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女子小学生が友達とのメールを初体験する話

作者: me

スマートフォンが震えた。


「……」


小学五年生の少女、常夏沙弥は読んでいた『ユートピア(トマス・モア著)』を机に置き、充電器に繋いであるスマートフォンに手を伸ばした。


どうやらライン(ライナーインというメッセージアプリの略称)にメッセージが届いたらしい。スマホのロックを解除し、アプリを起動する。


「……ライン? ああ、そういえば今日、ましろちゃんに言われてインストールしてみたのよね」


聞くにラインは、スマホを持っているなら入れて当然のアプリらしい。


そしてメッセージは、くだんの友達、乃木ましろから送られたものだった。他人に無関心な沙弥が唯一心を許す友達、それがましろだ。ちなみにラインに登録された友達はましろ1人だ。


正直他人に興味がないので、別に寂しいとも思っていない。沙弥は通知の付いたメッセージ欄をタップし、メッセージを開いた。






◇◇◇◇



せっかく今日ライン交換したから、メッセージ送っちゃったლ(╹◡╹ლ)


また休みの日一緒に遊ぼうね٩꒰。•◡•。꒱۶


これからもよろしく(◍•ᴗ•◍)


(既読)



◇◇◇◇






「か、かわいい……」


想像を絶する可愛さのメッセージが届き、存外に悶える沙弥。文字ってここまで可愛くなれるのか。モナリザやゲルニカより歴史的価値を感じる。


早速返事をしなければ。しばらく送られてきたメッセージを眺めて満足した沙弥は、慣れない手つきでメッセージを打ち込んだ。







◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね。 [送信]



◇◇◇◇





あとは送信ボタンを押すだけだ。



「……」



これまでメッセージアプリを持っていなかった沙弥にとってこれは、生まれて初めて家族以外に送る文章だ。


メッセージといっても結局は言語ことばだ。いつもの会話通り、なんら迷う事なく書けば良いだけ。


のはずなのに。


なんだろう。どうしても、自分の打ち込んだこのみじかなセンテンスに違和感を感じてしまう。



「……」



少し考え、沙弥はその違和感の正体に気づいた。




《《あれ?これってなんだか冷たい印象じゃない?》》






例えばこれを、面と向かって相手に話したとすれば。当然声色や表情が相手に伝わる。


しかし、これはあくまで、たった一行の文章なのだ。声も表情も相手には一切伝わらない。


それを踏まえて、この文面。






◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね。 [送信]



◇◇◇◇






「……」


これじゃあ適当に、事務的に仕方なく返事をしたみたいに見える。


「……」


ましろは沙弥にとって、唯一ゆいいつ心を許せる大切な友達だ。せっかく歴史的価値を見出せるレベルの可愛らしいメッセージを送ってもらったのに、こっちからこんな淡白なカスみたいな文章を送るわけにはいかない。



「で、でもどうすれば良いのかしら……」



少し考え、文章を書き直す。







◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくねー [送信]



◇◇◇◇






「なんか違うわね……」


『ー』を入れて誤魔化してみたが、イマイチしっくりこない。


再び文章を書き直す。






◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね! [送信]



◇◇◇◇






「……うーん」







◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね!!! [送信]



◇◇◇◇






「……少し、変に力が入ってる気がするわね」


それに、思考停止で『!』を連発するのはなんだか頭が悪くて嫌だ。


やはり『ー』の系統が一番磐石(ばんじゃく)なのだろうか?


沙弥は再び文章を書き直した。





◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね〜 [送信]



◇◇◇◇





「……少しは、表現が柔らかくなったかしら」


わずかな手応えを感じて、少し肩の荷を降ろす沙弥。


「……」


しかしこれだと、前半の『ええ』というやや冷静な態度と後半の『〜』というやや砕けた態度に関しての統合性に違和感が生じてしまう気がする。


歴史的価値を見出せるレベルの文章を送ってもらったのに、こんな前後の統合性すら曖昧な文章を送るわけにはいかない。


沙弥は文章を書き直した。






◇◇◇◇



うん、これからもよろしくね〜 [送信]



◇◇◇◇






「出来た」



これなら柔らかい雰囲気が伝わり、かつ相手に違和感を与えることなくスラスラと読ませる事が出来る。完璧だ。



「……」





◇◇◇◇



うん、これからもよろしくね〜 [送信]



