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第二十話:大魔王様はたくらむ

 【夜会】の参加が決まり、急遽いろいろと準備を進めており、気が付いたら、当日になっていた。

 【夜会】に呼ばれることは面倒だが、メリットも多い。

 とくに、【夜会】でないとできない実験を行えることが目玉だ。


 書類から顔を上げると、女教師姿のシエルが黒板を叩いて熱弁を振るっていた。


「そこは違うのです。もう一度教えるですよ。人間っていうのは愚かで短絡的な生き物です。そのくせ自分は頭がいいって思っているのです。だから、正論はダメですよ。都合のいいところだけ見せること、それから相手に自分はわかってるって悦にさせることが重要なのです! どうせ、あいつらはちゃんと話したって、聞きたいことしか頭にはいらねーですから、事実はどうでもいーのです」


 緑髪で眼鏡をかけた少女がこくこくと頷く。


「人間さんって、お猿さんなんですね」

「そうです、猿です。街の運営は猿回しなのですよ」

「勉強になります!」


 この緑の少女は俺がいなくなった後、街の運営を任せるために購入した魔物。

 植物系の魔物、ドライアド系列のBランク、フルール・ドライアド。

 同系統のSランクを作ったことがあるため、DPでの購入が可能だった。

 今は人間にしか見えないが、真の姿は下半身が植物の根だったりする。高い擬態能力を所有している魔物だ。


 彼女を街の運営役として選んだ理由は複数ある。

 人間に擬態する能力及び、感情操作能力。ドライアド種は体内でフェロモンや香水を生成し、散布することで相手の感情を操れる。

 これは街の運営者としては非常に強力な武器となる。

 ただ、能力があっても、ある程度の知識がないと街の運営なんてどうにもならない。そのため、こうしてシエルが教育をしている。


「シエル、教育は順調か?」

「難航中です。てか、領主の心得と街の運営に必要な知識を数日で叩き込むなんて無理ゲーです。ドライアド種は特別頭がいいって種族でもねーですし」

「それもそうか」


 高位魔物のため、人間より基礎能力は頭脳を含めて高いが、規格外と呼べるほどじゃない。

 ……独り立ちが無理なら、俺たちがサポートをつけないとだめだな。


「教育を続けてくれ。アヴァロンに戻れば、向こうから一人、専門家をよこす。そいつに教わりながら育てばいいさ」


 執務面は、向こうで経験を積んだものに任せ、人前にはフルール・ドライアドを立たせることにする。


「それなら、ぎりぎりだいじょうぶです。補助輪付きなら走れるぐらいには鍛えたですよ」

「はわわ、ちょっぴり自信がないです」


 対照的な二人の返事に苦笑する。

 問題は、俺が帰ったあとに向こうから魔物を送り付けられるかだ。

 そちらも合わせて検討中だが、なんとかなる見込みがある。

 そして……。


「懐かしい感じだな」

「シエルもぴゅいっときました」


 奇妙な浮遊感。

 創造主に呼ばれるときの感覚。

 向こうの世界と何一つ変わらない。


「シエル、俺の手をとれ」

「はいです。魔王様」


 シエルの手を取る。

 そして、【収納】から一体の魔物を呼び出し、すでに【収納】から出していた一体を特殊な通信を用いることで呼び寄せる。


 【夜会】のルールでは原則として連れ込めるのは、魔物三体だけ。

 それも、【夜会】の会場にある門をくぐることができる大きさの魔物に限られる。

 俺が連れていくのは、シエルと今呼び出した魔物たち。

 もう近くにいるというのに、その姿は目に映らない。

 そういう魔物を選んでいるからだ。

 ちょっとした用心と保険。【夜会】で仕掛けてくる場合、正面から激突するわけではなく、搦め手でくる。


 だから、純粋な戦闘力よりも、隠密性の高い魔物を優先した。

 この子たちがいて、俺が不意を突かれることはないだろう。その代償に、Sランクとしては戦闘力が低いが、正面切っての戦闘にはシエルがいる。

 今のシエルは【完璧模倣】が使える状態であり、力比べなら後れをとることはない。


「シエル、【夜会】が終わり次第、おまえを正式に【八魔将】へと任命する。アヴァロンに戻ったら、みんなで盛大に祝おう」

