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第十九話:大魔王様は招かれる

 来客を出迎える用意をする。

【欲望】の魔王エリゴルが自らやってきたのだ。

 警戒はいくらしてもしたりないことはない。

【収納】してある切り札足りえる魔物を確認しつつ、シエルのほうを向く。


「魔王様、シエルにぴゅいっとお任せなのです」

「【完全模倣】を使えるほど魔力が回復したのか」

「ぴゅふふふ、自然回復はまだなのですが、高価で貴重なアイテムをつぎ足せばなんとかできる水準なのです」

「あれか。あれは使いたくないな。だが、もしものときはためらうな」


 魔力回復には二種類ある。

 魔力の回復量を上げるものと、魔力をつぎ足すもの。

 Sランクの魔物ともなると後者では焼け石に水だ。

 だが、シエルが保有しているのは伝説級アイテムであり、十分な回復量になる。

 いざというときのための切り札であり、俺ですら入手は難しい。


「わかったのです! 誰に変身するか悩むです。クイナ様は鉄板なのですが、マルコ様、デューク様も。あのいけすかねえ、グルの野郎でもいいです。ぐふふふ、シエルは圧倒的な力で蹂躙するの大好きなのです」


 このスライム、目がやばい。

 通常時のステータスが低いのがコンプレックスなこともあり、【完全模倣】で強い力を得るとハイになる。

 シエルは極めて優秀で便利な奴だが、調子に乗りやすいのが玉に瑕だ。


「さあ、行こう」

「ぴゅいっさ!」


 あの魔王、いったい何を考えているのだろうか。


 ◇


 外に出て、ハイ・エルフたちに来客のもとへ案内させる。

 風の警戒網を用意してあり、誰かが街部分に入れば、ハイ・エルフたちが捕捉し、要注意人物であればそのまま監視に移行する。

 街部分にいるうちは、相手が破壊活動をしない限り攻撃を加えないが、地下に足を踏み入れれば即座に迎撃する手はずを整えてある。


「【欲望】の魔王エリゴル、いったい何のようだ」

「やっほー。遊びに来たよ、【創造】の魔王プロケル。君のはずいぶん地味な街だね。作ったばっかりだとこんなものかな」


 ……仮初のダンジョンではあるが、街を悪く言われると対抗意識がわいてくる。

 アヴァロンを見せてやりたいぐらいだ。


「遊びに来た? 冗談だろう。おまえはそういう魔王じゃない」


 感情で生きる魔王と、理屈で生きる魔王がいる。

 こいつは後者だ。

 軽い口振りと態度だが、その裏には冷徹な計算が隠されている。

 そんなエリゴルが、そのためだけに魔王自身が、他の魔王のダンジョンに乗り込むリスクを負うはずがない。


「嘘は言ってないよ。遊びにきたのも本当。ほかにも用件があるだけでね」


 彼女はにやりと口角を吊り上げる。


「茶でも淹れよう。屋敷に案内する」

「へえ、よその魔王を簡単に招き入れちゃうんだ」

「おまえもそうしただろう。少なくとも今日は話をしにきたのだから、邪険に扱うつもりはない」


 攻めるつもりであれば、もっと大戦力を連れてくる。

【収納】可能な十体だけで、ここを落とせると考えるほど馬鹿ではないだろう。


「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 どんな話をするつもりか。

 ある程度身構えておくほうがいいだろう。


 ◇


 屋敷の客間で茶を用意される。

 シエルに茶を淹れさせた。まだまだ、ハイ・エルフやドワーフ・スミスたちは技術の習得が必要だ。

 賓客相手の茶は任せられない。


「うそっ、美味しい。こんなすてきなお茶は初めてだよ。僕、わりと金に糸目をつけずにいいものを集めてるつもりだったんだけど、自信なくすなー」


 出させた茶は、シエルの体内に保存していたもの。

 アヴァロンにいたころ、世界中から集めた茶葉の中から、特に気に入ったものをかけあわせ、品種改良したものだ。


「口に合って良かった。こちらの魔王が好む味はいまいちわからなくてな」

「人型の魔王ならみんな喜ぶんじゃないかな。頭がすっきりする。この茶葉包んでもらえない? 僕、気に入っちゃった」

「それはできない。アヴァロンならいくらでも手に入るんだが、こちらではな」

「そっか、向こうで作った茶葉か。僕が知らないわけだ」


 そういいつつ、【欲望】の魔王エリゴルは茶と一緒に出したアップルパイをつまみ、そちらも気に入ったようで目を輝かす。


「ふう、美味しかった。お腹も膨れたし、話すとしようか。今日、僕がここに来たのは、【夜会】のお誘い」

「ほう、【夜会】か」


 世界中の魔王が集まり、親睦を深める会合。

 前回、彼女と話したときもその存在があることは確認していた。


「それに俺は参加できるのか? 俺の知る【夜会】は創造主によって無理やり【転移】で飛ばされることで会場へ招かれる。参加の意思があっても、創造主がその気にならなければどうにもならない」

「心配ないよ。事前に話してある」

「創造主が魔王の相談を受けるだと?」


 あれは魔王を自分を楽しませるための道具にしか思っていないはずだ。

 ……こちらの世界では、創造主も別人なのか?


