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第十八話:大魔王様は確信する

 アウラと連絡が取れたのは僥倖だ。

 アヴァロンと連絡が取れれば、今後は動きやすくなる。


 向こうにいる転移系の魔物との協力や、【誓約】の魔物たちとの絆の補強。

 いろいろとやれることは多い。

 アウラと話してから、

しばらくの間、ずっと次の手を考え続けていた。

 そして、帰れるという確信を得られた。


 なにせ、通信ができたということはアヴァロンの位置がわかったということ。

 ならばあとは出力の問題だけだ。

 俺を飛ばした【遷】の魔王ができたのなら、俺の魔物にできないはずがない。


「ようやく、一安心だ」


 帰るためにいろいろと準備をしていたが、内心では帰れないのではないかという不安があった。


「……プロケル様ぁ」


 裸のキツネ耳美少女が腕に抱きついている。

 この世界で初めてあった少女、クミンだ。

 さっきまで愛し合っており、力尽きて眠っていた。

 彼女を抱くようになったのは、強い感情が欲しかったからであり、こうしてダンジョンを作り上げたのだからもう必要はない。


 それなのにこうしたのは、なんとなく惰性で。

 いや、俺がそうしたいからそうしている。


「この子をどうしようか? アヴァロンに連れていってもいいが」


 荒業にはなるが、シエルの腹の中に入ってもらい、シエルを【収容】をすれば問題ない。


 転移は質量が増えるほど指数関数的に必要な魔力量が増える。

 ゆえに【転移】を実行する魔物と俺以外はすべて【収納】しなければならない。


「帰ったあと、こっちの街をどうするかも考えないとな」


 作ったばかりとはいえ、こちらのダンジョンにも愛着がある。


「手は考えておくか」


 ここを任せられる人材を用意する。

 それから、なんとかして行き来できる方法を見つけよう。


 ◇


 翌日の同じ時間にアヴァロンの面々と通信が行われた。

 前回は世界の壁に阻まれながら無理やり通信をしたせいで、すぐに力尽きて通信が途切れた。


 しかし、今回は向こうからもこちらの思念を迎えに来てくれているため、消耗は少ないうえ、ずっと通信が安定した。

 アヴァロンにはそういうことが得意な魔物がいるし、Sランクの魔物が数体いるので魔力のバックアップにも困らない。


 なので、今日は驚くほどすんなりと会話ができている。

 なにせ、世界の壁を越えるのに大きな力が必要な部分を向こう側が魔力に任せて無理やり突破してくれている。


「おとーさん! 無事でよかったの! クイナ、すぐにそっちいくの! おとーさん、早く会いたいの」


 一番俺になついているアヴァロン最強の魔物である天狐のクイナは、涙声でおとーさんとわめき、寂しがった。


「マスター。アウラとティロから基礎理論を聞いて、補助装置を作ってる。座標安定化とノイズキャンセラー。通信をさらに安定させ、転移時の不確定要素を排除する。……プライドにかけて、完璧なものを作り上げる」


 普段は冷静沈着な、世界最高の鍛冶師にして錬金術士ロロノは、口振りこそ普段通りだが、必死に押し殺した感情が漏れていた。


 三日ほどで作り上げると言ったが、きっとロロノのことだ。かなり無茶をするのだろう。


 ありがたい。通信だけでなく、転移の際にも座標特定補強とノイズキャンセラーは必要だ。


「ご主人様、昨日は用件だけのぶしつけな発言をお許しください。こうして、お話できることをうれしく思います。……ご無事で良かったです」


 エンシェント・エルフのアウラ、彼女の声は涙ぐんでいた。

 昨日も、こういった感情にあふれていたのだろう。それなのに、次につなげるために、正しい選択をしてくれた。

 そんな彼女のことを誇らしく思う。


「我が君、まずは謝罪を。我が君を見つけることができなかった我らの無能をお許しください」

「デュークは相変わらずだな。そのことで責めるつもりはない。海の向こうどころか、世界を渡ったんだ」


 竜人にして、アヴァロンの頭脳。俺の右腕たる魔物が謝罪をしてきた。

 映像は伝わってこないが、きっと水晶の前で頭を下げているんだろうな。


「昨日から我が君の帰還計画を練っております。アウラ様の世界干渉能力、ロロノ様の作る補助装置、クイナ様の膨大な魔力バックアップ及び、概念の炎を使った世界防壁の焼却、ティンダロスの【転移】能力。それらを踏まえても、我々だけでは世界を渡ることはできません。今、こうして通信をしているように、まずはそちらから力を発してもらい、その力をこちらから迎えにいく必要がございます」

 的確で早い。

 デュークは頼りになる。

「私たちで試算したところ、ご主人様が【収納】されているアビス・ハウルが発信し、ティロが迎えにいくという方針では出力がまるで足りず、シエルが【完全模倣】でティロちゃんをコピーした場合、出力は問題ないのですが、少々精度に不安があります。……成功率は八割程度。高い値ではありますが、失敗したらまた別の世界に飛ばされる危険性があります。次は、ご主人様が生存できる環境かどうかもわかりません」


