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三十四

 一歩踏み出す度、そこはまるで死地だった。

 カタリナの剣は隙が無い。こちらが無駄な動きをする都度、剣は弾かれとどめを刺してくる。

 鎧越しに感じる胸の鈍痛にダンカンは呻きを上げて立ち上がった。

「もう一本!」

「良いわよ」

 間合いを取りダンカンは一気に距離を詰めた。

 バルドの戦いでから教わった虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。

 だがカタリナは片手を剣の刃の根元付近を持ち、短い剣として受け止め、弾き、翻弄し、ダンカンは再び間合いを広げられた。

 両手剣の間合いだ。

 そう気付いた時は遅かった。嵐の様な猛襲がダンカンを襲い、彼は避けつつも再び剣先で身体を突かれたのだった。

「勝てぬな」

 肩を上下させ荒い呼吸を繰り返しているとカタリナが言った。

「隊長、休んでる暇は無いわよ」

 幾度もそう厳しい言葉を掛けられ、それに叱咤激励され、ダンカンはぶつかって行った。

 しかし、ただぶつかるのでは駄目だった。

 ダンカンは倒れ、起き、倒れ、起きの繰り返しだった。

 イージスの死を思い出す。もう誰も部下は仲間は死なせは無しない。

 その思いがダンカンの心の火を点ける。

 カタリナは多少手加減してくれているのだろう。こちらの猛撃を剣で受け止めていた。

 だが、一薙ぎされ、ダンカンはよろめいた。

 しまった。と、思った時にはもうお遅い。刃の切っ先が顔に突き付けられていた。

「隊長、今日はもう終わりにしましょう」

 カタリナが手を貸してダンカンを起こしながら言った。

「いや、まだだ」

「最初の頃の冷静さが見られないわ。今日はこれ以上やっても私には勝てないわよ」

 そう言われ、ダンカンは呻いた。

「わかった。終わろう」

 朝から訓練をし、今は夕暮れ間近だった。剣を振るっていると時を忘れる。

 バルド相手にフリットとゲゴンガが互角の戦いを見せていたが、こちらも敗北していた。

「みんな、御苦労。今日はここまでだ」

 バルドは息を乱してはいなかったが、フリットとゲゴンガは完全に疲労困憊の様子であった。

 そして一月が経った。

 今日は新兵達が兵卒となり各分隊に配属される日だった。

 例によって城の外で行われた。

 分隊と新兵達が向き合うような形となり、太守バルバトス・ノヴァーの男らしい声が新兵の名と配属先を告げた。

「アカツキ、ダンカン分隊への配属を命じる」

「はっ!」

 威勢の良い声が木霊し、あのイージスの息子アカツキがダンカン隊の前に進み出て来た。

 父譲りの長身だが、以前会った時よりも伸びているようにダンカンは感じた。

「アカツキ、これからよろしくな」

「はっ、ダンカン分隊長!」

 相手は敬礼した。性格も以前のように荒っぽくなく軍人らしくなった。きっとアジーム教官の教えを受けて自分が一人じゃないことを悟ったのだろう。

 新兵の配属会が終わり、各分隊は自分達の中に入った新兵に好意的な声を掛けて門を潜ってゆく。

 アカツキがダンカン隊に配属されたのは、アジームの推挙だろうか。今度会ったら訊いてみようとダンカンは思ったのだった。



 二



 アカツキの歓迎会として、あのブリー族のいる飲み屋へダンカン隊は出掛けていた。

「さぁ、俺のおごりだ。どんどん食べて飲んでくれ」

「やった」

「隊長、太っ腹でやんす」

 ダンカンが言うと、フリットとゲゴンガが声を上げて給仕を呼び、あれやこれやと注文した。

「アカツキ、お前も遠慮するな。俺の驕りだ。いくらでも食え、飲め」

 ダンカンが言うと、アカツキは頷いた。

「だったら――」

 大人になったいえど、まだまだ育ち盛りだ。アカツキもまた我武者羅に料理を頼んだ。

 フリット、ゲゴンガ、アカツキは、夢中になって飲んで食べたりしていた。それはそうだ。兵舎の飯は不味くはないが献立も決まっており何度も食べてくると、よほど空腹でない限り飽きるのだ。おまけに酒は出ない。

 ブリー族の演奏を聴き、軽快なダンスを見ながら、ダンカンは杯を掲げた。

「アカツキに」

 ダンカンが言うと、カタリナ、フリット、ゲゴンガ、バルドも杯を上げた。

「ほら、アカツキ君、あなたの歓迎会なんだからグラスを掲げなきゃ」

「は、はい、副長」

 カタリナが優しく言うとアカツキはゆっくりとグラスを上げた。

「アカツキに! かんぱーい!」

 六つの杯が勢いよくぶつかり合った。

 ダンカン達がアカツキを見る。

「あ、ありがとうございます」

 アカツキはボソボソと礼を述べた。

 


 三



 翌日からの修練にはアカツキが加わった。

 主な相手はフリットが務めた。

 アカツキの両手剣を危なげなくかわし、鋭く反撃する。

 アカツキは声が凄かった。訓練場でこれほど気迫の入った声を出す者はいなかった。

 そのため、ダンカン隊は他の分隊から好奇の目で見られることもあった。

 それは別に気にはならない。むしろアカツキの声は心地良く、こちらまで鼓舞される思いだった。

 そしてアカツキは根性、いや負けん気があった。幾度もフリットに立ち向かい、散っては立つ。

 フリットも自分に出来た初めての後輩に、先輩として色々助言をしていた。

「アカツキ君、隊に馴染んでくれたようで良かったわね」

 カタリナが言った。

「そうだな」

 ダンカンも一安心していた。未だに復讐だけを考え、独りよがりにならないかずっと不安だった。

「さぁ、隊長、あなたもアカツキ君に負けてられないわね」

「ああ、そうだな」

 ダンカンは剣をカタリナに向けた。

「今日こそ一本取って見せる」

「その意気よ。さぁ、かかってらっしゃい!」

 ダンカンもアカツキに負けじと声を上げカタリナに挑みかかったのだった。

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