの攻撃の余波に耐えられるように設計されている。それに比べれば、この程度の攻撃は雨粒のようなもの。


 緋は【装填チャージ】を済ませてからも【バーストドライブ】を起動し続けている。

 その魔力をすべて装甲に循環させ、守りに使っていた。

 そうでなければ、これから引き起こす災禍に耐えられない。


 ……そして、それは始まった。

 緋が背負う巨大ミサイル、アトミック・バスターが発射される。ブースターが点火し、天井付近まで上昇。

 その後、フロアのど真ん中めがけて急降下。

【樹】の魔物たちが、対魔術用結界を複数人がかりで展開。


 おそらく、広範囲魔術に対する備えなのだろう。大戦力を一か所に集中する以上、リスクを認識し対策を怠らないだけの頭はあったようだ。


 だが、悲しいかな、莫大な魔力が込められたことで魔術と思ったようだが、現時点では純然たる兵器。対魔術防御の有効性は低い。

 圧倒的な質量とブースターの推進力で結界をガラス細工のように砕き、そのまま地面に半分埋まる。


【樹】の魔物たちはその様子を見て、どこかほっとした顔をした。肩透かしだと思っているようだ。

 しかし、それは間違い。

 アトミック・バスターに込められた魔力が臨界まで膨れ上がり、数秒後、殲滅が始まる。

 灼光がすべてを覆いつくす。

 しっかりと警戒して防御スキルや魔術を使った魔物もいたようだが、灼光の前にはなんの意味もなさない。

 あまりにもエネルギー量が違いすぎる。

 太陽にバケツ一杯の水を注いだところでどうにもならない。


 アトミック・バスターのベースは、小型核ミサイル。

 アトミック・スカーレットは核ミサイルを運用するために作られた機体なのだ。


 史上最強の兵器が、禁忌の発明が、すべてを貪りつくす。

 そして、その核の光に別の色が混じる。

 それは魔力の光、トリプルゴーレムコアによる【バーストドライブ】によって【充填チャージ】された魔力によって核の光が一部、炎の魔術に変質しているのだ。


 完全に変質させないのは確実に多くの魔物を殺すため。

 核の光という物理攻撃と、核の光を魔術に変質させた魔法攻撃の同時攻撃を為すために、あえて魔術変換は三割にとどめている。

 物理攻撃無効の魔物も、魔法攻撃無効の魔物もそれなりにいるが、その両方を持つものはほとんど存在しない。

 事実、破滅の光が去ったあと、そこに立っているものはアトミック・スカーレットのみになった。


「……相変わらずの破壊力だな」

「んっ、核は強い」


 核ミサイルなんてものをロロノが作ったときはどうしたものかと頭を悩ませたが、俺が今まで戦ってきた戦場では、これがなければ負けていたものもある。

 だから、今は割り切って使っている。


「アトミック・バスターはあと何発ある」

「あと二発。次は撃てるだろうけど、その次は怪しい。いくらアトミック・バスターの数があっても、アトミック・スカーレットが耐えられない」


 アトミック・スカーレットのデータが表示される。

 あの重装甲でトリプルゴーレムコアの【バーストドライブ】で己を守ってすら、装甲の大半が脱落、内部機構にまでダメージを受けていた。

 アトミック・スカーレットが装甲をパージする。

 もとより核の余波に耐えられないことは想定済み。一発撃つごとに装甲を換装することが前提になっている。

 それほどまでに、核の威力は規格外なのだ。


 防ぎ切れずに内部機構に負ったダメージもそれなりに深刻。幸い、ジェネレーターと魔力回路は無事だが、二発目を放てばおそらくどちらかは確実に損なわれる。三発目はない。

 残り、一発のアトミック・バスター。使いどころは慎重に選ぼう。


「さて、行こう。露払いは済んだ」


 敵の大群は焼き払った。悠々と進める。

 そして、これを見せてやったのだ。【樹】の魔王は、この戦争において、今後大戦力を一か所に集中するという手を使えない。

 なにせ、相手はアトミック・バスターをあと一回しか使えないことを知らない。大戦力を集めれば、即座に潰されると想定するしかない。

 それは数の利を封じるに等しい。


 いきなり切札の一枚を披露するのは少々もったいないが、ここで相手の数の利を潰せるなら割に合う。

 そして、少数同士の戦いで俺の【誓約の魔物】やラウンズが後れをとることはありえない。確実に各個撃破しながら進んでいける。

 これこそが、俺の定石。数多の戦いの中で身に付けた、最適解。


「やー、次はクイナが活躍するの!」

「クイナちゃん、作戦を忘れたらダメです。クイナちゃんの役割は向こうのエースを叩き潰すことですから、力を温存しないと」

「ううう、残念なの」

「雑魚は、私とラウンズがなんとかする。いこっ」


 ロロノがラウンズを引き連れ先頭を歩く。

 活躍したこともあり、どこか誇らしそうだ。


 ラウンズは緋と紫だけじゃない。残り十機。それぞれが緋や紫に匹敵する、恐るべき能力を秘めたロロノの最高傑作たち。

 この【戦争】、ともすればラウンズだけで決着がつくかもしれない。


 ……そういえば、守りの方はどうなっているだろう。

 シエルがいるし、きっとうまくやるだろう。

 あの子は、アヴァロンにいるみんなの弟子だ。

 デュークに鍛えられただけあって、その用兵は冴え渡っている。だからこそ、安心して守りを任せられるのだ。

 

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