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第十一話:大魔王様はダンジョンを手に入れる

10/25「魔王様の街づくり」コミカライズ一巻発売です! 動きまわるクイナやロロノを是非楽しんでください

 考えるための時間をもらった。

 考え事をする間、来客用の部屋をと提案を受けたが丁重に断った。

 ……ダンジョンにいるということは、魔王の腹のなかにいるのと同じ。

 すべてが筒抜けになってしまう。

 故に、【欲望】の街から出て、シエルの能力で簡単な小屋を建てた上で作戦会議を開いている。


「……どう考えても、話がうますぎる」


 メダル一枚とダンジョン一つなんて俺が得しすぎている。

 あの場では嘘を言えないような【誓約】をしていた。

 Sランクの魔物をなんとしても手に入れたいという言葉に嘘はないだろう。

 だが、それは何を差し出してもいいということとつながりはしない。


「シエル、どんな裏があると思う?」


 こういうときは、いつもアヴァロンの参謀たるデューク、あるいは俺の師匠でもあるマルコに相談していた。

 ……彼らがいてくれたら、そう思うのはきっと俺の弱さだろう。


「一番可能性が高いのは、【創造】の水晶を砕くためなのです。魔王様をぶち殺したところで、【創造】は手に入らねーです。一度、水晶を【支配】して【創造】にしてから砕くことで、【創造】の力が手に入るです。それがあの魔王の狙いだと思うです」

「だろうな。それが一番可能性としては高い」


 こちらの世界にあるルール、【支配】。

【欲望】の魔王エリゴルの話では、【支配】した瞬間、自らの属性に染まり、ダンジョンはブランク状態になり、魔物は消えるとのことだ。


 つまるところ、その瞬間を狙われた場合には手持ちの戦力で戦わざるを得ない。

 ……【収納】していた十体の魔物だけで。


 俺はこの戦力でも、攻めの戦いなら勝算はあると思っていた。

 だが、水晶を守る防衛戦ではどれだけ策を凝らしたとしても数がいなければどうにもならない。


 かつて、アヴァロンでは少数での防衛に成功したことがあった。それはエルダー・ドワーフたるロロノが作りあげた強力な武器があったからであり、今の戦力でそれができるとは思わない。


「魔王様、防ぐのは簡単なのです。エリゴルに新しいダンジョンを攻めないように約束させるです」

「それにも穴があるな。エリゴル自身じゃなく、彼女の仲間が襲ってくるかもしれない。帰るために水晶を得てダンジョンを得ることは必須ではあるが、ダンジョンを構えること自体がリスクになる」

「むう、難しいのです」


 もっとも、それでも答えは決まっているのだが。

 エリゴルの言う通り、Sランクの魔物を魔王の力でバックアップしない限り、望みの世界への転移なんて真似はできない。

 そして、俺が背負うリスクは【創造】を他の魔王にも使われるだけ。


 予備が壊されたところで、魔物たちが失われることはなく、振り出しに戻るだけなのだ。

【水晶】を守り切るのは難しいが、逃げ延びることだけなら【収納】している魔物の力を借りればさほど難しくない。

 なら、リスク覚悟で話に乗るべきだ。


「警戒しつつ、向こうの提案を受け入れよう。あとは、追加条件で向こうが攻めにくくする」

「シエルも一緒に考えるのです」


 さあ、半日でいろいろと考えてみよう。


 ◇


 再び、【欲望】の街に足を踏み入れる。

 すでに日は暮れ、夜になっていた。

 しかし、街は昼間以上に眩しく、煌びやかだ。

 キツネの姉妹は仮設拠点に残して来た。そちらのほうが安全だからだ。護衛としてシエルの分裂体をつけているため、そうそう攫われることはない。


「やはり、こういう街は夜が本番だ」


 ひっきりなしに馬車が出入りしていた。

 ……ただ、少しだけ疑問はある。

 女という商品に需要があるのはわかるが、それだけでわざわざ遠方から訪れるのか?

