おかえり、ただいま。
高速道路は止まっていたので、下道を、国道13号線を北上するしかなかった。
山形を通り、秋田へ抜けるつもりだった。
道中、一度だけ給油した。
一度だけで済んだのは、例の新地での給油のおかげだ。
ガソリンスタンドの給油の列は、ずっと長く続いてた。
あまりにも長かったので、その間妻が、牛丼屋に牛丼を買いに走ってくれた。
牛丼の並盛とおんたま、味噌汁のテイクアウト。
温かいご飯が、とても懐かしかった。
やがて国道7号線に入り、秋田に入った。
亀裂も段差も何もなかった。
放射線の心配もなかった。
実家に着いたのは、深夜を回ってからだった。
あの瞬間から、実に1日半。
僕はろくに休まずに運転していた。
事前に電話していたおかげで、実家の明かりは煌々と灯っていた。
両親が出迎えてくれた。
玄関で、お帰りって、言ってくれた。
僕は、ただいまって、答えた。
湯船にお湯が張られていた。
懐かしかった。
温かった。
体の奥深いところから、ため息が漏れた。
何か、言い残したことがある気がした。
お帰りって言ってくれた父に、もっと、言うべきことがあるんじゃないかって思ってた。
いま、わかった。
父は今年の一月に死んだ。
その時に言いたかった言葉と同じだ。
僕は彼に、僕を生んで、育ててくれたあの人に。
僕を安心させるように、微笑んでくれたあの人に。
ありがとうって、言いたかったんだ。