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三十三

 戦の気配は漂っているがそれでもまだ準備は不十分らしい。

 その間をダンカン隊は鬼の様な修練をして過ごしていた。

 戦斧が風を纏い振り下ろされる。

 バルドの斧を避け、二つ目も避けると、一瞬の硬直時間を逃さずダンカンは懐に飛び込んだ。

 バルドの斧が追ってくるが大柄のため懐に入ったダンカンを襲うのは覇気の無いぎこちない斧だった。

 ダンカンはそれらを次々弾き返し、バルドの首元へ刃を添えた。

「隊長!」

 フリットが驚きの声を上げた。

「や、やったでやんす!」

 ゲゴンガが続き、バルドが跪いた。

「隊長、見事。俺の負けだ」

 ダンカンは喜ぶ暇もなく、荒げていた呼吸を落ち着かせながら頷いた。

「ようやく一勝できたな。虎穴に入らずんば虎子を得ず。俺に足りなかったのは勇気と決定力なのかもしれない」

 ダンカンが言うとバルドが立ち上がった。

「俺の動きは単調だ。だからこそ通用したのだろう」

 バルドの目がダンカンの後ろに向けられた。

 そこにはカタリナがいた。

「技術と力を併せ持った副長には簡単には通じぬだろうな。しかし、戦いだ。当然、時には命を捨てる勇気も必要だ。今日、それを隊長は学んだのだ。いや、本当の意味で物にしたのだ」

「うむ、そうだな」

 ダンカンが応じるとオーガーは頷いた。

 そしてフリットとゲゴンガの相手になるために去って行った。

「おめでとう隊長。ようやくバルドに勝てたわね」

「ああ、ようやくだ。膂力や単純な力では及ばないがな」

 ダンカンが言うとカタリナは応じた。

「でも勝った。嬉しくは無いの?」

「嬉しいさ。だが、最初の目標を達成しただけに過ぎない。まだ俺は隊隋一の戦士にはなれていない」

「謙虚ね。そんなに謙虚なら御褒美はいらないわね」

「なにっ!?」

 ダンカンは驚いて声を上げた。

「私の身体をあなたの好きなようにさせてあげようと思ったけれど、そう、いいのね」

「いやいや、待ってくれ! 嬉しい! 嬉しいさ! ハハハハッ! やったー! バルドに勝ったぞ!」

 ダンカンは慌てて満面の笑みを作り声を上げて笑ってみせた。

「うふ、冗談よ。私の身体があなたにとって御褒美ならなんだってしてあげちゃうわ」

 ダンカンは股間が膨張するのを感じた。

「さ、隊長、変なところを熱くしている暇は無いわよ。次は私が相手よ。第二関門ね。見事私を突破してみせて」

「時間は掛かるだろうが、やってみせるさ」

 ダンカンは顔の脇に剣を構え振り上げ、カタリナに斬りかかって行った。



 二



 カタリナとの勝負は、まさに天と地の差だった。

 予想はしていたが、コテンパンにやられてしまった。

 この後、カタリナがフルフェイスの兜を被って素性を隠しながらダンカンの部屋に来ることになっている。

 楽しみだった。

 ウキウキしながら回廊を進んでいると、向こう側から見覚えのある人物が歩んでくるのが見えた。

「アジーム教官!」

 ダンカンは敬礼した。

「おう、ダンカンか」

 アジームは親し気に教え子にして元部下のダンカンに微笑んでいた。

「同じ城に寝泊まりしながらもなかなか会えぬな」

「そうですね。教官は新兵の調練のために外にいることが多いからでは無いでしょうか」

 新兵達はまずは城外で陣形や集団戦術を学んでいた。鬼教官のアジームだ。新兵達もさぞ苦労しているだろう。しかし、その苦労が、経験が戦場で大いに役立つことをダンカンは知っていた。

 ふと、先日訪ねて来たイージスの息子アカツキの事が気になった。

「教官、アカツキという名の兵を知ってますか?」

 アジームは頷いた。

「アカツキか。ゲゴンガが連れて来たところから見るとお前に縁がある人物のようだな」

「はい。イージスという私の副長を務めていた者の子です。イージスは戦死しました」

「聴いている」

 アジームが言い、ダンカンは軽く驚いた。

「アカツキが喋ったのですか?」

「そうだな。喋ったというのか、喋らせたというのか……。協調性の無い奴でよく叱るのだが、どうにもわだかまりがある様に思えて聞き出したのだ」

 さすがはアジーム教官だとダンカンは思った。

「父の仇討ちのために兵に志願したらしいな。荒っぽいだけで見た目ほど体力は無いが、負けん気はある。今度、模擬戦で集団同士でぶつけようと考えているのだが、そこで集団戦法と共に仲間との連携、協調性がいかに大きな力となるのか身をもって知ってくれれば良いのだがな」

「そうでしたか。手は掛かると思いますが何卒よろしくお願いいたします」

「俺に任せて置け。お前もお前で手を抜かず励めよ」

「はっ」

 アジームは去って行った。

 アカツキがちょっとした問題児になっているのは仕方のないことだろう。彼はまだ復讐に呑まれ他者を受け入れず自分は一人だと思っているに違いない。だが、そのうち気付くだろう。同僚、いや仲間達と歩む楽しさと素晴らしさに。



 三



 部屋の前でフルフェイスの兵士が待っていた。

「すまん、待たせたな」

 ダンカンはそう言いながら部屋の扉を開けた。

 そしてフルフェイスの兵士を招き入れる。

「ふぅ、暑苦しいわね」

 カタリナはフルフェイスの兜を取り机に置いた。そして鎧を順番に脱いで行く。

 何度も見て悩ましい光景だ。カタリナの色気がそうさせるのだろう。

「アカツキは問題児だそうだ」

 ダンカンは思わずカタリナにそう言っていた。

「この間の子ね? 仕方がないわよ、もともとの目的が仇討ちなのだから。でも、目的がはっきりしている分、決して途中で投げ出したりはしないと思うわ」

「それは、俺もそう思う」

 ダンカンは応じた。

「アカツキ君があなたのことを隊長と慕ってくれる日が早く来ると良いわね。私もあの子に副長と呼ばれてみたいわ」

 カタリナが微笑みながら言った。

「そうだな」

 ダンカンが頷くとカタリナがウインクした。

「さ、隊長、私の服を脱がせて頂戴」

「わ、わかった」

 何度経験してもダンカンは手際よくできなかった。今日こそはと思い、緊張しながらカタリナの服を脱がせにかかったのだった。

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