表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/38

chapter-28

「すっげえなーおまえ! この状況でも1人で戦おうとするなんてよ。見かけによらず、なかなかに勇ましいお嬢様だな」

「くそっ! てめえ、この野郎! 何やってんだ! 答えろ! ユズさんを、どこにやった!?」


「ユズぅ? ああ、あれか。──おーい、ソルティ。丁度いいや。こっち連れて来い。しっかしお前、可愛い顔して、すっげえ口悪いのなー」


「顔 の こ と は 言 う な !!! ──て、今、なんて言った? ソルティだって……?」


 太い柱の陰に燻る黒い霧の中から、ソルティが現れた。脅えたように首をすくめ、背中を丸めて。

 その腕には、ぐったりとした女性を抱えている。


 ウエーブのかかった長い髪は、ライムグリーンとイエローのグラデーション。白い肌。

 ベージュの民族風な衣装に、大きなビーズや木を紐で組んだアクセサリを沢山身に付けている。【祈祷師】系の職のようだ。

 ソルティの腕に抱かれた女性は、目を閉じて、ぴくりとも動かない。気絶しているのだろうか。



「ユズ……っ!? ソルティ、貴様ぁ……!」

 ディレクさんが床に貼り付けられたまま、大きな声で怒鳴った。


 あの女性が、ユズさんなのか。


「ひいっ! ディレク、だ、だって、手伝ったら、助けてくれるって言ったんだ! コクトーさんが! 今、帰る方法を調べてるから、分かり次第、帰してくれるって!」


「なんだと……?」


 コクトーを見ると、笑みを浮べていた。

「そうそう。今、この本使って調べてるのさ。なんたって、この本は、神様の領域ってやつに繋がってるからな」


「神様の、領域……?」



「赤、白、黒。三色の魔道書。炎躯の書、魂魄の書、暝闇の書。天へと繋がる塔を登りきった者に、叡知を授ける。お前には分からねえだろうがな。この本は、繋がってんだよ。誰かさんが、何を思って造ったのかは分からねえがな。これは、叡知へのアクセス端末だ。俺達の前にぶら下げられた餌。果実。試している。現在の段階を。試されている。これは。膨大な、情報の大海、原初より湧き出ずる泉、虚空蔵の────ぐ、あ」


 突然、コクトーが頭を抱えて呻き出した。


「おい……?」


「うぐ……ああ、やべえやべえ……。うっかりしてっと、ものすげえ情報量に頭壊れそうになるんだよな……まあそういうわけで、俺はずうっと調べてるって訳よ。ただ、調べるのもタダって訳じゃねえ。検索すんのに、おっそろしく消耗すんだよな。うっかりすっと、死ぬぐらい。──そこで、これだ」


 コクトーが、ぽん、とひび割れた玉を叩いた。


「【七色竜珠】。竜は、世界のアイテール──根源的な元素を吸収して、体内でエネルギーに変換してる。これは、その原理を取り入れて作られた回復アイテムだ。吸収したアイテールを蓄積し、変換して、HPとMPを回復し続けてくれる。これ手に入れるの、もんのすげえ苦労したんだぜえ? お前らに聞かせてやりてえよ」


「回復アイテム……」


「そんで、この城だ。【黒霧の狂王】をかなめにして、魔の領域──【深淵】からのアイテールが、底から吹き出てくる。ここに【七色竜珠】置いときゃあ、深淵から無限に生み出される大量のアイテールを延々と吸収し続けて、俺を回復しつづけてくれるってわけだ。……ああ、でも、さすがにもう耐久度が切れて、壊れそうだなあ」


