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第十五話:大魔王様の地下ダンジョン

 俺の演説が終わると、具体的な農地の割り振りや種もみの貸し出しが始まった。

 あとはドワーフ・スミスとハイ・エルフたちに任せる。

 だれが、どの土地を譲り受けるかで若干もめているが、想定の範囲内だ。

 そのことで領民を責めるつもりはない。生活がかかっているのだから必死にもなるだろう。

 ここは任せて、俺は館へ戻る。

 魔物たちの力は人間のそれとはくらべものにならない。

 騒ぎが度を過ぎれば力づくで押さえつけるだろう。


 ◇


 屋敷に戻った俺はシエルと、ダンジョンの防衛設備について語っていた。


「シエル、おまえの腹の中にある兵器はどれぐらいだ?」

「アヴァロン・リッターは先の戦いで全滅して、ほとんどロロノ様の工房においてきたです。ただ、比較的状態のいいのを数体だけ残してあるですよ。無事なパーツをつなぎ合わせるぐらいはできるです。なんとか二体ぐらいは使える状態にするですよ」


 アヴァロン・リッター。

 それは伝説の金属であるオリハルコンで作られたゴーレム。

 ボディだけでなく、動力も特注品だ。

 最上位ドワーフであるエルダー・ドワーフが生み出した至高のゴーレムコア。それを二つ搭載してシンクロさせた【ツインドライブ・ゴーレムコア】を採用し圧倒的な出力を誇る。


 その能力はゴーレムという枠を逸脱しており、通常状態ですらAランク上位の魔物に匹敵し、切り札たる【バーストドライブ】を使用すれば短時間限定でSランククラスの力を振るえる。


 アヴァロンが敵のダンジョンに攻め込むときの基本戦略は、シエルが敵の中央まで突貫し、腹の中のアヴァロン・リッターを大量に吐き出し、敵の陣形をぼろぼろにする電撃作戦。

 最強の三柱との戦いでも、この戦法を使った。

 多大な戦果を挙げたものの、百体以上のアヴァロン・リッターがほとんど大破してしまった。

 それほどの強敵だった。さすがは、最強の三柱と呼ばれる魔王だ。

 一歩間違えれば敗北していただろう。


「シエル、そのコンパチ作業。急いでくれ」

「ぴゅいっとお任せです」

「ミスリル・ゴーレムやシルバー・ゴーレムはどうだ?」


 ミスリル・ゴーレムはその名の通りミスリルでできたゴーレムであり、Bランクの魔物相当。

 シルバー・ゴーレムは銀でできたゴーレムでCランクの魔物相当。

 シルバー以下のゴーレムはドワーフ・スミスでも作ることができるので、こちらでも材料さえあれば補充はできる。

 ただ、魔王同士の戦争になるとどうしてもCランク相当では心もとない。

 強力な武器と、地の利で補うしかないだろう。


「そっちは、戦いが終わってすぐに補充したです。アヴァロン・リッターと違って予備がたくさんあるのですよ。ミスリルは百十二、シルバーは三百二十を格納しているです。銃器の類は、EDモデルは各種別ごとに十丁。通常モデルは百以上、弾薬は魔弾が全部合わせて二千。通常弾は二万ほどです」

