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第十二話:大魔王様は情報を集める

【欲望】の魔王エリゴルのダンジョンに慌てて戻ってきた。

 隣でエリゴルが息を荒くしていた。


「ふう、いきなり初期化を選ぶんだもん。びっくりした。あやうく海底に沈むところだったよ」

「悪かった。いきなり、崩壊が始まるとは思ってなかった」


 猶予がなさすぎてびっくりした。

 今回のダンジョンの設置場所がおかしいだけで、普通はダンジョンがいきなり消えて外に投げ出されても問題ないからこその仕様なのだろう。

 何はともあれ、水晶を手に入れた。

 この水晶があればダンジョンを作ることができる。


「プロケルはダンジョンを作るんだね。それって今すぐ?」

「情報が集まりしだいだ。人が集まるまで時間がかかるし、早く作るに越したことはない」

「なんなら、魔物貸してあげようか。君、強いけど。十体だけだといろいろと不便でしょ」

「いや、いい。気持ちだけ受け取っておくよ」


 ……そこまで、エリゴルを信用していない。

 それに、数だけなら無理やりなんとかする手段がないことはない。

 ダンジョンさえ設置できれば、やれることはいろいろとある。


「それで、どこにダンジョンを作る気」

「それは今から探す。こっちの情報がまだ全然足りないしな」


 ダンジョンを作るとき、立地というのは非常に重要だ。

 どれだけいいダンジョンを作ろうが、人の眼に触れるところにないと誰も立ち入ってもらえないし、街の噂が広がって、来たいと思う人間が居たとしてもアクセスが悪いと断念されてしまう。

 ただ、人通りが良く道が整備されている場所を選ぶというのも問題だ。

 ダンジョンの規模が大きくなれば、その国の持ち主が駆けつけてきて、いろいろと面倒なことになる。

 他国のものがいきなりその国に街を作れば、喧嘩を売っているのと同じだ。

 場所の選定をするには、キツネ姉妹から得た情報だけでは足りな過ぎる。

 情報収集をしなければならない。


「ふうん、決まったら教えてね。僕、君がどんなダンジョンを作るのか気になるんだ」

「ああ、エリゴルには世話になったしな。教えるよ」


 十分な守りを用意してからな。

 そう心の中で付け加えた。


「お互いいい取引になったね。僕は念願の思い通りのSランク魔物を作れるメダルを。君は帰還のために必要な拠点を手に入れられたんだから」

「そうだな。こっちに来て初めて出会った魔王が君で良かった」

「こっちもだよ。君と初めて出会う魔王が僕で良かった」


 握手をする。

 それから、二言、三言話してから街の表層部分に出ると告げて、エリゴルと別れた。

【欲望】の街で買い物と情報収集をするのだ。


 ◇


【欲望】の街はもっとも活気が出る時間になっていた。

 ここの主産業は、女だが、人が多く集まるだけにさまざまな商店がある。

 それ故に、これから新しく作るダンジョン……、俺の街に必要なものも多い。

 人目がつかない裏路地に入り、シエルに指示を出す。


「シエル。金貨を大袋いっぱいに出してくれ」

「ぴゅいっとお任せなのです」


【収納】の一枠にシエルを選んだのは、シエルが体内に多数の道具を収納できることも大きい。

 アヴァロンでは資源が回復する【鉱山】を持っており、不眠不休でエルダー・ドワーフのロロノが創り出したゴーレムが採掘している。

 ミスリルやオリハルコンと言った魔法金属は魔物の装備に使うためいくらあっても足りないのだが、金や銀、白金、鉄などと言った普通の金属は武器には使えずに余る。

 おかげで、シエルが生まれるまではアヴァロンに置き場所がなくなるほど鉱石類が山積みになっていた。


 そういうものがどこに行くかというと、全部シエルの腹のなかだ。

 アヴァロン内がすっきりして便利だし、こうして好きなときに取り出せる。

 シエル一体を連れて行くだけで物資の輸送が済むので、速度優先の作戦などでは頼りになる。加えて、万が一のケースを想定したものだって、重量やスペースを気にせず持たせられ、シエルがいればどんな状況でも、必要なものが手に入る。


