chapter-28
「すっげえなーおまえ! この状況でも1人で戦おうとするなんてよ。見かけによらず、なかなかに勇ましいお嬢様だな」
「くそっ! てめえ、この野郎! 何やってんだ! 答えろ! ユズさんを、どこにやった!?」
「ユズぅ? ああ、あれか。──おーい、ソルティ。丁度いいや。こっち連れて来い。しっかしお前、可愛い顔して、すっげえ口悪いのなー」
「顔 の こ と は 言 う な !!! ──て、今、なんて言った? ソルティだって……?」
太い柱の陰に燻る黒い霧の中から、ソルティが現れた。脅えたように首をすくめ、背中を丸めて。
その腕には、ぐったりとした女性を抱えている。
ウエーブのかかった長い髪は、ライムグリーンとイエローのグラデーション。白い肌。
ベージュの民族風な衣装に、大きなビーズや木を紐で組んだアクセサリを沢山身に付けている。【祈祷師】系の職のようだ。
ソルティの腕に抱かれた女性は、目を閉じて、ぴくりとも動かない。気絶しているのだろうか。
「ユズ……っ!? ソルティ、貴様ぁ……!」
ディレクさんが床に貼り付けられたまま、大きな声で怒鳴った。
あの女性が、ユズさんなのか。
「ひいっ! ディレク、だ、だって、手伝ったら、助けてくれるって言ったんだ! コクトーさんが! 今、帰る方法を調べてるから、分かり次第、帰してくれるって!」
「なんだと……?」
コクトーを見ると、笑みを浮べていた。
「そうそう。今、この本使って調べてるのさ。なんたって、この本は、神様の領域ってやつに繋がってるからな」
「神様の、領域……?」
「赤、白、黒。三色の魔道書。炎躯の書、魂魄の書、暝闇の書。天へと繋がる塔を登りきった者に、叡知を授ける。お前には分からねえだろうがな。この本は、繋がってんだよ。誰かさんが、何を思って造ったのかは分からねえがな。これは、叡知へのアクセス端末だ。俺達の前にぶら下げられた餌。果実。試している。現在の段階を。試されている。これは。膨大な、情報の大海、原初より湧き出ずる泉、虚空蔵の────ぐ、あ」
突然、コクトーが頭を抱えて呻き出した。
「おい……?」
「うぐ……ああ、やべえやべえ……。うっかりしてっと、ものすげえ情報量に頭壊れそうになるんだよな……まあそういうわけで、俺はずうっと調べてるって訳よ。ただ、調べるのもタダって訳じゃねえ。検索すんのに、おっそろしく消耗すんだよな。うっかりすっと、死ぬぐらい。──そこで、これだ」
コクトーが、ぽん、とひび割れた玉を叩いた。
「【七色竜珠】。竜は、世界のアイテール──根源的な元素を吸収して、体内でエネルギーに変換してる。これは、その原理を取り入れて作られた回復アイテムだ。吸収したアイテールを蓄積し、変換して、HPとMPを回復し続けてくれる。これ手に入れるの、もんのすげえ苦労したんだぜえ? お前らに聞かせてやりてえよ」
「回復アイテム……」
「そんで、この城だ。【黒霧の狂王】を要にして、魔の領域──【深淵】からのアイテールが、底から吹き出てくる。ここに【七色竜珠】置いときゃあ、深淵から無限に生み出される大量のアイテールを延々と吸収し続けて、俺を回復しつづけてくれるってわけだ。……ああ、でも、さすがにもう耐久度が切れて、壊れそうだなあ」
「【黒霧の狂王】を要……? そうだ、ここにあった杖は!? どこにやった!?」
「杖ぇ? ああ、あれな。適当に投げたから、その辺に落ちてんじゃねえ? 狂王は────ここだ」
コクトーが、にい、と口角を上げ、親指で、背中の後ろ側を指し示した。
指の先を辿って、暗くてみえずらい広間の奥に視線を向ける。
暗がりの中、目を凝らしてみる。
黒霧の向こうに、背もたれが天を衝くほど高い、王座のような椅子がうっすらと見えてきた。
いや、あれは王座だ。
