ep.002 飛騨牛食べたいねん
楓樺はしみじみと、
「月恋かぁ、あの曲切なくて、ウチ好きゃねん。美容室で髪切ってもろてる時にFMから流れてきて、泣いてもーたわ」
「楓ちゃんも好きなん?私も!」
更に楓樺は、ドヤ顔でカバンから封筒を取り出し、凜花に差し出して、
「見てみ?凜」
凜花が封筒を開けると、チケットが2枚入ってあった。
雛多ももせ 20XX 日本凱旋ツアー《京都公演》と書いてある。
勿論、席は最前列だ。
「あれ?オッサンと行かないの?」
楓樺はフフンと不適に笑い、
「さすが、安井金比羅さんやわ。お参りした三日後、オッサンから泣きそうなLINEが急に来てんか。海外転勤になったって」
「それでチケット貰ったの?楓ちゃん?」
「そやねん。そもそも、京都一緒に行ったんも、ウチにしたら今まで同伴してくれたからのお礼やのに、八坂さんの近くのフレンチでご飯食べたら、何を勘違いしたんか、オッサン、いきなり真顔でホテル行こうとか言いよんねん。マジ堪忍やわ」
凜花はため息を吐き、
「少し散歩しよぉ。とか言って安井金比羅誘ったんでしょ?」
楓樺はウンと頷く。
「で、安井金比羅にお参りした後、腕組んで参道歩いてたら、オッサン、チンピラにぶつかって、そのままボコられやってん」
凜花はヤレヤレと言った感で、
「楓樺ちゃんはどうしてたの?逃げたの?」
「ウチ?交番に駆け込んだわ、一応お客さんやし。で、ポリさんと一緒に安井金比羅戻ったら、オッサン、ハゲ散らかして土下座して謝ってんねん。興冷めやわ。ウチ、ヘタレは嫌い。喧嘩してチンピラいわしてたら、一晩位考えたげたのに・・・」
凜花はニヤリと笑い、
「絶対、嘘。楓ちゃん、亡くなったパパが理想言うてたでしょ?だから、初夜までヴァージン守ってる。って、言ってたじゃん」
「ははは、バレたか。ウチ、オッサンにヴァージン捧げる予定は無いわ」
楓樺は至ってクールだ。
楓樺は身を乗り出し、
「でね、そのオッサン、大阪来る為に、無理矢理出張作ってたみたいやねん。で、それが会社の監査でバレて・・・」
「で、海外に転勤された訳だ」
「と、ウチにはカッコいい事言うてたけど、ホントはどうやろね?ウチ、嘘つきは嫌い」
凜花は納得したのか、
「だから、オッサンがチケットくれたの?」
楓樺は真顔で、
「うん。もう会えないから、最後のプレゼントだって。でも・・・、条件が在ってね」
「条件?」
「そっ、絶対女の子同士で行く事。やねんて。面倒臭いわ。一緒に行った写メ送らなアカンし、はぁ・・・」
「で、私に白羽の矢が立った訳だ。ふーーん」
凜花は身を正し、
「そのぉ、チケット代は何でお返しすれば良いのでしょうか?屋敷パイセン?」
楓樺は悪戯に笑い、
「だから、飛騨。高山でウチは飛騨牛食べたいねん。後、飛騨一之宮“水無神社”もお参りしたい」
凜花は納得したのか、
「でも、ランチしかゴチらないわよ。後、運転は代わるから、それでいいなら」
楓樺もウンと頷き、
「エエよ。ランチが飛騨牛やったら、夜はラーメンやけど。ラーメンはオゴったげよ」
「本当?で、楓ちゃん。目的は飛騨牛なの?水無神社なの?」
ボソリと楓樺は呟く。
「飛騨牛・・・」
この女子達は色気より、未だ食い気の様だ。