「ぴゅいっと、ぴゅいぴゅい」


 シエルが吐き出した金塊を、ドワーフ・スミスからコピーした錬金スキルで金貨に加工していく。

 すでに、こちらの世界の金貨は目にしているので、材料さえあれば複製は可能。

 シエルの体内に保管している金塊の量は、数百トンを超えるし、白金や銀なども山ほどある。

 金に困ることはまずないだろう。


「できたのです。とりあえず、大袋まるまるなのです」

「ありとう」


 こっちでは金貨一枚あれば、四人家族が一月暮らせるらしい。

 そんな金貨が人一人入りそうな麻袋にいっぱい。

 少しやり過ぎたか。

 まあいい、どうせすぐに使い切るだろうし、買ったものはすべてシエルの腹の中。

 すぐに身軽になる。


 ◇


 買い物を終えた。

 あまりにも大胆な金の使いっぷりに少々悪目立ちしたり、スリや強盗に狙われたが、問題ない。

 買い物をしながら、シエルに別の仕事を任せている。

 そろそろ、結果がでるころか。


「それでどうだ。良さそうな案件は見つかったか? 金で動く貴族がいい」

「ちょうどいいのがあったのですよ。愚かで無能な貴族がいたのです。しかも妻も子供もいねーです。魔王様の指定通りですよ」

「それはいい」


 買い物をしつつ、シエルには片っ端から貴族や商人、いわゆる金と権力と情報を持っていそうな人物の髪などを食べさせていた。

 シエルはSランクの魔物。Sランクの魔物としてはステータスは低いが、普通の人間に気付かれずに髪の先を切って口に含むなど朝飯まえだ。


 シエルのスキル、【模倣】は相手の一部を体内に取り込むことで相手の姿への変身及び、相手のスキルを使用可能になる。

 その副次効果で相手の知識も得られる。

 この街は、権力者が多い。

 すなわち、情報収集にはもってこいなのだ。


「ふむ、それでその貴族の領地はどこにある」

「聞いてくださいなのです。ここから百キロほど先にある農業を中心とする村を三つほど管理する領地なのですが、栄えている街二つの中心点、どっちからもそれなりに離れているのですが、どちらも馬車で一日あればいける距離なのです」

「なるほど、街を作るには悪くないな。それで、その貴族はどうバカなんだ」


 このタイミングで、この条件。まるで、俺に街を作れとこの世界に言われているような気がする。


「ギャンブル狂いの女好きで、借金まみれなのです。借金を踏み倒す気がまんまんで、大商人から大金を借りてたですが、その大商人のバックに自分よりえらい貴族がいて詰んだですよ」

「よくある話だな」


 貴族という人種は自分が特別だという思い込みがある。

 特別な人間だから、借金など払わなくてもいい。そいつは借金がいくら増えても、まったく恐れはしなかっただろう。

 だが、商人もバカじゃない。そういう相手に貸すのなら、相応の後ろ建てがあるだろうし、相手がすべてをなげうてば返せるだけしか貸さない。

 俺の街の場合、その後ろ盾に俺が使われることも多かったし、その辺はよくわかる。


「そこからが傑作なのですよ。貯蔵しているコレクションを売りたくないから、領民から限界まで絞り取ったです。そのせいで、領民から餓死者が出たり、身売りが続いたです。しまいには夜逃げしたり、暴動。領地の収入がた落ちでギャンブルやらなくなっても金利すら返せなくなってるです」