 高級娼館なんてものなら、ある程度の規模がある街ならあって当然だ。

 ここでは、人を人とは思わない残虐な趣向が楽しめるとはいえ、それだけでは弱い。

 

 贅を知り尽くした貴族や大商人たちが、わざわざここにくる理由が何かあるはずだ

 それは、もしかしたらエリゴルの弱点になるかもしれない。


「お待ちしておりました。プロケル様」


 悪魔の紳士、アザゼルが出迎えてくれた。


「悪かったな二度手間になって」

「いえいえ、魔王と魔王の契約です。慎重になるのも当然と言えるでしょう。では、こちらに」


 そうして、俺とシエルは再び、エリゴルの居室に招かれた。


 ◇


 エリゴルは着替えていた。

 深い切れ込みがあるナイトドレスで谷間や太ももが見える煽情的なものだ。


「お色直しをしたんだ。どう、似合うかな」

「似合っているよ」

「良かった。ねえ、プロケル。これが終わったら、僕の街で遊んでいかない。きっと楽しいよ。……君、可愛いからさ、なんなら、僕がじきじきに可愛がってあげるよ」


 エリゴルがしなだれかかってきて、俺の耳元でささやき、耳たぶを舐める。

 ぞくりとした。

 ……魅力チャームの力を感じる。


「あいにく、俺の好みはもっと成熟した女性だ」

「残念。僕の体、とっても気持ちいいのに。それで、答えは出たの?」

「ああ。【創造】のメダルを差し出そう。代わりに、予備のダンジョンをいただく」

「そうこなくちゃね」

「その際に、追加条件だ。誓約ゲッシュにこう書き加えてほしい。【欲望】の魔王エリゴル及び、その魔物は【創造】の魔王プロケルの許可なしに【創造】のダンジョンに足を踏み入れない」

「……へえ、そういう方面で疑われてるんだ。うん、いいよ。だって、その【創造】美味しそうだもんね。今までも狙われてきただろうし、不安になるのも仕方ないよね。その条件を呑むよ」


 俺の許可なしに足を踏み入れられないというのがミソだ。

 この場合、エリゴルが攻めてこれないうえに、たとえエリゴルの友好者が俺のダンジョンを制圧したとしても、エリゴル本人がダンジョンに足を踏み入れられず、【水晶】を砕けない。


 つまり、エリゴルは【創造】の力を手に入れられない。

 むろん、友好者に【創造】の力を与え、間接的にその恩恵を受けることはできる。

 だが、そこまで魔王は魔王を信頼できない。

 他者に【創造】の力を持たれることをエリゴルは嫌がるはずだ。それが抑止力になる。


「じゃあ、さっそく行こうか。僕の予備ダンジョンへ。きっちり転移陣を刻んでるからね、ひとっとび」

「なら、さっそく頼む。俺もダンジョンはすぐに手に入れたいからな。これが対価だ」

「たしかにもらったよ。ふうーん、これが【創造】。たしかに、本物だ」


 魔王はメダルを見れば、その力が把握できる。


「これで、僕は、届く。ふふ、ついに、夢が叶う」


 満面の笑顔で、昏い声で笑う。


「プロケル、おまけをあげるよ」


 そう言うなり、抱き着いてきて唇を合わせてきた。

 舌を絡ませる大人のキス。

 脳が痺れ、背筋に電撃が走って、腰が抜けそうになる。


「はい、終わり。ねえ、今なら、やっぱり抱きたいって言ってもいいよ」


 見下ろすと潤んだ瞳と、胸の谷間が見えた。

 白くて、滑らかで、とてもうまそうだ。


「必要ないな。エリゴルは俺の趣味じゃない」

「やっぱり、ババア専か。変なの、まあいいや。さあ、さっそくでかけよう」


 それ以上、俺を誘惑することはなかった。

【欲望】の魔王という名は、伊達じゃない。

 あのままだと、篭絡されかねない。

 肉欲を支配するあの魔王に。


 ◇


 案内されたダンジョンは何もなかった。

 不自然なほどに。

【支配】した瞬間ブランクになるとは聞いていたが、おそらくそのまま放置しているのだろう。


「もったいないな。運用すればDPを稼げるだろうに」

「だろうね。でも、僕は自分の街の運用で精いっぱい。人に任せればいいんだけど。……ぶっちゃけ、信用できる人がいないんだよね。だから、予備兼避難先で十分」

「放置するのはいいが、こんな何もないダンジョンならすぐに【水晶】を砕かれるだろう」

「あっ、それは大丈夫。うちの転移陣以外の方法じゃ、まず入れない場所にダンジョンを設置したの。ここさ、海底二千メートル、それも一番近い大陸から数百キロ離れてる。見つかることはありえないね」

