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第十六話:大魔王様は連絡する

 領民たちの前で、領主として名乗りを上げてから三日たった。

 ダンジョンも街も順調に出来上がってきている。

 そして、領民だけじゃなく俺の空腹も解消された。


 十分な感情が食えるようになったおかげで、魔王としての力を存分に振るえる状態になったのだ。


 思った以上に良質な感情をここの領民は発している。

 今まで追いつめてられていただけに、俺への感謝の気持ちが強いのだろう。


 ……ただ、それはそれで問題がある。

 今はそういう感謝込みでようやく空腹が解消され、十全に動けるという状態でしかない。


 それではまずい。

 なにせ、人という生き物は感謝の心などすぐに忘れる。

 どれだけの恩や施しを受けようと、やがてそれが当たり前になり、感謝の気持ちはなくなってしまう。


「感謝の気持ちは長続きしないだろうが、それ以外は期待できる。となれば、一番いいのは人を増やすことか」


 もとより、特別な感情や強い感情を稼げない分、一人当たりの感情量が少なくとも数でカバーをするのが、ダンジョンを街にした際の基本方針。

 人間を増やせば、感謝の気持ちがなくともやっていける。


「そのための手はある」


 この国では奴隷の売買をしているのだから、豊富な資金で奴隷を買い込めばいい。

 他にもあるいは近隣の農民を勧誘する手がある。

 ねらい目は土地を持たない小作人だ。自分の土地を持てること、一日一食は最低支給されること、安い税金などをちらつかせればすぐに釣れる。


 もっとも、そんな真似をすれば近隣の貴族たちからにらまれるだろうが。


「面倒だし、前者だな。奴隷を買うか」


 シエルの話では、二か月ほど前に大きな戦争にこの国は勝利したらしい。

 その際に、戦利品として多くの奴隷を手に入れており、今なら流通量が多い。


 奴隷を買うのはあまり気分が良くないが、奴隷商人は金が手に入り、奴隷たちはマシな生活ができて、街は活気づく。

 問題は治安が悪化することだが、ゴーレムたちに二十四時間街を警備させれば済む話だ。

 早速、手を打つとしよう。


「最低でも二十日はこの街を育て、守らないといけないのか。長いな」


 魔王はひと月に一枚メダルを生み出せる。

 もともと手持ちにいくつかほかの魔王のメダルと【創造】のメダルを一枚持っていた。


【創造】のメダルは常に一枚持つようにしている。

 追いつめられた際、【創造】のメダルの汎用性を生かし、状況に応じた魔物を生み出すことで逆転の糸口を掴むことができるからだ。


 しかし、こちらの世界でダンジョンを得るために【創造】のメダルを【欲望】の魔王エリゴルに手渡した。

 ゆえに、今月分で生み出すメダルは【創造】の補充にするしかなかった。


【創造】だけで魔物は生み出せない。あと二枚メダルがいる。そして、そのうち一枚は【転移】能力に特化したメダルが必要だ。

【転移】に特化した魔物でなければ世界の壁を越えて帰るなんてできない。


 だからこそ、二十日後にメダルが生み出せるようになれば【遷】のメダル……俺をこの世界に送り込んだ魔王のメダルを生み出し、それを使うことで【転移】能力に特化した魔物を作る。