「すばらしい。俺の街はいいスタートが切れそうだ」


 こんな地獄のような状況で、まだ領地に残っている人間は、よほどの事情があって離れられないか、同じことを繰り返すしかない無能で外に出る勇気がないものだ。

 故に、飼いやすく、そこにダンジョンと街を生み出せば、そのまま住み着いてくれる。


「シエル、この国のほうはおおよそ把握したな」

「たくさんの商人と貴族の知識を照合して、体系化したです。なんでも聞いてくれです」


 シエルは優秀だ。

 調子に乗りやすいところを除けば。


「情報収集と買い物は十分だな。よし、クミンとアルヒを拾って、下準備を終えたら、その馬鹿が治めている領地とやらに行こうか」

「はいです! 新しい土地を手に入れるですよ」


 さあ、行こう。

 俺はこう考えている。国の外から異端者がやってきたら目をつけられる。

 そうであるなら、この国の貴族になり、もとから持っている領地を開拓したことにしてしまえばいいと。


 ◇


 アルナバーグ公国の貴族、ツタイヤ・ファルナーデ男爵は屋敷に籠り、頭を抱えていた。

 屋敷の周囲では、私兵たちが見回りをしている。

 そうしないと、いつ農民たちに襲われるかわからないからだ。


「……足りない。今月の返済が足りない」


 金がない。

 どうしようもなく。

 どうせ踏み倒すつもりで高い金利で商人から借りたが、そのバックにコルチナラ侯爵がついていた。王家ともつながりがある家であり、コルチナラ侯爵を敵に回せば殺される。


 ゆえに、法外とも言える金利を払い続けるしかなくなった。

 金利だけでも相当額で、元金を減らす余裕などはありはしない。収入が減っていることが苦境に拍車をかけていた。 


 今のファルナーデにおける領民数は最盛期と比べると半分以下になっており、当然税収も相応になる。

 いや、それ以下だ。

 搾り取り過ぎた結果、種もみを残す余裕がなく種付けすらできない、働き手がぼろぼろでろくに世話をできず、今年はろくに収穫できなかった。


 もはや、領民たちは干からびており、どれだけ絞っても何もでてこない。

 手を出すまいと決めていた美術品も返済のために売り払い始めた。

 それでも、絶対にこれだけはと、思うものが机の上にあった。

 ルビーに似た魔石をあしらった女神像。

 売りたくない。

 一度手放してしまえば、二度と戻ってこないだろう。それほどの品だ。

 ツタイヤ・ファルナーデ男爵はこの女神に惚れていたのだ。


「どうして、こんなことに。うううう、助けてくれ、誰でもいい、例え悪魔でも」


 救ってくれるなら、例え悪魔とだって契約する。

 しかし、そんな都合のいいものはない。

 コルチナラ侯爵は絶対に逃がしてはくれないだろう。

 いっそ、死ぬか。

 女神と引き離されるぐらいなら死んでやる。

 そんなふうに考えたときだった。扉が開く。

 青髪の美少女を従えた、黒づくめの少年だった。

 年若く、線が細いが、身にまとう空気は歴戦の兵のそれで、多くの貴族を見てきた故に、けっして油断していい相手ではないと彼にはわかった。


「貴様らはいったい何者だ? どうやって入ってきた。見張りは、見張りはどうした!!」

「ぴゅふふふ、あの程度でシエルを止められるわけないのです。あんなの、ぴゅいっという間ですよ」


 少女が笑う。

 見た目は可愛らしいのに、背筋が凍り付く。本能が叫びをあげている。

 人間じゃない。

 それは黒い少年も同じだ。

 まさか、本物の悪魔なのか。


「シエル、あまり脅かすな。ツタイヤ・ファルナーデ男爵。俺はおまえを救うためにここへ来た。おまえの借金も、ファルナーデ男爵という地位も、領地も、民も、全部俺が引き受けてやる。おまえには新しい名前と生活と、一生遊んで暮らせる金をくれてやろう。身に合わぬ袈裟は脱いですべてを委ねろ。そうすれば、その大事な女神様と余生を楽しく暮らせる」


 その男は、ぎっしりと金が入った布袋、そして、何枚かの書類を差し出した。

 どこで手に入れたのか、王家の家紋が入った正式な書類だ。養子の申請に、後継者への資産と権力の委譲。

 そして、そういった書類の他には、自分の筆跡でかかれた遺言状と、隣国における誰かの戸籍に、住み心地が良さそうな住居、そこにいる使用人たちのプロフィールなどなど。

 ツタイヤ・ファルナーデ男爵は、それを見て、どんな契約を持ちかけて来たか理解した。

 この男は、人を堕落に誘う悪魔だ。だけど、それでも。


「これで楽になれる」


 その一心で、ツタイヤ・ファルナーデで男爵はその書類にサインし、最後まで残した宝ものと金を手に、男が用意した豪華な二頭立ての馬車に乗り込み、新天地を目指した。

 金と女神があれば、もうこんな自分を苦しめるだけの名前も場所もどうでもいい。

 これでやっと、自由に幸せになれる。

 彼を乗せた馬車は闇夜を風のように走っていった。

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