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この世界に疲れたんですよ

 

 ドンドンドン!!

 ドアの方から大きい音が響く、それは焦っているというものではなく、力任せにたたいている音だ。

 俺はその音をうるさいと思いながら、俺は手に持っている包丁を見つめる。


「おい! 中にお前がいることは分かってんだ!! 大人しく出てきやがれ」

 

 言葉遣いが汚く、とても育ちが良いとは思えない口ぶりだ。

 外にいるのは俺の借金取りだ。だが俺からもう金を搾取しようとしても出すものがない。

 部屋の中はカビの生えたような木造の壁、床の畳はそこら中に穴が開き、水道もガスも止まっていて、水場には虫がウジャウジャと沸いている。家具のようなものは一切なく、ただ俺は畳に座っているだけだ。


 俺の家は元々貧乏だった。

 父と母が共働きしながら、なんとか俺が学校に行ける程度の生活が遅れていた。

 だが俺が高校二年になったころに生活は変わった。父の働いていた会社が倒産したのである。

 仕事を失った父は何とか仕事を見つけようとしたがどこも受け入れてくれるところなんてなかった。

 そのせいで多額の借金を背負ってしまった。借金返済に耐え切れなくなった父と母は俺に借金だけ残して逃げた。


 俺は何とか借金を少しでも返そうと高校を中退し、バイトで働いた。

 だが借金は増えていく一方で、ついに借金取りがうちにまで乗り込んできた。

 相変わらず外からはドアを叩く音がこちらまで響いている。


「あぁ何でこんなことになったんだろうな?」


 俺は誰もいない空間に話しかける。

 もちろん誰も返事はしない。

 それでも彼は話し続ける


「どうして金だけで人の価値が決まっちまうんだ!!」


 その無情の叫びはこの空間にむなしく響いた。

 この世はたいてい金次第、だけど俺はそんな不条理を受けれたくなかった。

 その時俺の頬には、何か冷たいものが流れてくる。


「俺……泣いてるのか?」


 目からは涙が止まらない。止めようとしても流れ落ちてくる。

 俺はそれで意を決した。

 手に持っている包丁を自分に向ける。

 

「もうこの世界で生きていたくない」


 俺はためらわず自分の首に包丁を刺した。

 首に痛みと熱さが襲った。

 だんだんと薄れていく意識、目に見えるのは血に染まった畳だけ、この世界に未練があるわけではない。

 だが、もし出来る事なら


 『今度は金にとらわれることのない、自由な生活をしてみたかったな』

 

 こうして俺はこの世界で自分の命を終えた。

 そう……終えたはずだった。


 --------------------


 気が付くと目の前に大きな赤い髪の女の人が俺を抱きかかえていた。

 女の人は髪が長く外人のような顔立ちでとてもきれいな人だ。

 疲れているようだが、俺に幸せそうな笑みで微笑んでいた。

 俺はその異常な光景に声を出そうとした。


「あぅああぇ? (あんただれ?)」


 その声とも言えない音を自分の口から出て驚いた。

 待て、今の俺の声か?

 声は赤ん坊のような高い声で、とても自分が出したとは思えなかった。

 俺は手を見るとその小さな手足が自分の思った通りに動く。

 これって……つまり……

 

「いぃあえっあ!? (生き返った!?)」


「あらあら、うちの子は元気ね」


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