「ぴゅいっ!? それほんとなのですか!?」

「こんな嘘は言わないさ。……改めて礼を言う。シエル、一緒に飛ばされたのがお前で良かった」

「ぴゅふふふふ、照れるのです。平魔物として、最後のお仕事がんばるのですよ!! ぷぴゅふふふ、下っ端卒業なのです」


 シエルの顔が緩みまくり、首から上が少女のものからスライムに戻って少々気持ち悪い。

 だが、突っ込みはしまい。

 こんなに喜んでくれているのだから水を差すのは悪い。……それに、【八魔将】への抜擢はこれからの仕事がとてつもなくしんどいものになるからこそなのだ。

 今ぐらいは幸せに浸らせてやりたい。


 ◇


 強制転移させられる。

 シエルと共に庭園にでた。


 色とりどりの花が咲き乱れる。この世のものとは思えないほど見事な花園。

 誰もが魅入ってしまうほどの美しさ。


 しかし、見るものが見ればその異常さに気付くだろう。

 この花壇は、それぞれの花が咲く季節を考えればありえない組み合わせだ。

 同時にこれらの花が咲くことなどありえない。

 花の都合などおかまいなしに、理論上もっとも美しい組み合わせで並べられ、無理やり咲き誇ることを強制されている。


「おぞましい」


 この庭園を初めて見たとき、ただ見惚れた。

 だけど、今ならわかる。

 これは創造主の考え方そのものだ。彼にとって、ここに咲き誇る花も、俺たち魔王も変わらない。


「魔王様、怖い顔をしているです」

「ちょっと思うところがあってね。行こうか」


 シエルだけじゃなく、見えない二体にも合図を送る。

 ちゃんと、一緒に転移されている。

 試しに【収納】から魔物を引き出そうとしてみるが失敗する。

 やはり、この創造主の領域では、【収納】は使えない。

 庭園に用意された道をまっすぐに歩く。

 そして、行きついたのは……。


「パレス魔王」


 創造主の居城。

 魔王たちにとっての聖地。

 幾多の魔王が集う【夜会】の会場。

 ……それは、向こうの世界で開かれた【夜会】で使われたパレス魔王とまったく同じ外見。

 そう、つい先日訪れたばかりの場所なのだ。


「やはり、創造主は同一人物か……そして、ここはきっとアヴァロンともつながっている」


 世界が違っても創造主は同じだった。

 でなければ、【夜会】の会場がパレス魔王なんてありえない。

 そして、パレス魔王にやってくることができたのが重要だ。

 ずっと疑問に思っていたことがある。


『なぜ、【遷】の魔王は俺を異世界に飛ばすことができたのか?』


 帰るために世界を渡ろうと試行錯誤してわかったが、世界を渡るにはとんでもない魔力がいる。

 Sランクの魔物であろうと、片側からだけではどうにもならず、両方の世界のSランク相当の力でようやく渡れるような代物だ。

 ひどい言い方になるが、【遷】の魔王程度の力で世界の壁を超えるなんてできるはずがない。


 ……そして、一つの仮説にたどり着いた。

 俺が飛ばされたのは、パレス魔王からだった。

 そう、パレス魔王と俺が飛ばされた世界は近い位置にあり、だからこそあいつ程度の魔力で飛ばせた。

 俺の飛ばされた世界とパレス魔王が近いというのは若干違うな、正しくはパレス魔王は、あまたの世界の中心にあるのだ。

 そう仮定すると腑に落ちることも多い。

 創造主が複数の世界を管理するなら、おそらく自らが管理する世界の中心に自らの居城を置く。

 どこの世界からも近い場所にないと、魔王たちを呼び出すのにも余計な力がいる。

 おそらく、その想像は当たっている。

 ここなら、飛ばされた世界よりずっと、アヴァロンの世界に近い。

 だからこそ、試せることがある。


「シエル、例の実験。ぬかるなよ」

「はい、なのです。時間との勝負なのですよ」


 シエルと、そして見えない二人とともにパレス魔王に入る。

 実験も大事だが、こちらの魔王との会談も大事だ。

 こちらの魔王が友好的であればいいが、そんなことはまずないだろうな。

 まあ、いい。なるようになるさ。


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