王座には、誰かが、うなだれた様子で座っていた。
あれは……
その身体には、無数の氷柱が突き刺さっていた。
俺たちと同じように。
標本みたいに、張り付けにされている。
王座に。
全体を、青白い霜が覆っている。まさか。凍って、いるのだろうか。
見覚えのありすぎる、ダークグレーの髮。
石膏の彫像のように白くて整った顔。
王座に張り付けにされていたのは──────【黒霧の狂王】だった。
「ボス倒しちまうと、せっかく吹き出てるここのアイテールも止まっちまうからなー。ちょっと眠って貰ってんだ。──お、そうだ。丁度いい」
コクトーが、何か思いついたように玉から手を離すと、膝をぽん、と叩いた。
「ソルティの報告通り、女が3人いるな。──吹雪。あの中で良さげな女いたら、連れて来いよ。身体……の選択肢は多い方がいいんじゃね?」
吹雪、と呼ばれた白銀の男が、こちらに視線を向けた。
感情の読めない白銀の眼で、気絶中のビオラを見て──マツリ姉を見て──────最後に俺を見た。
見つめられている。
感情の読めない、冷えた目で。
なんだか、ものすごく、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
こっちに向かって、ゆっくり歩いてくる。
なんでだ。なんで、俺の方にくんの。
「あ、やっぱそいつ選ぶ? ちょっと似てるもんなー。そうだな、そいつの方がいいかもな」
「に、似てる? 何に?」
俺の問いには、誰も答えてはくれなかった。
白銀の男は俺のすぐ横まで来て、膝を突いた。
男はじっと俺をみている。冷たい瞳で。何を考えているのか、さっぱり分からない。怒っているのか、喜んでいるのか、感情さえも。
男が、俺の肩に刺さった氷柱に触れた。
どんなに動いてもびくともしなかった氷柱は、男が少し触れただけで、あっさりと砕け散った。
……助けてくれた、訳ではないようだ。
肩は自由になったが、すぐに手と足を、氷で固めて拘束されてしまった。
白銀の男が、俺を、軽々と抱き上げた。
「……待て! 何を、する気だ……!?」
シグさんが、苦しげに息をつきながら、コクトーに問うた。
俺も聞きたい。何するつもりなんだ。ろくなことじゃなさそうなのは薄々分かるけど。それが逆に、怖い。何をされるんだ。俺。
コクトーの目の前に、ユズさんが置かれた。
その隣に、俺も並べて置かれる。
なんだろう。なんか、とても、嫌な感じだ。なんで、ユズさんと、俺、キレイに並べて置かれてんの。
こういうシーン、映画とかで、よくあるよな。
女の人が。拘束されて。台に置かれて。捧げ物、みたいにされてて。
捧げ物?
いや。まさか。そんなこと。
「ちょ、ちょっと。おいコクトー。何なんだよ。これ。何、を、する気なんだ……?」
コクトーが、俺に向かって、にやりと笑った。
「──【魂魄の書】の、本当の力を試してみようと思ってね」
コクトーが白本を片手に持ったまま、ゆっくりと立ち上がった。
「おい、ソルティ! ここ、かたずけとけ」
「ひ、は、はいっ」
ソルティが、言われた通りに散らばった大量の紙面や本をかたずけ始めた。
すっかり言われるがままの小間使いだ。
空中に浮かぶ紋章や読めない文字や魔方陣を、コクトーが指揮者のような仕草で動かしてしていく。
霧に混じるノイズの陰が、更に酷くなった。気がした。
「──コクトー」
それまで一言もしゃべらなかった白銀の男が、初めて口を開いた。
すこし低い、感情が削ぎ落ちたような、どこか冷たい印象の声。
「あ? なんだよ」
「この世界における因果律に【歪み】……を創り出した事による負荷が、【世界線への亀裂】を増長している。残された時間は、あまりない。代用品の、仮の要である【七色竜珠】が壊れたら、此処は支えを失って崩壊する。──その前に、済ませろ」
崩壊……?
