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第十話:大魔王様は異世界魔王を知る

 正直、出鼻をくじかれた感じはする。

 この街を見て想像していた魔王は、欲望に忠実な男性型。


 だが、実際にあってみて驚いた。可憐な少女だったのだ。

 欲望のはけ口としてこの街を作ったわけではないし、極度のサドで少女たちがいたぶられるのを見るのが好きというわけでもなさそうだ。


 なのに、こんな街を作ったのはひとえに、それが感情を集めるのに、もっとも効率がいいからという判断だろう。


 油断できない相手だ。

 異常なまでに計算高い。

 俺は、まずは交渉をし、それが無理そうなら、【戦争】になるよう誘導することを考えていた。

【戦争】になれば、一時的にでもクイナたちと合流できるからだ。

 だが、その狙いも看破された。楽しそうに【欲望】の魔王エリゴルは俺を見る。


「面倒事は嫌いだから、単刀直入に第一の提案をしよう。こちら側の魔王について一通り教えるし、それ関連なら質問にも答えよう。そのかわり、君のメダルと能力について教えてほしい」


【欲望】の魔王エリゴルはいきなり、自分の要求を突きつけていた。

 交渉術としては下の下。

 本来、自分の目的というのは隠す。それが弱みにも繋がるからだ。


 あえてやっているのだろう。お互い、腹の探り合いをやめてシンプルにいこうと。


「構わないが、それでいいのか?」

「まあね、僕にとってその情報は千金に値する。そのかわり、まずは【誓約ゲッシュ】をしようか、お互い、契約で嘘をつかないようにね」


 指を噛み切り、その血をもって術式を刻む。

 やぶれば、即破滅をする強制契約を、魔王たちの間では【誓約ゲッシュ】と呼ぶ。

 その術式は、俺の知るものと同じ。

 仕組み自体が、魔王という生き物の構成に関わっているものなので、この【誓約ゲッシュ】を使ったということは、こちらの魔王もほぼ同種の生物と考えられる。

 もっとも、相手が一方的にこちらの情報を知っていて、ミスリードを誘っていれば話は別だが。

 こちらと異界の魔王の体のつくりの違いで、この【誓約ゲッシュ】が俺だけに有効になる可能性が否定できない。


『シエル、【解析】系のスキルをすべて使ってこの【誓約ゲッシュ】がエリゴルに意味をなすか確認を』

『お任せなのです』


 シエルがエリゴルを凝視する。

 それから、ぴゅいっと鳴いた。俺の杞憂だったようだ。


「うわぁ、プロケルってすっごく用心深いんだね。あえて言おうか。僕は取引で嘘をつくほど、腐っちゃいない。……魔王の誇りを賭けてもいいよ」

「疑ってすまなかったな」

「いや、怒ってはないよ。ここで、疑わないボンクラなら、交渉する価値もない相手だしね」


 ある意味、やりにくくて、ある意味、やりやすい。

 油断できない相手ではあるが、頭が良く合理的な相手とは交渉が成立しやすい。

 俺も指を噛み切って血で誓約を行う。


「これで【誓約】完了だね。これで、期限は今日一日、お互い嘘はつけない」

「そうだな。嘘は言わない」


 意味ありげに笑い合う。

 嘘をいわないのと、騙さないのは違う。

 出す情報を取捨選択することで、相手に勘違いさせることもできるし、言い方を工夫すれば、言葉は別の意味に聞こえる。

 お互いそれはわかっている。


「まずは俺からの情報だ。俺の能力は【創造】。魔力を対価にして、記憶にある物質を作り出す能力。生きているもの、魔力を纏うものを呼び出せないという欠点がある」


 説明しながら、実演する。

 呼び出したのはナイフ。アヴァロンの名工が作ったもので魔力がこもらない武器では規格外の切味を誇るもの。それを複製したもの。

 お近づきの印にプレゼントする。


「へえ、いいナイフだね。ありがたくいただくよ。それで、君のメダルはどんな魔物を生み出せるのかな」

「特殊なメダルだ。通常、魔物を生み出すとき、二種類のメダルを組み合わせる。だが、【創造】は違う。二種類のメダルに【創造】を追加しないとならない。その代わり、メダル三枚分の力を注げる。加えて、メダルで生まれる魔物の可能性、そのすべてから望むものを引き当てられる」


 それこそが、俺の【創造】の力。

 使用したメダルの組み合わせで生み出せる、すべての魔物から望むものを引き当てられるという特異性。

 しかも、三枚分のメダルを使用することで、Sランクの魔物を生み出せるのだ。


「反則もいいところだね。羨ましすぎて殺意すら覚えるよ」

「よく言われる。だが欠点もある」

「それはなにかな?」

「【創造】以外のメダルに、二枚メダルを使うのはさっきも話したが、【創造】以外に一枚はオリジナルメダルが要求されること。つまり、【創造】はそれだけじゃなんの役にも立たない」