「予備と避難先として運用するだけなら、ある意味最高の守りだ」


 広い海のどこか、海底二千メートル。

 そんなもの見つけ出すことが不可能だし、見つけたとしてもたどり着くことが非常に難しい。


「……だがな、そんなところにあるダンジョンをもらっても、どうにもならないだろう。いや、違うか。元の持ち主が、こんな場所にすき好んで居を構えるとは思えない。【支配】した後は場所を移動できるということか」

「そういうこと」


 魔王は、ダンジョンに人間を呼びこまないとどうにもならない。

 海底にダンジョンがあれば守りには優れるが、人が呼べず、確実に飢え死にする。

 魔物も人間も動物すらいない無人のダンジョンを真っ直ぐに歩いていく、たった十五分ほどで【水晶】の部屋にたどり着いた。

「さあ、【支配】してみよう。やり方は単純だよ。【水晶】に触れて、【魔王の書】を開き、全力で魔力と意思を注ぎこむ。自分のものになれってね」


 たしかに単純だ。

 問題は、俺にそれができるか。俺たちの世界にはなかったルール。

 それは知らされていなかっただけなのか、できないことなのか。

 それはやらなければわからない。

【水晶】に触れ、魔王の書を出す。


「【支配】」


 言葉にし、自分色に染め上げるイメージ。

 魔王の書がぱらぱら開かれていく。すると、最後のほうにある空白のページに光る文字が描かれていく。

 魔王の書の空白部分は気になっていたが、まさかこんなことで埋まるとは。

 そして、文字が止まった。

 まだ、空白がある。

 それは、まだ知らない魔王のルールが隠されている証拠かもしれない。

【水晶】が輝きを増し、完全に俺色へと染まった。

 もはや、感覚でわかる。これは俺の物だ。


「おめでとう。これで君はこっちでも水晶を手に入れたね」

「ああ、ありがとう」


 まずはダンジョン、いや街を作ろう。

 そして、力を貯めないと。

 どっちみち、【創造】のメダルを差し出した以上、次にSランクの【転移】能力を持つ魔物を生み出せるのは一か月以上あとになる。


 ……それから、とあることに気付いた。

 久々に出した魔王の書、そこには俺の持っていない魔王の能力が選択可能になっていると書かれていたのだ。


 それは、【遷】の魔王、俺をこちらに飛ばした魔王の能力だ。

 きっと、クイナたちだ。俺が帰ってこられるように、【遷】の魔王の【水晶】を砕いて、その能力を使えるようにしてくれた。

 あの子たちは、あの子たちにできるやり方で俺を帰還させようとしている。

 そのことが非常にありがたく、うれしい。

【遷】のメダルと、【創造】を使えば、かならず帰るために必要な魔物が生み出せる。

 あとはダンジョンで多くの人間を呼び、感情を喰らうことで力を取り戻して、生み出した魔物をバックアップしてやればいい。

 そんなふうに考えていると脳裏に声が響いた。


『【支配】を確認しました。現、【欲望】のダンジョンが【創造】のダンジョンへ変更。【創造】の魔王に問います。初期化しますか? 返答は一分以内にお願いします。返事なき場合は現状維持とします』

「エリゴル、初期化するかを聞かれているんだが」

「ああ、それね。【支配】のあと水晶に戻すか、ただ魔物とダンジョンの部屋が消えるのか選べるんだ。初期化は水晶に戻すほうだよ」

「なら、初期化しかないな」


 ダンジョンの位置を変えるには水晶に戻すしかない。

 水晶状態でないとダンジョンは移動できないのだ。


「初期化する」

『初期化を開始します。警告、【水晶】を使用し、48時間以内にダンジョンの作成を実行ください。それができない場合、水晶は消失します』


 ……48時間か。

 それまでに、ダンジョンを設置する最適な場所を選ばないといけないのはなかなか難しい。

 どれだけ集客できるかの大部分は立地で決まるのだから。 

 地響きが始まる。


「プロケル、走るよ。たぶん、五分ぐらいでこのダンジョンが消えるから」

「それはまずくないか?」

「まずいね、海底二千メートルに放り出されて、水圧でペッシャンこ」


 想像もしたくないな。

 俺たちは転移陣に向けて走る。

 ようやく、帰るための道筋が見え始めた。

 今のところ、エリゴルは仕掛けてくる気配はない。

 何事もなく、順調に行けば遠くないうちに帰ることができるだろう。

 ……しかし、それはありえない。

 必ず、これからいくつかの困難が襲い掛かってくるだろう。

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10/25発売のコミック一巻もよろしくお願いします!

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