「少し、心もとないな。ドワーフ・スミスをあと五体ほど増員する。武器と弾薬の補充を専任させるから指導を頼む」

「スライムづかいが荒いのですよ……でも、やるのです!」

「悪いな。アヴァロンの魔物が築き上げた英知を新たな仲間に教えられるのはシエルだけだ」

「有能すぎるのも考えものなのです」


 シエルがどや顔をしながら、膝の上に乗ってきたので撫でてやる。

 さまざまな魔物や人間の知識を吸収しており、誰よりも深い知識を持つ存在なのに、シエルは妙に子供っぽい。


「戦力は十分とは言えないが……やるだけはやるとしよう。シエル、行こう」

「凶悪なダンジョンを作るのですよ」


 地上部は平和で豊かな街。

 しかし、その地下は足を踏みいれるものすべてを根絶やしにする死のダンジョン。

 アヴァロンもそうしているが、ここもそうする。

 そうしなければ、どれだけたくさんのものを積み上げても、ある日突然水晶を砕かれてそれで終わってしまうのだから。


「そういえば、魔王様。この街の名前なんにするです? 魔王様のものになったのですから、それにふさわしい名前に変えるべきです」

「それもそうだな。考えておこう」


 仮初の拠点とはいえ、俺の街だ。

 名前も、いいものを用意しないとな。


 ◇


【魔王】の書を呼び出し、階層を増やし、地下一階を増築した。

 水晶の部屋が最下層へと移動していく。


 魔王のダンジョンは一階層につき三フロアからなる。

 地上部の街は、広く使える【平地】を二つと自然の恵みを受けやすい【森】エリアを一つと設定した。


 階層を追加するには多大なDPが必要だが、幸い、そっちには十分な貯金がある。

 魔王は、DPがある限りいくらでも階層を増やすことができるが、階層を増やせば増やすほど、階層追加に必要なDPは跳ね上がってしまう。

 ある意味、階層の深さは魔王の力を測る指標だ。


「地下一階の第一フロアはアヴァロンでもお馴染みのあれだ。ゆえに選ぶのは【石の部屋】」


 できたばかりの階層に、【石の部屋】を設置する。

 横幅と天井はわずか四メートルほど、しかし奥行きが二キロまである四方を石に囲まれた部屋が出現した。


 フロアを生み出す際、上限と下限はあるが、好きに部屋の大きさと形を設定できる。

 横幅と天井は【石の部屋】における下限、そして奥行きはほぼ上限。

 よくよく見ると、まっすぐな道ではなく傾斜がわずかについている。


「この部屋なら、こいつなのです!」


 シエルがミスリルゴーレムを体内から取り出す。

 その巨体ゆえに、二体ならぶだけで通路幅がぎりぎりだ。

 そして、その手には凶悪な鋼の暴力があった。

 ブローニングM2重機関銃。

 12.7mmの巨大な弾丸を、一分に約千発、音速の三倍近い速度で吐き出す化け物。

 歩兵が持つような武器ではなく、本来は戦闘車両やヘリに搭載する類の銃。

 ……そしてそれは基本スペックに過ぎない。


 エルダー・ドワーフのロロノが錬金技術と魔法金属で強化し、その性能は二倍以上になっている。

 ミスリルゴーレムたちのゴーレムコアに直結接続され、そこから魔力を供給されることで、科学と魔力、双方の力で弾丸を放つようになっているのだ。

 EDH-02S タイタン。

 人間が使用することなどまったく考えず、Bランク魔物の中でも、上位のパワーと巨体を持つミスリルゴーレムでようやく使えるようなモンスターに仕上がっていた。

 毎分千発以上で吐き出される弾丸の一発一発が、戦車の装甲すら打ち抜く威力だ。


「弾道計算、間違いはないな」

「自信あるですよ! このフロアは入り口から最後まで、全部キルゾーンなのです!」


 この回廊の二キロ少しというのは、EDH-02S タイタンの有効射程だ。

 ここに足を踏みいれた瞬間、弾丸の嵐が侵入者を襲う。微妙な傾斜は弾丸が重力に引かれて落ちるのを計算にいれ、その弾道に合わせたもの。

 ミスリル・ゴーレム自体はBランクの魔物に過ぎないが、EDH-02S タイタンの銃撃はAランクの魔物でも耐えられるものではなく、Sランクの魔物ですら、そう何発も受けられない。


 さらに、こうして二体ミスリル・ゴーレムが並び、射撃をすれば回避スペースなどほとんど存在せず、遮蔽物もない。

 そうするために、限界まで横幅と天井を狭くしてある。

 この回廊を抜けるには、鋼の嵐を身に受けながら二キロを走破するしかないのだ。


 シエルが、二キロの回廊を駆け抜けていく。

 もちろん、ただ駆け抜けているだけじゃない。いろいろと仕込みをしながらの疾走だ。


「魔王様、毒ガスと地雷の設置ができたですよ!」

「よくやった」


 まれに、物理攻撃に異様な耐性を持っている魔物が現れることがある。

 その対策として、毒と炎を使う。

 ある一定以上、フロアを踏破されると、エンシェント・エルフのアウラが、自ら品種改良して育てたとっておきの毒草から抽出した毒ガスがフロアを満たす。


 ほかにも、【焼却】の魔力付与〈エンチャント〉が施され、ナパームをばらまく地雷を埋めている。

 物理無効な魔物の多くは炎に弱く、そうでない場合は毒が効くことが多い。

 霊体系の魔物であれば、そのすべてが通用しないが、そいつらはミスリルゴーレムを壊せないため放置していい。

 次のフロアで、霊体系は始末し、この部屋は普通の魔物を通さないようにすればそれでいい。


「この部屋、コスパがいい割に戦果をあげてくれるから助かるよな」

「Bランクのゴーレムや、EDH-02Sクラスの武装を作れるのはロロノ様ぐらいなのです。コスパがいいというより、ロロノ様がすごすぎるのです」

「違いない」


 ロロノはアヴァロンの生命線だ。

 彼女がいなければ、アヴァロンはとっくにほかの魔王につぶされていただろう。


「さて、露払いはこれぐらいでいいだろう。残り二フロアを仕上げようか」


 普通の魔王が相手なら、この第一フロアだけで壊滅させられる。

 しかし、当然ながら、この第一フロアを突破してくる魔王はいる。

 ここはある意味、敵の力量を測ることこそが主目的。

 残り二フロアが本命だ。


 ……【戦争】になれば、守っているだけじゃ勝てない。

 勝つためには攻めなければならない。

 守りを第一に作るのは、攻撃に集中するため。

 守りをドワーフ・スミスとハイ・エルフ数体とゴーレムのみで行えるよう工夫をする。

 そうすることで、【収納】で共にこちらの世界に飛ばされた切り札たちすべてを攻めに使えるのだ。


「魔王様、けっこう焦っているですね。いろいろと急ぎすぎです。もうすぐ戦いになるですか?」

「そういう兆候はないんだがな、なんとなくそうなる気がする。不思議なことに、この手の勘は外れたことがない」

「魔王様の勘、ほんとよく当たるですからね……。でも、ラッキーなのです。このダンジョンで殺しまくれば、一気に力がたまるですよ。帰るために必要な力が集まるです」


 俺は笑顔と幸せを好み、そういう感情を得られる街を作っているが、効率だけを考えれば戦いの熱気と死の恐怖こそがもっとも強い感情だ。

 ……趣味ではないが【戦争】を仕掛けてくるバカなら、殺しても良心は痛まない。


「まあ、どっちに転んでもいいようにしっかりと準備をしよう。【戦争】の準備も街の住民集めも両方だ」


 何事も、備えあれば憂いなしという奴だ。

 ……さっそく明日への希望を得た領民たちから感情が流れ込み始めている。

 これなら、あれが試せるな。

【欲望】の魔王が言っていた、自らの水晶と予備の水晶のリンク。

 昨日は、なにか分厚い壁に阻まれたが、同時にもっと力を込めればどうにかなる気がした。

 腹が膨れている、今の俺なら十分可能性はあるだろう。

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