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第二十二話:大魔王様は呼ぶ

 こちらの魔王たちが、あまりにも不遜な態度をした俺へ敵意を向けている。いや、敵意だけじゃない、困惑なども伝わってくる。

 創造主に喧嘩を売ったのがよほど意外だったようだ。

 前の世界でも、そんな魔王は少なかった。

 だけど、俺は違う。

 俺たちを駒にして遊ぶ、こいつを敵と認識している。


「では、さっそく始めよう。【創造】の魔王、そして【樹】の魔王よ、おまえたちの輝きを示せ」


 創造主が笑い、俺たちは転移させられる。

【戦争】のフィールドへと。


「シエル、首尾はわかってるな」

「ばっちこいなのです。でも、いいんですか、失敗したら、【完全模倣】の無駄遣いになるですよ」

「いい、そうなれば第二案を使う」


 ……まあ、第二案は勝つための策というよりは、千日手、引き分けに持ち込む手だ。

 第一案はギャンブルだ。もとより、この状況では手堅い戦術では勝てるわけがない。


 俺にとって最善は、初手でギャンブルを行い勝ちを目指す、それが失敗した際には、第二案の引き分けに持ち込む守りの戦法を使うことなのだ。


【転移】が終了する。

 そこにあるのはお互いのダンジョン。

 敵は黒髪の人型魔王で美青年、名を【樹】の魔王。

 名前からさっするに、おそらく使用する魔物は植物系。植物系は、千差万別の能力を持ち、手が読みにくい。

 直接的な戦闘力に優れたものもいるし、搦め手に長けたものもいる。


 彼らにとって、世界が滅びるかどうかというところで名を上げたのだから、間違いなく強敵だ。

 そんな彼のダンジョンは巨大な大樹。

 いつか、エンシェント・エルフのアウラが見せてくれた心象風景の世界樹を思い起こさせる。

 その生命力あふれる大樹の幹には空洞があり、そこから入っていくようだ。


 それに対して俺のダンジョン。

 ……ここでアヴァロンのダンジョンを呼んでくれれば楽ができるのだが、そう上手くはいかない。

 こちらに来てからわずかな力で作りあげた、まだ未完成のダンジョン。地上部が街であり、地下への道が街に隠されている。

【戦争】のルールにより、その場の人間たちはどこか別の時の止まった空間に閉じ込められ、ここには来ていない。

 規模が小さいからか、一瞬で転移が完了。残して来た魔物たちも順次こちらに飛ばされている。


 逆に、向こうのほうはまだまだ終わりそうにない。

 大規模なダンジョンだとそれなりに時間がかかる。

 さあ、時間がない、急げ。

 向こうの【転移】が完全に終わる前にやらねばいけないことがある。

 俺はシエルを【収納】。

 さらにダンジョン内に入り、魔王権限を使い水晶の部屋へ一瞬で移動し、シエルを外に出す。


「シエル!」

「わかっているのです。【完全模倣】!」


 シエルの姿が変わっていく。

 シエルの切り札、【完全模倣】。

 その力を使えば、Sランクの魔物にすら変身する。見た目だけではない、その能力のすべてを写し取り、スキルの使用すら可能。


 シエルが変化したのは、Sランクの魔物、ティンダロス。

 青い体毛の猟犬で、長い舌が特徴的だ。

 アヴァロンにいる、【転移】を得意とする魔物。

 水晶を起動し、アヴァロンの水晶とリンクさせる。

 届け!


『ご主人様、聞こえますよ。ティロちゃん含めて、こちらの準備はできてます。感度は普段の数倍良好です』


 アウラの声だ。

 もとより、アウラには今日一日ずっと水晶で待機してもらうように頼んでいた。


「こちらも準備が出来た。始めるぞ」

「シエルに任せるのです」

『はい、カウントをします。3、2、1、0!』


 カウント終了後、アヴァロンではティンダロスが、そしてこちらではティンダロスに【完全模倣】をしたシエルが、同時に俺たちが帰還するために作った専用術式を使う。


 いつか、俺が帰るために必要とした術式。

 ……本来、世界を渡る転移はティンダロスの能力では不足だった。

 ティンダロスは【転移】が得意で戦闘もこなせるSランクの魔物であって、【転移】に完全特化したSランクの魔物ではない。

 そのため、出力か精度、どちらかを犠牲にしなければ世界を渡ることなんてできない。


 でも、ここでなら。無数の世界の中心なら話は違う。

 さらに今は創造主が白い部屋に戦争のため、ダンジョンや魔物を【転移】させているところだ。

 いかに創造主と言えど、世界を越えた【転移】というのは難しい。


 だから、このときだけは世界の壁を緩めている。

 そうしているのは推測に過ぎなかった。

 だけど、さきほど水晶同士のリンクを試してわかった。その推測は間違っていない。世界を隔てる壁が緩み、物理的にも距離が近くなっている今なら、世界を渡る難易度は激減する。


 その状況、今このときだけは、ティンダロスの力でも【転移】が可能!