「ああー。くそ、しょうがねえなあ。まあ、知りたいもんはだいたい調べられたから、よしとするか。ちゃっちゃと試して、さっさと退散することにしよう」
空中に浮かぶ光の文字や図形を動かしていたコクトーが、手を止めた。
片手に白い本を持って、俺とユズさんの前に立つ。
俺と目が合って、にい、と笑った。
「さて準備は整った。始めようか。────我、アイテールを通じて、天の元素へ干渉……」
白本がぱらぱらと捲れ始める。
本の上に白い光の線が浮かび上がった。
白い光の線が、複雑な幾何学模様を描いていく。
「*****、****、***……」
コクトーが、言葉とも音楽とも言えない、聞いた事もない詠唱を唱えはじめた。
高くなったり、低くなったり。
寄せては返す、波のような旋律。
とても美しい、音の波。
「やめろ、コクトー!!」
シグさんが、叫んだ。
俺ははっとして我に返った。
あまりに綺麗な旋律に、一瞬、聴き入ってしまっていた。
「逃げるんだ、サクヤさん! そこから、早く!」
『主!! いかん! そこから、這ってでも逃げよ!! その男、【虚空】より叡知を引き出し、よからぬ術を使おうとしておる!!』
シグさんとマダムが、必死に俺に逃げろと言っている。
何だか良く分からないが、ここにいたら、ものすごく危険だということはわかった。
わかったけど。だったらどうやって逃げればいいんだよ。動けねえんだけど。
手と足が、凍ってる。感覚が全くない。動かない。這って逃げる事すらできない。
誰か、逃げる方法を俺に教えてくれ。
「天は宙。宙は虚空。虚空より、一つの音の調べを得ん──【魂の召喚】。対象者、【フロレア・ラスタ・センバー】」
頭上から、光の筋が差し込んできた。
最初は少し、そしてだんだん徐々に増えていく。
最後は埋め尽くさんばかりに、幾重にも差し込んできた。
一瞬。全てが真っ白に塗りつぶされる。
光が少し収まって、真っ白な光の柱が、ゆっくりと上から降りてきた。
いろんな色の光の粒子が、辺り一面に輝きながら舞っている。
我を忘れる程、とても、綺麗な光景だった。
光の粒子が集って、人の輪郭を形作った。
丸みを帯びた曲線。
女性のようだ。
輪郭はとても薄く、触れたら壊れてしまいそうだった。
今にも消えそうな、残像のように透けている。
白い、ふわふわとした綿毛のような髪は、身体を覆うように長い。
白い肌。
薄紅色の頬と唇。
「フロレア……」
白銀の男が、よろけるように俺の横までやってきた。
女性をじっと見つめ、すがるようにその手を伸ばす。
その手は────何にも触れる事なく、女性の身体を通り抜けた。
「は、ははは! やったぜえええ! 俺って、すげえええなあああおい! よっしゃああ、第1の【魂の門】は開けれたぜええ! あと2つ、開けることができりゃあ────向う側と、繋げられるかもしれねえ……」
「繋がる?」
「3冊集めてようやく出てきた神様にお願いを聞いてもらう、なんて、確かな根拠もねえ夢物語を、お前は信じてるのか? 良く考えろや。その神様だって、何者なのかもわからねえんだぜ。本当に、ちゃあんと帰してくれるのかもわからねえ。そんなわけわかんねえもんにすがるなんて、気が知れねえぜ! 俺はそんなもん信じる気にもなれねえ。他人なんか信じられねえ。所詮、人は自分のことしか考えられねえんだよ。それに──ここに、調べられるツールがあるんだ。使わねえ手はないだろ?」
コクトーが笑いながら、白い本を掲げて見せた。
それから、また玉に手を乗せた。消耗した分を、回復しているのだろうか。
ピシリ、と底から頂点へ、玉に亀裂が入った。
「おおっと。そろそろ、マジでやべえな……。さあて。話は仕舞いだ。仕上げといこうか。──【フロレア・ラスタ・センバー】。目を覚ませ」