「【黒霧の狂王】を要……? そうだ、ここにあった杖は!? どこにやった!?」


「杖ぇ? ああ、あれな。適当に投げたから、その辺に落ちてんじゃねえ? 狂王は────ここだ」

 コクトーが、にい、と口角を上げ、親指で、背中の後ろ側を指し示した。



 指の先を辿って、暗くてみえずらい広間の奥に視線を向ける。

 暗がりの中、目を凝らしてみる。

 黒霧の向こうに、背もたれが天を衝くほど高い、王座のような椅子がうっすらと見えてきた。


 いや、あれは王座だ。


 王座には、誰かが、うなだれた様子で座っていた。


 あれは……


 その身体には、無数の氷柱が突き刺さっていた。

 俺たちと同じように。

 標本みたいに、張り付けにされている。

 王座に。

 全体を、青白い霜が覆っている。まさか。凍って、いるのだろうか。


 見覚えのありすぎる、ダークグレーの髮。

 石膏の彫像のように白くて整った顔。




 王座に張り付けにされていたのは──────【黒霧の狂王】だった。




「ボス倒しちまうと、せっかく吹き出てるここのアイテールも止まっちまうからなー。ちょっと眠って貰ってんだ。──お、そうだ。丁度いい」

 コクトーが、何か思いついたように玉から手を離すと、膝をぽん、と叩いた。


「ソルティの報告通り、女が3人いるな。──吹雪ふぶき。あの中で良さげな女いたら、連れて来いよ。身体……の選択肢は多い方がいいんじゃね?」


 吹雪、と呼ばれた白銀の男が、こちらに視線を向けた。

 感情の読めない白銀の眼で、気絶中のビオラを見て──マツリ姉を見て──────最後に俺を見た。


 見つめられている。

 感情の読めない、冷えた目で。


 なんだか、ものすごく、嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


 こっちに向かって、ゆっくり歩いてくる。


 なんでだ。なんで、俺の方にくんの。


「あ、やっぱそいつ選ぶ? ちょっと似てるもんなー。そうだな、そいつの方がいいかもな」


「に、似てる? 何に?」

 俺の問いには、誰も答えてはくれなかった。


 白銀の男は俺のすぐ横まで来て、膝を突いた。

 男はじっと俺をみている。冷たい瞳で。何を考えているのか、さっぱり分からない。怒っているのか、喜んでいるのか、感情さえも。

 男が、俺の肩に刺さった氷柱に触れた。

 どんなに動いてもびくともしなかった氷柱は、男が少し触れただけで、あっさりと砕け散った。


 ……助けてくれた、訳ではないようだ。

 肩は自由になったが、すぐに手と足を、氷で固めて拘束されてしまった。


 白銀の男が、俺を、軽々と抱き上げた。



「……待て! 何を、する気だ……!?」

 シグさんが、苦しげに息をつきながら、コクトーに問うた。

 俺も聞きたい。何するつもりなんだ。ろくなことじゃなさそうなのは薄々分かるけど。それが逆に、怖い。何をされるんだ。俺。


 コクトーの目の前に、ユズさんが置かれた。

 その隣に、俺も並べて置かれる。


 なんだろう。なんか、とても、嫌な感じだ。なんで、ユズさんと、俺、キレイに並べて置かれてんの。

 こういうシーン、映画とかで、よくあるよな。

 女の人が。拘束されて。台に置かれて。捧げ物、みたいにされてて。

 捧げ物? 

 いや。まさか。そんなこと。


「ちょ、ちょっと。おいコクトー。何なんだよ。これ。何、を、する気なんだ……?」


 コクトーが、俺に向かって、にやりと笑った。




「──【魂魄の書】の、本当の力・・・を試してみようと思ってね」




 コクトーが白本を片手に持ったまま、ゆっくりと立ち上がった。

「おい、ソルティ! ここ、かたずけとけ」

「ひ、は、はいっ」

 ソルティが、言われた通りに散らばった大量の紙面や本をかたずけ始めた。

 すっかり言われるがままの小間使いだ。


 空中に浮かぶ紋章や読めない文字や魔方陣を、コクトーが指揮者のような仕草で動かしてしていく。


 霧に混じるノイズの陰が、更に酷くなった。気がした。



「──コクトー」

 それまで一言もしゃべらなかった白銀の男が、初めて口を開いた。

 すこし低い、感情が削ぎ落ちたような、どこか冷たい印象の声。

「あ? なんだよ」

「この世界における因果律に【歪み】……を創り出した事による負荷が、【世界線への亀裂】を増長している。残された時間は、あまりない。代用品の、仮の要である【七色竜珠】が壊れたら、此処は支えを失って崩壊する。──その前に、済ませろ」


 崩壊……?