 二割の確率で死ぬ。

 それは決して無視していい数字じゃない。


「その問題はこちらでなんとかする。おまえたちが【遷】の魔王を潰してくれたおかげで、そいつのメダルを作れるようになった。それを使いティロ以上に【転移】に特化した魔物を作り上げる」


 アヴァロンにいる、【転移】を得意とするSランクの魔物は、ティロことティンダロスのみ。


 ティンダロスは【転移】系能力と戦闘能力の両立を目指した魔物だ。

 ゆえに、純粋な【転移】能力だけなら、ティンダロスは完全転移特化型に劣る。


「かしこまりました。我が君、そちらの魔物が完成次第、連絡願います。シエルであれば、解析系のスキルを使えます。解析が必要な項目を一覧でまとめますので、シエルにお伝えください」

「私は、新しい子と直接話したいです。ティロちゃんと一緒に【転移】をリンクさせるための術式を作って、それを伝えますから」


 こちらの指示前に次々と準備を整えてくれる。相手がデュークとアウラだと話が早くて助かる。


「やー。おとーさん、クイナ、いいこと考えたの。【転移】は質量が大きいほど難しくなるの。なら、とっても小さい魔物なら、おとーさんが新しい子を作る前にそっちへ送れるの。グルちゃんなら、そっちいけるし、いい実験になるの」

「……ほう、さすがはクイナ様です。その意見には私も賛成です。【転移】の実験は必要だと考えておりました。グルラーナのサイズなら、おそらくはティロと、アビス・ハウルでも、ロロノ様の補助装置があれば飛ばせる公算が高いでしょう」


 グルか。

 あいつがこちらにいてくれると心強いな。

 ……それに、あいつなら転移に失敗しても問題ない。


 いや、別に失ってもいいというわけじゃなく、あいつの能力に起因する。

【死に戻り】。あのスキルがあれば、見知らぬどこかに飛ばされてもアヴァロンに戻れるはずだ。


「その計画を進めてくれ。【遷】を使った魔物を生み出すのには時間がかかる。それまでに実験と、その結果を生かした改善を行いたい」

「かしこまりました。ではそのように手配を進めます」

「アビス・ハウルちゃんなら、ティロちゃんの言葉がわかりますし、翻訳の必要もありませんね」

「がうがう!」


 かわいらしい犬の鳴き声がした。そうか、ティロも聞いていたんだな。

 見た目はかなり凶悪な大型犬だが、声だけは可愛らしい。

 これで用件は終わりだ。

 多少は雑談をしてもいいだろう。


「そっちは無事なのか? 【夜会】であれだけのことがあったんだ。俺の不在はばれているだろう。アヴァロンは狙われてはいないか?」

「仕掛けられましたが、撃退しております。その際には、我が君の偽物を作り上げ、ダンジョン機能に模した仕掛けを使用し、我が君の健在をアピールしました。もちろん、不埒者の水晶を砕いております。力を失った元魔王は生かしておりますので戻られたら、ご覧になってください。我が君に牙を剥いたのです。……死など生ぬるい」


 二度もアヴァロンが襲撃を受けたか。

 魔王が不在の今、ダンジョンの機能に大きな制限があるというのに、よくやってくれている。

 偽物だけでなく、魔王がいないと使えないダンジョンの機能を疑似的に行ったのであれば、ほかの魔王への牽制には十分。

 デュークが残ってくれて良かった。


「そうか、俺もすぐ戻る。それまで持ちこたえてくれ」

「ええ、我が君の帰る場所は絶対に奪わせません。御身の帰還を心よりお待ちしております」

「おとーさん、早く帰ってくるの」

「マスター、私もちょっと寂しい」

「戻ってきたらパーティをしましょう。たくさん、ご主人様の大好物を用意していますから」


 愛しい魔物たちの声。

 不安が解消され、緊張の糸が切れたからか涙が流れてきた。

 やっぱり、俺は帰りたい。

 あの子たちのいるアヴァロンへ。


「ああ、待っていてくれ。そろそろこちらの魔力が限界だ。通信を切る。また、明日、この時間に」


 そうして、通信が切れた。

 明日はとくに連絡をする必然性はない。

 それでも通信をするのは声を聴きたいからだ。

 俺にこんな弱さがあるとは知らなかった。

 大きく息を吐き、目をつぶり、あの子たちのことを想う。


 そんなときだった。

【水晶】の間にあわただしく、一人のドワーフ・スミスがやってくる。息を切らせ、ただ事ではないようすだ。


「大変です、プロケル様。来客が」

「誰だ?」

「【欲望】の魔王エリゴルと名乗っています。今は地上の街で魔物たちと散歩をされております」


 そうそうにこのダンジョンを突き止めたか。

 まだ攻撃を仕掛けてこないところをみると、いきなり水晶を砕きに来たわけじゃないようではある。


 ……しかし、厄介ごとなのは変わりない。

 魔王がほかの魔王のところに出向く理由など、そう多くはないのだから。


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