女性の瞳が、ゆっくりと開いていく。
焦点のあわぬ草色の瞳が、ぼんやりとこちらを眺めていた。眺めてはいるが、その瞳に何も映してはいない。
見たことのない人だ。
「誰、だ……?」
「ああー。コイツの、死んだ恋人さ。まあ、俺に協力する代わりの、報酬ってやつだな。……俺には丁度イイ実験材料だが」
コクトーが、あざ笑うように白銀の男を顎で示した。
白銀の男は俺達の話すら聞こえてないようだ。
微動だにせず、じっと女性を見つめている。
「フロレア……我が、わかるか?」
空ろな草色の瞳が、白銀の男を捉えた。
「ここに、お前の身体を用意した。死すら凌駕する、強い身体だ……。異界の神に祝福されし身体だが、もう……二度と、死を恐れることは無くなるだろう。さあ。選べ」
俺は、一瞬思考が停止した。
身体? 選ぶ? まさか──
「ちょ、選べって……どういうことだ!?」
コクトーが楽しそうに笑った。
「お前か、そこの女か。どっちか気に入った方に、吹雪の恋人を【移植】するんだよ」
「なっ……!?」
待ってくれ!
この展開は、予想外だ!
「さあ。フロレア…………フロレア?」
フロレア、と呼ばれた女性は、じっと白銀の男を見つめていた。
しばらくして──その顔が、悲しげに曇った。
女性が、静かに、首を横に振った。
「フロレア!? 何故だ……! もう一度、生きられるのだぞ!? 我と、ずっと、一緒にいたいと言ってくれたではないか! 一緒にいよう、フロレア……。この身体に入れさえすれば、それが叶うのだ!」
白銀の男が必死に説得をしているが、女性は悲しげな表情で、首を横に振り続けた。
「何故……どうしてだ、フロレア……! ずっと、我の側にいると、約束してくれたではないか! お願いだ、我を、──」
また、ピシッ、と亀裂の入る小さな音がした。
ノイズが酷くなった。
どこからか、脳に響く耳障りな音割れの鈴の音が、聞こえてくる。
女性の身体が、薄くなった。
その輪郭がぼやけ始め、徐々に光を帯びていく。
「フロレア……! だめだ、時間がない、早く、身体を選ぶのだ……!」
女性は悲しげな表情のまま、白銀の男の頭を抱きしめて────
──再び光の粒子になって、散ってしまった。
「フロ、レア……」
白銀の男が、膝をついた。
コクトーが頭を掻きながら、大きく溜め息をついた。
「あ〜あ。【門】が閉じちまった。長くもたせるには、もちっと場所が良くないとだめだな……。おい。いつまでも呆けてんな、吹雪。行くぞ。他人の身体はお好みじゃなかったんだから、仕方ねえだろ。無理やり身体と紐づけするには、【白本】じゃ無理だ。【黒本】がねえと。しょうがねえ、赤本手に入れて、身体造るしかねえか……」
膝を突いたままの白銀の男の腕を、コクトーが引っぱり上げた。
男は黙ったまま、ふらふらと立ち上がる。
ビシリッっと一際大きな音がした。
「あー。もう駄目だなこりゃ。割れるわ」
玉の中央、縦に入っていた亀裂が、深く、奥まで入り始めていた。
亀裂はどんどん、どんどん、奥へと広がっていき──
全体に細かなヒビ割れが入ったと同時に。
玉が、粉々に砕け散った。
放射状に広がった床の亀裂の隙間から、黒い霧と、ノイズのような陰が勢い良く吹き出してきた。拭き出す力が強いのか、隙間が削れ、少しずつ広がっていっている。
「おっと。やべえやべえ。それでは皆さん、お元気で。俺らはここで失礼させてもらうわ」
いつの間にか扉の前に移動していたコクトーが、軽く手を振った。
「な! お前……! ちょ、待て!!」
「はははっ! 待たねえよ! じゃあな! 」
笑いながら、ひらりと扉の向こうへ姿を消した。
「おいいい!? ちょ、待てやこらああああ!!!」
やるだけやって、逃げやがった!!