「ああー。くそ、しょうがねえなあ。まあ、知りたいもんはだいたい調べられたから、よしとするか。ちゃっちゃと試して、さっさと退散することにしよう」


 空中に浮かぶ光の文字や図形を動かしていたコクトーが、手を止めた。

 片手に白い本を持って、俺とユズさんの前に立つ。

 俺と目が合って、にい、と笑った。


「さて準備は整った。始めようか。────我、アイテールを通じて、天の元素へ干渉……」


 白本がぱらぱらと捲れ始める。

 本の上に白い光の線が浮かび上がった。

 白い光の線が、複雑な幾何学模様を描いていく。


「*****、****、***……」

 コクトーが、言葉とも音楽とも言えない、聞いた事もない詠唱を唱えはじめた。


 高くなったり、低くなったり。

 寄せては返す、波のような旋律。


 とても美しい、音の波。



「やめろ、コクトー!!」

 シグさんが、叫んだ。



 俺ははっとして我に返った。

 あまりに綺麗な旋律に、一瞬、聴き入ってしまっていた。


「逃げるんだ、サクヤさん! そこから、早く!」


『主!! いかん! そこから、這ってでも逃げよ!! その男、【虚空】より叡知を引き出し、よからぬ術を使おうとしておる!!』


 シグさんとマダムが、必死に俺に逃げろと言っている。

 何だか良く分からないが、ここにいたら、ものすごく危険だということはわかった。

 わかったけど。だったらどうやって逃げればいいんだよ。動けねえんだけど。

 手と足が、凍ってる。感覚が全くない。動かない。這って逃げる事すらできない。


 誰か、逃げる方法を俺に教えてくれ。




「天は宙。宙は虚空。虚空より、一つの音の調べを得ん──【魂の召喚】。対象者、【フロレア・ラスタ・センバー】」




 頭上から、光の筋が差し込んできた。

 最初は少し、そしてだんだん徐々に増えていく。

 最後は埋め尽くさんばかりに、幾重にも差し込んできた。


 一瞬。全てが真っ白に塗りつぶされる。


 光が少し収まって、真っ白な光の柱が、ゆっくりと上から降りてきた。

 いろんな色の光の粒子が、辺り一面に輝きながら舞っている。


 我を忘れる程、とても、綺麗な光景だった。


 光の粒子が集って、人の輪郭を形作った。

 丸みを帯びた曲線。


 女性のようだ。


 輪郭はとても薄く、触れたら壊れてしまいそうだった。

 今にも消えそうな、残像のように透けている。


 白い、ふわふわとした綿毛のような髪は、身体を覆うように長い。

 白い肌。

 薄紅色の頬と唇。


「フロレア……」


 白銀の男が、よろけるように俺の横までやってきた。


 女性をじっと見つめ、すがるようにその手を伸ばす。

 その手は────何にも触れる事なく、女性の身体を通り抜けた。



「は、ははは! やったぜえええ! 俺って、すげえええなあああおい! よっしゃああ、第1の【こんの門】は開けれたぜええ! あと2つ、開けることができりゃあ────向う側・・・と、繋げられるかもしれねえ……」


「繋がる?」


「3冊集めてようやく出てきた神様にお願いを聞いてもらう、なんて、確かな根拠もねえ夢物語を、お前は信じてるのか? 良く考えろや。その神様だって、何者なのかもわからねえんだぜ。本当に、ちゃあんと帰してくれるのかもわからねえ。そんなわけわかんねえもんにすがるなんて、気が知れねえぜ!  俺はそんなもん信じる気にもなれねえ。他人なんか信じられねえ。所詮、人は自分のことしか考えられねえんだよ。それに──ここに、調べられるツール・・・があるんだ。使わねえ手はないだろ?」


 コクトーが笑いながら、白い本を掲げて見せた。

 それから、また玉に手を乗せた。消耗した分を、回復しているのだろうか。


 ピシリ、と底から頂点へ、玉に亀裂が入った。

 

