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第二十四話:大魔王様は開戦する

【戦争】の開始と共に、【誓約の魔物】たちを呼び寄せた。

 クイナ、ロロノ、アウラ。

 これで勝算は十分ある。

【転移】が完全に終わったところで、脳裏に創造主の声が響き始める。


『ルールを説明をしよう。先に敵対魔王の殺害、敵ダンジョンの破壊。いずれかに成功したものが勝者となる。これは本物の【戦争】だ。一切の救済措置はなく、失われたものは戻らない。三十分後に開戦だ。それまでに準備を整えるといい』


 至ってシンプル。

 慣れ親しんだルールと言っていい。

 この場合、重要なのは攻めと守りのバランス感覚。

 そして、魔王という駒をどう使うかだ。

 魔王を殺害されれば終わりというルール上、ダンジョンに引きこもるのが定石ではある。

 しかし、魔王を攻めに使うというのは大きなメリットがある。

 何を置いても【収納】の存在。

 ダンジョンはフロアごとに設定でき、飛行能力や水中適性がない魔物が極めて前進し辛かったり、大型の魔物が入れないものがある。

 フロア作成時に、飛行能力、水中適性、そういったものがなければ絶対に進めない……なんてものは制限のせいで作れないが、極めて進みにくいものなら作れてしまう。後者の大型サイズが入れないフロアは比較的容易に作成可能。


 いくら強力な魔物でも、最深部に物理的にたどり着けないと意味がない。

 歴戦の魔王ともなると意図的にそういうフィールドを最深部までの道のりの中に設置する。

 ただ、あまり侵入を防ぐことを優先すると、自らの魔物すら行き来できずに多くの制限を受けることになるので、やりすぎは禁物だ。

 ……俺もその手法を取り入れている。

 そんなダンジョンを突破する際に、【収納】という魔王特権が生きる。魔王さえ、侵入できれば、【収納】していた魔物が呼べるのは極めて強力。


 シエルやスラ丸のようなSランクスライムでないと、魔王のように魔物を【収納】できないのは、それだけ強力な力だからだ。


「みんな、作戦会議をしよう。防衛には、シエル、スラ丸、ゴーレム軍団、それから、ここに来て生み出したBランク魔物すべて、それからずっと俺を守ってくれていた彼女を使う」


 今日、【夜会】で【戦争】になることは読めていた。

 だから、DPは惜しまず使い、ダンジョンのフロアを凶悪にし、購入可能なBランクの魔物は可能な限り購入した。

 さらにシエルが体内に【収納】していた武器を装備させている。


「シエル、【完全模倣】はどれぐらい使える?」


 さきほどティロに【完全模倣】したときにかなりの魔力を消耗したはずだ。


「ぴゅむむむむ、たぶん、五秒ぐらいなのです」

「意外に残ったな」

「思った以上に、ここからの【転移】に力を使わなかったのと、ティロがめちゃくちゃがんばってくれたです。迎えにいく力は少しで済んだのですよ」


 ティロはきっと気をきかせてくれたのだろう。

 犬型の魔物ではあるが、あの子は非常に賢い。


「五秒か、敵の切り札を一体潰すだけなら十分だな」

「なのです! 攻めに回るのはきついですが、こっちの防衛をぶち抜いてきた、敵の切り札を一つぶっ潰すぐらいはやってやるのですよ。五秒しかないと、変身先に迷わず済むのです。なにせ、変身かまして、即死攻撃ぶっぱしかできねーですし!」


 まあ、そうだな。

 問答無用の即死攻撃なら、あいつしかいない。

 このダンジョンは即席だが、守りは固い。

 突破してくるものの数は限られる。

 何より、俺の世界と違い、俺の手札がばれてない。大打撃を受けてくれるはず。

 それらに、パッチワークで辛うじて動く三体のアヴァロン・リッターと、それなりに数がいるミスリル・ゴーレムが主力で防御。サポートはBランクの魔物たち。

 それでもダメなときはシエルがその力を振るう。


「攻めはクイナ、ロロノ、アウラ。それから【収納】にいるクロノスで行う。ロロノとアウラが露払い、敵の急所でクイナとクロノスが力を爆発させる。クイナは魔力を温存してくれ、自然回復が追いつかない魔力消費を禁止する」