 それこそが俺の狙い。

 アヴァロンから、俺が信じる仲間たちを連れてくる。

 さあ、来い。

 水晶同士のリンクをたどり、アヴァロンのティンダロスが送り届け、シエルがそれを受け取り、双方向【転移】が完成する。

 世界を渡り、何かがやってくる。

 それは……。


「ぴゅいっ!」


 緑色のスライムだった。

 ぷるぷる揺れる雫型。

 それが元気よく鳴き声を上げている。

 どうやら挨拶のようだ。


「ぴゅいっぴゅ!」


 それに、ティロの姿をしたシエルがスライム語で答える。

 お互い、ぴゅいぴゅいと盛り上がる。


「おまえたち、人語でしゃべってくれ……さすがに俺もスライム語まではわからない」


 緑色のスライムは舌をだして、スライム触手でこつんとやる。

「ぴゅいぺろっ」


 少々うっとうしい。

 スライム種は、なぜかお茶目なところがある。

 借り物の魔物じゃなければ、しばいているところだ。

 そう、彼は俺の魔物じゃない。


「主の命、盟約に従い、【粘】の魔物筆頭、フォビドゥン・スライムのスラ丸、馳せ参じました」


 人語を話すとピリッとする。スラ丸はそういう不思議な特徴を持つ。


「ご苦労。さっそくだが、頼む」

「ぴゅいっさ!」


 スラ丸が大きく口をあける。

 そしてそこから、三体の魔物が現れた。


「おとーさん、会いたかったの!」

「ん。父さんがいなくて寂しかった」

「大変だったんですよ、クイナちゃんやロロノちゃんを宥めるの」


 俺の魔物たちの中でも特別な絆で結ばれた三体のSランク魔物。

 天狐のクイナ。可愛らしいキツネ耳美少女。

 エルダー・ドワーフのロロノ。銀髪ぺったんクールな美少女。

 エンシェント・エルフのアウラ。金髪巨乳で翡翠の眼を持つ美少女。

 自慢の娘たち。


「ああ、俺も会いたかったよ」


 胸に飛び込んでくる三人を受け止める。

 クイナは全力で俺の胸に顔を埋めてすりすりとしてきて、ロロノはぴたっとくっつき、アウラはそっと隣で腕を組んでくる。

 娘たちに会えた、それだけで泣きそうになる。


「それにしても三人も来るとはな。アヴァロンは大丈夫か?」


 たった三人とはいえ、【誓約の魔物】。

 アヴァロンの最強戦力だ。

 しかも、この戦いが終わっても帰ることができないので、しばらくこちらにいることになる。


「やー、向こうにはデュークとマルコがいるの」

「あの二人がいれば問題ない。それに、前の大戦で破壊されたアヴァロン・リッターたちは全機修理を完了した。戦力は十分」

「ロロノちゃん、死に物狂いで修理してましたからね。全部修理しないと、別の魔物をご主人様のところへ行かせるってデュークに言われちゃって」

「……それは言わない約束」


 そうか。

 アヴァロン・リッターの修理が終わっているなら、デュークとマルコなら、どうにでも侵略者を料理できる。


「ありがとうな、スラ丸。この子たちを運んでくれて」

「あなた様には、我が主君を何度も救われました。やっと一つ恩を返せて、あの方も僕も喜んでおります」


 帰れば、ロノウェに会いに行こう。

 感謝の言葉を伝え、お土産を渡しに。


「なに、やり遂げた顔してやがるです。お兄ちゃんは非力なのですよ。三人しかお腹に入れられないなんて、最上位スライムの面汚しなのです。シエルならあとお二方は行けたのです!」

「面目ない。僕にはこれが精一杯で」


 生き物、それも魔力をもった生き物を【収納】するのはとんでもなく消耗する。それも天狐たちのような規格外の魔力を持ったものならなおさら消耗が大きくなり、シエルの下位互換であるBランクのスライムでは不可能。

 Sランクを腹に入れられる魔物は、俺が知る限りスラ丸とシエルぐらいだ。

 スラ丸を借りたのはそのため。


 いかに近い場所で世界の壁が緩んだとしても、確実に【転移】で送れるのは一体だけであり、スラ丸の力を借りられなければ誰か一体しか送れなかっただろう。

 後先考えないでいいなら、マルコに来てもらえればいいのだが、マルコをこちらに連れてくるのはアヴァロンの守りに支障がでる。

 第一……。


「十分だよ。この子たちがいれば負けがない」


 そう、俺の【誓約の魔物】たちは強い。

 この三人が援軍に来てくれれば、不足などあるはずもない。


「やー! 久しぶりに【空狐】に進化するの。尻尾の充電もばっちりなの!」


 天狐のクイナが尻尾をピンと伸ばしてやる気をアピール。


「……アヴァロン・リッターの特機。ラウンズを持ってきた」


 ロロノは指を鳴らして、機能特化型アヴァロン・リッターたちを、スラ丸の腹の中から呼び出す。


「ここなら、世界樹の力を借りられそうです」


 アウラの翡翠色の眼が輝く。


 頼もしいな。

 本当に。

 もう、負ける気はしない。


 元より、この戦争の勝敗を決めるのはただ一点。最初のギャンブルが成立するかどうかだった。

 そして、ギャンブルに勝ち、この子たちが来てくれた。

 だからここからの展開は一つ。

 当然のように勝利する。

 ただ、それだけだ。

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