「おおっと。そろそろ、マジでやべえな……。さあて。話は仕舞いだ。仕上げといこうか。──【フロレア・ラスタ・センバー】。目を覚ませ」


 女性の瞳が、ゆっくりと開いていく。


 焦点のあわぬ草色の瞳が、ぼんやりとこちらを眺めていた。眺めてはいるが、その瞳に何も映してはいない。


 見たことのない人だ。

「誰、だ……?」


「ああー。コイツの、死んだ恋人さ。まあ、俺に協力する代わりの、報酬ってやつだな。……俺には丁度イイ実験材料だが」

 コクトーが、あざ笑うように白銀の男を顎で示した。


 白銀の男は俺達の話すら聞こえてないようだ。

 微動だにせず、じっと女性を見つめている。


「フロレア……我が、わかるか?」


 空ろな草色の瞳が、白銀の男を捉えた。



「ここに、お前の身体を用意した。死すら凌駕する、強い身体だ……。異界の神に祝福されし身体だが、もう……二度と、死を恐れることは無くなるだろう。さあ。選べ」


 俺は、一瞬思考が停止した。


 身体? 選ぶ? まさか──


「ちょ、選べって……どういうことだ!?」


 コクトーが楽しそうに笑った。

「お前か、そこの女か。どっちか気に入った方に、吹雪の恋人を【移植】するんだよ」


「なっ……!?」


 待ってくれ!

 この展開は、予想外だ! 



「さあ。フロレア…………フロレア?」

 フロレア、と呼ばれた女性は、じっと白銀の男を見つめていた。

 しばらくして──その顔が、悲しげに曇った。


 女性が、静かに、首を横に振った。


「フロレア!? 何故だ……! もう一度、生きられるのだぞ!? 我と、ずっと、一緒にいたいと言ってくれたではないか! 一緒にいよう、フロレア……。この身体に入れさえすれば、それが叶うのだ!」


 白銀の男が必死に説得をしているが、女性は悲しげな表情で、首を横に振り続けた。


「何故……どうしてだ、フロレア……! ずっと、我の側にいると、約束してくれたではないか! お願いだ、我を、──」

 



 また、ピシッ、と亀裂の入る小さな音がした。




 ノイズが酷くなった。

 どこからか、脳に響く耳障りな音割れの鈴の音が、聞こえてくる。




 女性の身体が、薄くなった。

 その輪郭がぼやけ始め、徐々に光を帯びていく。


「フロレア……! だめだ、時間がない、早く、身体を選ぶのだ……!」


 女性は悲しげな表情のまま、白銀の男の頭を抱きしめて────



 ──再び光の粒子になって、散ってしまった。



「フロ、レア……」

 白銀の男が、膝をついた。



 コクトーが頭を掻きながら、大きく溜め息をついた。

「あ〜あ。【門】が閉じちまった。長くもたせるには、もちっと場所が良くないとだめだな……。おい。いつまでも呆けてんな、吹雪。行くぞ。他人の身体はお好みじゃなかったんだから、仕方ねえだろ。無理やり身体と紐づけ・・・するには、【白本】じゃ無理だ。【黒本】がねえと。しょうがねえ、赤本手に入れて、身体造るしかねえか……」


 膝を突いたままの白銀の男の腕を、コクトーが引っぱり上げた。

 男は黙ったまま、ふらふらと立ち上がる。




 ビシリッっと一際大きな音がした。


「あー。もう駄目だなこりゃ。割れるわ」

 玉の中央、縦に入っていた亀裂が、深く、奥まで入り始めていた。


 亀裂はどんどん、どんどん、奥へと広がっていき──


 全体に細かなヒビ割れが入ったと同時に。




 玉が、粉々に砕け散った。




 放射状に広がった床の亀裂の隙間から、黒い霧と、ノイズのような陰が勢い良く吹き出してきた。拭き出す力が強いのか、隙間が削れ、少しずつ広がっていっている。



「おっと。やべえやべえ。それでは皆さん、お元気で。俺らはここで失礼させてもらうわ」 

 いつの間にか扉の前に移動していたコクトーが、軽く手を振った。

「な! お前……! ちょ、待て!!」

「はははっ! 待たねえよ! じゃあな! 」

笑いながら、ひらりと扉の向こうへ姿を消した。



「おいいい!? ちょ、待てやこらああああ!!!」

 やるだけやって、逃げやがった!!