 三体の【誓約の魔物】に加え、時空魔獣竜クロノスを攻めの主軸にする。

 クロノスは金獅子の獅子と鬣を持つ、白銀の魔巨竜。

【狂気化】持ちであり、理性を失う代わりに全能力を一ランク上昇させることが可能。

 そいつはそのデメリットを無効化し理性を保つことが可能。

 しかし、その狂暴性をあえて抑えずに暴れまくる困った奴だ。

 ……ただ、強い。圧倒的なまでに。

 天狐に次ぐ力を持っており、切り札の一枚。

 扱いにくくはあるが、敵の主力前で解放して暴れさせるというやり方なら困らない。


「ということは、ご主人様も前線に向かわれるのですね」

「そうだ。クロノスを使う以上避けられない。あいつの力がなければ、攻めきれないからな」


 少数精鋭でダンジョンを攻める場合、どうしたって途中で消耗してしまう。

 そうしたとき、最後に切れる圧倒的な札というのは必要だ。


「わかりやすくていいの!」

「ん。把握、マスターには指一本触れさせない」

「けっこうぎりぎりですね。残した戦力だと、いずれは突破されますし。私たちが先に【水晶】までたどり着けるか、敵がこちらの防衛を抜くか、その勝負。……もっともこれ以外ないですけど」


 さて、最後にずっと俺が隠していた切り札をここに残していこう。


「ルーエ、おまえはここを守れ。異界を守れるのはおまえしかいない」


 イヤリングを震わせる。

 そのイヤリングは水が入っており、中の水をゲートにし、一体の魔物が外に出る。


「ふう、やっと外に出られたよ。知ってた? けっこうパトロンを殺そうとしてる人や魔物いたよ」

「知ってる。だから、おまえに守ってもらってたんだ。ありがとな」


 ルルイエ・ディーヴァのルーエ。

 異界の歌姫。見た目は青髪の中性的な少女。その半身には、黒く禍々しい文様が刻まれている。


 その能力は、水をゲートにして異界に潜むこと。

 異界から一方的にこちらの様子を探れる。

 また、異界を移動し、水さえあればどこでも覗けるし、どこからでも外に出られる。


 彼女にはこちらの世界で俺の護衛と、諜報活動を頼んでいた。

 彼女がいたから、殺されずに済んだし、彼女がいたからさまざまな情報を手に入れられた、逆にこちらのダンジョンの構成などの情報を守れた。

 できれば、彼女も連れて行きたいところではあるが、異界に潜める能力に対抗できるのは異界に潜める能力を持つ魔物だけだ。

 どれだけ防衛設備を固めてもどうしようもない。

 だから、可能な限りDPで購入する魔物はルーエの同系統で異界に潜れるBランクの魔物を多めにしてあるし、装備も優先して回している。

 それでも不十分だ。万が一敵に高位の異界に潜める魔物がいれば、それだけで、即座に水晶へとたどり着かれてしまうリスクがある。

 ルーエはここに残していくしかない。


「でも、僕は心配だよ。そっち、異界から覗かれ放題だよね」

「【収納】には、ベテランのオーシャン・シンガーもいるし、新入りたちも頑張ってくれるさ。なんとかする」

「ううう、不安だな。でも、仕方ない。パトロン、帰ってきたら、歌ってあげるから、絶対戻って来てね」

「約束する」

「もし、パトロンが殺されたら、最後の封印解いて、パトロンを殺した奴ごと、この世界終わらすから」

「はは、気をつけないとな」


 ルルイエ・ディーヴァは異界の歌姫。

 外なる神々が住まうルルイエという地の巫女。

 ルルイエを通じて異界の力を引き出すことができるが、力を引き出す度にその力に侵されていき、力は増すがそちら側に傾く。そして、三回目では、完全にそちら側に行き、しかもルルイエと外なる神々をこちらに招いてしまう。

 すでにルーエは二度、その力を使った。半身に刻まれた黒い紋章はその代価だ。

 もう次はない。

 なのに、ルーエはそれを使うと言っている。

 それは許可できない。

 だから、死ぬわけにはいかなくなった。


 ◇


 そして、詳細を煮詰めた。

 相手が超一流の魔王なら、時間はかかるだろうが、いずれ落とされる。

 それを念頭に置いて、敵の駆逐ではなくいかに時間を稼ぐかを主軸に置いた。


 攻撃部隊と俺は、お互いのダンジョンが向かい合う白い部屋にでる。

 白い部屋での戦闘は禁止だから、ここにいれば攻撃は加えられない。

 それに、戦いが始まれば、攻めるために増援をダンジョンから出すことすら、難しくなる。なにせ、入り口から敵が入り込んでくるのだから。

 それは向こうも同じ。

 攻撃に使う魔物が並んでいる。


「おとーさん、ざっと五百ってところなの」

「ほう、四対五百か。攻撃部隊だけで面白い差がでたな」

「ん、想定内」

「ちょっと、私たち舐められてませんか。その程度で落とせるなんて、思ったよりゆっくり攻略できそうです」


 同意見だ。

 時計を見る。開戦まであと三十秒。

 そして……。


『これより、【創造】と【樹】の戦いを開始する』


 戦いの幕が切って落とされた。

 勝とう、そして、この世界を手に入れてみせる。

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10/25発売のコミック一巻もよろしくお願いします!

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