 向こうで、クイナたちが【遷】の魔王の水晶を砕いたからこそ、俺は奴のメダルを生み出せるようになっている。

 十分に腹が膨れた状態で、【転移】に特化した魔物をバックアップすれば帰れるはずだ。

 それまでは、この拠点をなんとしても守らないといけないし、腹が膨らむようテコ入れが必要なのだ。


「ご主人様、儀式の準備はできたですよ」

「ありがとう、シエル」

「【完全模倣パーフェクトトレース】できたら、もっと精度がたけえのができたですが、今のシエルじゃ不完全なのです」


 水晶同士のリンクを使ってアヴァロンへ連絡を取ろうとしたが失敗している。

 何か分厚い壁のようなもので遮断されている感じがするのだ。


 だからこそ、腹が膨れれば力押しで突破すると決めていたし、それだけでは不十分な可能性もあるからシエルに思念伝達を増幅するための儀式装置を作ってもらった。


「行こうか、この時間が一番力が満ちる気がする」

「はいです。ハイ・エルフたち連れてくるですよ。魔王様の魔力と相性がいいのはあの子たちの魔力なのです」

「任せる」


 ……さて、どうなるか。無事、連絡が取れればいいのだが。


 ◇


 ダンジョンの最深部、コアとなる水晶の周囲には幾何学的な模様が刻まれていた。

 シエルが用意した魔法陣だ。


 その魔法陣の外側に四人のハイ・エルフたちが立ち、祈りながら魔力を高めている。

 他人の魔力を使用するのは難しい。


 しかし、シエルの術式で魔力を無色化したうえで、俺に合わせることで俺に利用できるようチューニングする。


「みんな、頼む」


 それが始まりの合図になった。

 ハイ・エルフたちから魔力が流れこんでいく。

 魔王の力と魔力を混ぜ合わせ、水晶に力をたたきつける。


 そして、アヴァロンにある水晶と目の前の水晶のリンクを開始。

 世界の壁を経て、俺のダンジョン同士が繋がろうとする。

 しかし……。


「ちっ、やっぱり壁が厚いか」


 思念が飛んでいくイメージは頭に浮かんでいく。

 しかし、深いどこかでそれ以上先へ進めない。


 それだけじゃなく、どこを目指しているかすらわからなくなる。

 前回はここであきらめた。

 しかし、今の俺の体調は万全だ。

 強引にでも前へ。

 俺に魔力を流し込むハイ・エルフたちが苦悶の表情を浮かべ始めた。かなり負担をかけてしまっている。


 見えない壁を思念が越えた。

 そこで、一つの勘違いに気付く。

 壁ではなく、ここから先はずっとひどい重圧に襲われ続けるようだ。


「まだだ、諦めてたまるか」


 心が折れそうになるのをぐっとこらえ、力を込める。

 進んでいる方向が正しいかもわからない。

 水晶同士のリンクだけではあまりにも頼りなくて、ここでは何も見えなくなる。

 そんなときだった、懐かしい感じがした。


 ずっと近くにあったもの。

 いつも、繋がり続けたあの温かさが伝わってくる。

 どくんっ、心臓が高鳴る。

 ああ、そうだ。

 忘れるはずがない。

 これは、絆だ。

 俺たちの絆。


 そう、俺がもっとも信頼する、もっとも愛した魔物たちの存在、【誓約の魔物】たちの温もりだ。

 もう、迷わない。

 世界の壁を超えて、ようやく繋がった。

 全力で叫ぶ、この壁に押しつぶされないように。


「俺はここにいる!」


 思念だけでなく、声でも発した。

 このか細い糸の先へと。

 届け、届いてくれ。


 背後でハイ・エルフの一人が倒れる。

 魔力の枯渇によって失神した。支援がなくなったことで、急に思念が引き戻されていく。


 一人が倒れたことで、負担が大きくなり、ほかのハイ・エルフたちも倒れていく。

 俺一人ではこれ以上維持はできない。

 限界か、そう思ったとき、小さく、ほんとうに小さな声が聞こえた。


「ご主人様、明日の同じ時間、こちらからもパスを」


 そこで途切れた。

 壁にすべてが押しつぶされ思念が途切れる。

 すべての力を使い果たして、俺はその場に座り込む。


「魔王様、大丈夫なのです!?」


 シエルが駆け寄ってきて、汗を拭いてくれる。


「大丈夫だ。……つながった。アウラが気づいてくれた」


【誓約】の魔物にして、エンシェント・エルフのアウラ。

 たった、数秒。一言だけだがつながった。


「ううう、でも、一言だとあまり意味がねーです」

「いや、さすがはアウラだ。あの一瞬で、ほとんど状況を察してくれた。【明日、同じ時間、こちらからもパスを】とアウラは言ったんだ」


 再会を喜ぶ言葉ではなく、俺を心配する言葉ではなく、アヴァロンの近況でもなく、その言葉を選び、思念が途切れるまえに伝えたアウラは称賛に値する。


 かろうじてパスがつながっただけで、今にもパスが切れることを察したから必要事項だけを言った。

 加えて、水晶同士のリンク機能だということもある程度推察できている。

 だからこそ、【明日、二十四時間後、こちらからもパスを】という言葉だ。


 こちら側が疲労しきっており、魔力が回復するまでの時間が必要だと推測し、明日を指定。

 最後のこちらからもパスを。というのは、俺たちがぎりぎりか細いパスを一瞬だけ繋ぐのが限界だったと見抜き、向こう側からこちらのパスを迎えにいくことで、より強いパスを作るという提案。


 アウラは、あの一瞬でそこまで考えて、あの一言を発したのだ。


「アウラ様、ぱねえですよ。さすがはアヴァロンで二番目にかしこい魔物なのです」

「ちなみに一番は?」


 まさか、こいつは自分なんていうつもりじゃないだろうな?


「そんなの決まっているです。デューク様ですよ。ちなみにシエルは五番目なのです。シエル、かしこいけど、デューク様とアウラ様にはかなう気がしねーです」


 あの二人は別格だ。

 アウラとデュークがいるから、アヴァロンを放っておいても安心できる。

 口に出さなかった三番目と四番目もだいたい想像がつく。シエルは自信家だが、うぬぼれやではないようだ。


 今頃アウラはデュークに事の次第を話し、アヴァロンの魔物の力を結集して、約束の時間までにパスを繋げるための準備を終わらせるだろう。

 おそらく、いや、確実に次の通信はうまくいく。


「みんなと話すのが楽しみだな」

「そうなのです! 帰るための方法もみんなで話せるですよ。パスがつながれば、転移で帰るのだってなんとかなるです」


 思った以上に収穫があった。

 アヴァロンへの帰還もそう遠くないだろう。

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