 後始末ぐらいしていけよ!



「え、ちょ、コクトーさん!?」

 それまで柱の陰で大人しく、何もせず、成り行きだけを見守っていたソルティが飛び出してきた。おろおろと、忙しなく手足を動かしている。

「ま、待って、どうして、俺、手伝ったら助けてくれるって、帰してくれるって約束したじゃないか、なんで、置いていかないで、なんでだよお────うぎゃっ」

 コクトーたちが消えた扉に向かって慌てて駆け出したソルティが、亀裂に足を引っかけてこけた。



 どん、と建物が大きく揺れた。



 宝玉の在った場所の亀裂が、扉に向かって、がらがらと崩れて広がっていく。


 それはソルティが倒れた場所まで広がっていき──

「ひっ!? うあ、うああああ!?」


 ソルティが、がれきと一緒に落ちていった。



「ソルティ!」

 床に出来た穴の奥は──ノイズと黒い霧しかみえなかった。

 下の階があるはずなのに、全く見えない。

 どこまでも、どこまでも、暝い底。


 俺は、ぞっとした。寒気が走る。


 この中に、落ちてはいけない。

 落ちたら──もう二度と戻れない気がする。そんな気がする。



 なんか、なんか、これ、やばい……!! ここにいたら、だめだ!

 


 どうしよう。どうしたらいい。このまま、みんな、死ぬしかないのか? 何か、何かできること、考えろ、俺。早く。


「ああもう、どうしたら……」



 りん、と鈴の音がした。



 気がした。

 空耳かもしれないけど、俺はどうしてだか気になって、音のした方に顔を向けた。



 ふわふわの白い綿毛のような髪の女性が、残像のように浮かんでいた。



 優しい微笑みを浮べながら、人さし指を、床にむけている。

 それは一瞬だった。

 指で指すと同時に、女性は消えてしまった。

 幻みたいに。


 女性が指さした先、崩れた柱の下の陰には──真っ白い、羽根みたいに葉を茂らせた枝が1本、ころりと転がっていた。

 あれは──もしかして。もしかしなくても。




「────杖だ……!!」



 真っ白い羽根のような葉。

 真っ白い枝。

 間違いない。あれは────あれが、【清らかなる神木の杖】だ!


 俺に、教えてくれたのか。

 幽霊なのか、幻なのか、俺の白昼夢なのかもわからない。けど、もうなんでもいい。

 杖は見つかった。

 それだけでいい。

 俺は、草色の瞳の人に、心の底から感謝した。





 あそこまで、どうやって行こう。考えろ。

 手足は拘束されたままだ。

 でも──その他は動かせる。

 そうだ。

 まだ転がることぐらいは出来るんじゃないか。


 そしてここからなら、床を転がっていけば行けない距離ではない。

 運のいい事に、杖と俺の間には大きな障害物もない。

 いける。

 いや、行かねばならぬ。俺なら行ける。行くんだ俺。成せばなる。やればできる。



「うおおおおお──!!!」


 俺は身体を振り子のように何度も揺らして勢いをつけてから、勢いよく────ごろごろ床を転がった。




『あ、主……?』

「サク、ヤ……? おま、なに、やって、……」

「な、にを……」

「サクヤ、さん……?」

「さく、ちゃん……?」



 この最大級の非常事態に何をやってるんだろう……というなんともいえない生ぬるい視線を感じるが、俺は無視した。

 今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。



 転がって転がって。

 杖までたどり着いた。


 俺は腕を伸ばして、真っ白な羽根の様な形をした杖を掴んだ。

 真っ白い葉が、やわらかい光を帯びている。


 掴むと同時に、小さなウインドウも表示された。




[──【清らかなる神木の杖】を入手しました。装備しますか? ── はい  いいえ]




 俺はすぐに、[はい]を選択した。


 シュテンが言ったとおり、装備できた。

 これは、【幻草使い】も装備できる杖だ。


「──よし!」


 俺は空欄になっていた装備欄の、武器の項目が埋まったのを確認した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