 オリジナルメダルは、それぞれの魔王が月に一枚生み出すものであり、別の魔王から譲ってもらわないと手に入らない。

 その意味では非常に不便だ。

 もっとも、魔王の力の源である水晶を砕けば、月に一度メダルを生み出すタイミングで、自分のメダルか水晶を砕いた魔王のメダルかを選べるようになるが。


「……それでもメリットが大きすぎるね。欲しいな、【創造】。君の魔物がそれだけぶっ飛んだ強さなのも納得だ」

「さあ、情報は差し出した。次はそちらの番だ」

「うん、いいよ。じゃあ、こっち側の魔王ルールを全部教えてあげる」


 エリゴルは次々に魔王ルールについて語る。


 水晶をコアにしてダンジョンを生み出せ、水晶を砕かれれば魔王の力すべてを失うこと。


 魔王の書で、ダンジョンの構成を変更でき、さまざまな部屋や罠を生み出せること。


 月に一枚のメダルを生み出し、二枚組み合わせて魔物を作ること。


 一度使ったオリジナルメダルであれば、DPを捧げることで、一ランク性能が劣るイミテートメダルを作れること。


 一度生み出した魔物は、その二ランク下の魔物をDPで手に入ること。


 魔王同士であれば【戦争】が可能であり、創造主によって白い部屋に呼び出されて、お互いの水晶の砕き合いができること。


 ……その他、さまざまなルールを聞いているが、詳細まで含めて、俺たちの世界と同じだ。

 しかし、一点だけ違うところがあった。


「【支配】だと。そんな、ルール、俺たちにはない」

「それは興味深いね。【水晶】を砕けば、その魔王の能力とメダルを作る権利が得られるのは僕たちも一緒。だけど、砕かないって選択肢もある。そのときは触れて魔力を注いで、自分の色に染め上げる。するとさ、【水晶】の属性が自分の色にかわる。能力とメダルが得られない代わりに、ダンジョンがまるまる手に入るってわけ。もとの魔物は、消えちゃうけどね。最大のメリットは、自分の水晶が一つ砕かれたって、【支配】したダンジョンがあれば、その水晶をコアにしたダンジョンは消えるけど、魔物も魔王の力も無事ってわけ。予備に引っ越せば、立て直せる」


 予備にできるのは魅力的だ。

 どうせ、魔王の水晶を砕いて、得られる能力は三つまで。

 メダル自体に魅力がない魔王であれば、【支配】のほうがよほどメリットが大きい。


「面白いな、それ。俺にもできるのか」

「さあね、やってみないとわからない。これで、一つ目の約束は終わり。じゃあ、次だね。君さ、ダンジョンがないってすっごく不便じゃないかな?」

「まあな。俺は大食いだ。今のままじゃ遠からず飢え死ぬ」

「だろうね、ならさ、ダンジョン欲しくない? 君って頭良さそうだし、ダンジョンを手に入れたらいろいろできるんじゃない」

 こっちでダンジョンを作るか。

 たしかに、ダンジョンがあれば選択肢が増える。


「そこまで長居するつもりはないさ」

「……へえ、本当に? 世界を渡るほどの転移、それも無数にある世界の中から選んで跳ぶんだよ。かなりの力技だ。たとえ、君がSランクの魔物を作れるとしても無理があると思うな。それこそ、全力の魔王のバックアップがない限りね。そして、そのバックアップをするには、ダンジョンが必要なんじゃない。お腹が減ってる魔王さん」


 痛いところを突く。

 ただ、世界の壁を越えるだけなら、魔王やSクラスの魔物であればできなくはない。

 それこそ、俺を飛ばした魔王がそうしたように。


 だが、無数の世界から一つの世界を選んで跳ぶとなると消費魔力は跳ね上がる。

 シエルが試算したが、たとえアヴァロンにいる転移特化型の魔物、ティロですら不可能だという結果が出た。


「エリゴル、おまえは、予備のダンジョンを俺に【支配】させようとしているんだろうが、今の俺に払える対価はないぞ」

「あるよ。ちゃんとある。君の【創造】のメダルだ。それと、僕の予備ダンジョンを交換してあげる。しかも【支配】を試してだめなら、契約を破棄するって条件付き。お得でしょ」

「メダル一枚と、ダンジョン一つか、俺が得しすぎだ」

「Sランクの魔物だ。それも可能性を選べる。僕の秘密、弱みを打ち明けよう。僕は僕の望みを叶えるため、絶対に作らないといけない魔物がいる。その魔物を作れるなら、ダンジョン一つ差し出してもいい」


 あまりにもうまい話だ。

 だが、ここで嘘はつけないはず。

 状況を考えるかぎり、契約をしないという選択肢はない。

 それでも……。


「すまない、半日だけ考えさせてくれないか。ここで答えは出せない」

「まあ、いいけどね。僕としては、ここまで譲歩しているんだから、即決してほしいところだね。いっとくけど、これ以上びた一文払わないから」

「すまないな優柔不断で」


 嫌な予感がした。

 首筋がちりちりとする感覚。

 俺の中で、何かが叫んだのだ。それは罠であると。

 この感覚が外れたことがない。

 故に、今からその感覚の理由を探るのだ。

 

 

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