◇◇◇◇





「これじゃあ、いつもの私の口調と全然違うじゃないの!」



よく見たらなにこれ気持ち悪っ。


そう、沙弥は一度も、こんな幼稚な喋り方をした事がない。いつもは「そう」とか「なのね」とか「なのだけれど」とか劇団員みたいな話し方をする。


「……こんな文章、恥ずかしくて送れないわ」


と言うか照れくさい。




しかし、かといって。



◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね(笑) [送信]



◇◇◇◇








「これはない!」


(笑)は流石に使えない。万が一こんなの送って「何が面白いの?」なんて真顔で返信が来たらもう、どうしようもない。死ぬしかない。


悶々と悩みまくる沙弥だったが、ここで沙弥の脳内に、ある意味当然とも言える打開策が浮かんだ。




「……そうよ、私も絵文字を使えば良いのよ」




「ましろちゃんが絵文字を使ってメールを送ってくれたのだから、こちらが絵文字を使っても、全くおかしくないわ」



沙弥は意気揚々と文章を書き直す。





◇◇◇◇




ええ、これからもよろしくね (^_^;) [送信]




◇◇◇◇





「……あんまり可愛くないわね」


絵文字を入れ直す。





◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね d(^_^o) [送信]



◇◇◇◇




「おかしい、イメージと違うわ」


もっとこう、٩꒰。•◡•。꒱۶←こんな雰囲気の絵文字が使いたい。


沙弥はスマホの絵文字欄を漁った。




^o^




(^-^)




\(^o^)/




(^.^)




(*゜▽゜)




「全く可愛くないのだけれど……」




ましろちゃんみたいな|٩꒰。•◡•。꒱۶《ふわふわした感じのやつ》 はどうやって出すんだ。分からない。もしかして、使う人の人間性によって出てくる絵文字が変わるのだろうか。



自分の絵文字と見比べようと、沙弥はもう一度ましろから送られたメッセージを見やる。


よく見たら、下の方に小さく(既読)と付いていた。







「……あーーっ!!!!!」



そう、ラインはメッセージが読まれたかどうか、送り手が判別できる仕組みになっているのだ。


「し、しまった……こうやって私が馬鹿みたいにどんな文章を送れば良いか悩んでいる間に、既読マークを付けたまま何分も何分も返事を返さない状態を維持してしまったわ……」



既読無視だと思われたらどうしよう。



「えーっと……ともかく、一刻も早く送らないと……」


しかし未だ、どんな文章を送れば良いか全くまとまっていない。


悩む沙弥は再び絵文字を探そうと、手元に視線を集中させる。


「……?」


そこで、沙弥の目にある4文字が飛び込んだ。








『スタンプ』







「す、スタンプ……?」


一体なんだろう。スタンプって……。ハンコ? 書類とか送るのに使うのだろうか?


やや恐る恐る、沙弥はその『スタンプ』の文字を押した。








「こ、これって……」











◇◆◇◆◇◆











沙弥は文字を書き直し、そして《《送信ボタンを押した》》。







◇◇◇◇



ええ、これからもよろしくね。 (送信済)



◇◇◇◇



A____A

|・ㅅ・| OKだワン!

|っ c|

|   |

U ̄ ̄U          (送信済)



◇◇◇◇





「スタンプ最高〜」



こうして、沙弥は危機を乗り越えた。
















【おまけ】


とある日、ましろが沙弥に送ったメッセージ








くらえ! こんぺいとう!

\(^o^)/*       (^_^)




  ビュッ

\(^o^)/ *      (^_^)





\(^o^)/  *     (^_^)





\(^o^)/   *    (^_^)





\(^o^)/    *   (^_^)





\(^o^)/     *  (^_^)




\(^o^)/      * (^_^)



         ゴツン

\(^o^)/       *(>_<) いたい!


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― 新着の感想 ―
[一言] ラストじわじわ来るwww
2017/09/12 17:22 退会済み
管理
[良い点] 日常に於ける心情の機微が捉えられている素晴らしい文章! これは世紀の傑作だ!! ( ̄□ ̄;)!! [一言] 主人公の心情……とっても共感できます。 相手の顔が見えないのは怖いし、自分の…
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