「僕はお気に入りで特別だから。……参加しといたほうがいいと思うなぁ。君、しばらくはこっちにいるんだろう。敵になるかもしれない奴らのことは知っておいたほうがいい」

「そうか? 敵も何も、存在を知られない限り、敵意を向けられることはないはずだ。表向き、俺のダンジョンはダンジョンに見えないしな。そうそう気付かれはしない。誰ともかかわらないのがもっとも効率よく身を守る方法だと考えている。おまえがほかの魔王に俺のことを話さない限りという前提条件がつくが」


 こちらの世界で俺のことを知っている魔王は、現状では【欲望】の魔王エリゴルのみ。

 彼女が黙っている限り、俺は安全だ。

 さらに言うなら、もっとも確実に安全を確保する方法というのは、俺のことを知っている彼女を消すこと。

 そういう手段は好きじゃないし、エリゴルの力が未知数なこともあり取る気はないが。


「それは甘いよね。耳のいい魔王は君の想定より早く気付く。それにさ、創造主が君を放っておくと思う?」

「思わないな。俺の知る創造主なら」

「正解、僕がここにこれたのは創造主にこの場所を教えてもらったからだよ。そうじゃなきゃ、あと一週間ぐらい見つけるのに時間が必要だったかな。相談をもちかけたのは僕だけど、こんな感じでノリノリだし。……むしろ僕が言い出すのを待っていた感じがする。僕に君の居場所を教える以上のことをしていたとしても不思議じゃない」


 確信した。創造主はあちらもこちらも同じようだ。

 創造主は俺のことがお気に入りのようだ。エリゴルとは別の意味だが。

 ちょっかいを今になって出し始めたのは、先日までの俺にほかの魔王をけしかけても面白くないから。


 つい先日までは感情を食えず、飢えた状態で、しかもダンジョンを作ったばかりでろくに防衛設備も整っていない状態。

 そんなところを狙われたのでは、まともな勝負にならない。

 強力な魔王に狙われれば、禁じ手に近い手段を取らない限り対抗できず、どっちが勝つにしろ勝負は一方的なものになる。

 それでは観戦していてつまらない。

 今のように、かろうじて最低限の体力と防衛準備ができている状況というのが、一番見ていて面白いのだろう。

 そういうことがわかってしまうのがいらっとする。


「わかった。【夜会】に行こう」


 あいつのことだ。

 必ず、行かなければペナルティを科してくる。

 選択肢を用意しているのが臭い。無理やり【夜会】に呼び出すことができるのに、あえてそれをしていないのだ。

 こういうとき、創造主は自分の意志で【夜会】に不参加を決めた。その事実を一生後悔するように仕向ける。


「素直でよろしい。一応言っておくけど、魔物のエスコートは三体まで、ダンスホールをくぐれる大きさの魔物じゃないとだめだよ」

「わきまえているさ」


 シエルは確定として、あと二体は考えておこう。

【夜会】では原則として、戦闘行為はできないが例外はある。

 俺は抜け道を突かれてこんなところに飛ばされたのだから。


「楽しみにしていてよ。【夜会】で君にもらったメダルで作った魔物をお披露目するから」

「隠しておかないでいいのか?」


 Sランクの魔物は、圧倒的な力を持つ。その魔物一体で戦況を変えるほど。

 存在を隠匿しておけば、【戦争】の際に敵対魔王の計算を狂わせることができる代物だ。


「いいの。僕の夢を叶えるための子だから」


 よくわからないが、エリゴルがそうするならそうする意味があるのだろう。


「じゃあ、僕は帰るよ。【夜会】に向けて忙しくなるしね。追って日にちを伝えるよ」


 何に忙しくなるかは聞かないでおこう。

 本来、ただの同窓会。……と創造主がたまにぶち込んでくるサプライズイベントを行うのが【夜会】。

 準備をすることなどあまりないのに。

 エリゴルを見送った。

 アヴァロンに帰るまで、穏やかに過ごしたいという俺の願いは、おそらくかなえられないだろう。

 だからこそ、この状況を利用し、アヴァロンに土産を持ち帰れるよう画策してみよう。

 ここに来たことを無駄にしないように。

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