後始末ぐらいしていけよ!
「え、ちょ、コクトーさん!?」
それまで柱の陰で大人しく、何もせず、成り行きだけを見守っていたソルティが飛び出してきた。おろおろと、忙しなく手足を動かしている。
「ま、待って、どうして、俺、手伝ったら助けてくれるって、帰してくれるって約束したじゃないか、なんで、置いていかないで、なんでだよお────うぎゃっ」
コクトーたちが消えた扉に向かって慌てて駆け出したソルティが、亀裂に足を引っかけてこけた。
どん、と建物が大きく揺れた。
宝玉の在った場所の亀裂が、扉に向かって、がらがらと崩れて広がっていく。
それはソルティが倒れた場所まで広がっていき──
「ひっ!? うあ、うああああ!?」
ソルティが、がれきと一緒に落ちていった。
「ソルティ!」
床に出来た穴の奥は──ノイズと黒い霧しかみえなかった。
下の階があるはずなのに、全く見えない。
どこまでも、どこまでも、暝い底。
俺は、ぞっとした。寒気が走る。
この中に、落ちてはいけない。
落ちたら──もう二度と戻れない気がする。そんな気がする。
なんか、なんか、これ、やばい……!! ここにいたら、だめだ!
どうしよう。どうしたらいい。このまま、みんな、死ぬしかないのか? 何か、何かできること、考えろ、俺。早く。
「ああもう、どうしたら……」
りん、と鈴の音がした。
気がした。
空耳かもしれないけど、俺はどうしてだか気になって、音のした方に顔を向けた。
ふわふわの白い綿毛のような髪の女性が、残像のように浮かんでいた。
優しい微笑みを浮べながら、人さし指を、床にむけている。
それは一瞬だった。
指で指すと同時に、女性は消えてしまった。
幻みたいに。
女性が指さした先、崩れた柱の下の陰には──真っ白い、羽根みたいに葉を茂らせた枝が1本、ころりと転がっていた。
あれは──もしかして。もしかしなくても。
「────杖だ……!!」
真っ白い羽根のような葉。
真っ白い枝。
間違いない。あれは────あれが、【清らかなる神木の杖】だ!
俺に、教えてくれたのか。
幽霊なのか、幻なのか、俺の白昼夢なのかもわからない。けど、もうなんでもいい。
杖は見つかった。
それだけでいい。
俺は、草色の瞳の人に、心の底から感謝した。
あそこまで、どうやって行こう。考えろ。
手足は拘束されたままだ。
でも──その他は動かせる。
そうだ。
まだ転がることぐらいは出来るんじゃないか。
そしてここからなら、床を転がっていけば行けない距離ではない。
運のいい事に、杖と俺の間には大きな障害物もない。
いける。
いや、行かねばならぬ。俺なら行ける。行くんだ俺。成せばなる。やればできる。
「うおおおおお──!!!」
俺は身体を振り子のように何度も揺らして勢いをつけてから、勢いよく────ごろごろ床を転がった。
『あ、主……?』
「サク、ヤ……? おま、なに、やって、……」
「な、にを……」
「サクヤ、さん……?」
「さく、ちゃん……?」
この最大級の非常事態に何をやってるんだろう……というなんともいえない生ぬるい視線を感じるが、俺は無視した。
今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。
転がって転がって。
杖までたどり着いた。
俺は腕を伸ばして、真っ白な羽根の様な形をした杖を掴んだ。
真っ白い葉が、やわらかい光を帯びている。
掴むと同時に、小さなウインドウも表示された。
[──【清らかなる神木の杖】を入手しました。装備しますか? ── はい いいえ]
俺はすぐに、[はい]を選択した。
シュテンが言ったとおり、装備できた。
これは、【幻草使い】も装備できる杖だ。
「──よし!」
俺は空欄になっていた装備欄の、武器の項目が埋まったのを確認した。




