第6話 サイガ、華々に囲まれる
お 待 た せ
《Side=Saiga》
とりあえず、シャサたちを襲った犯人は目星が付いている(てかほぼ確定してる)ので放っておく。そんなことより、もうすぐ建築ギルドから幹部たちが視察に来るのでその接待準備と、自分たちの商会を立ち上げなければならない。名前はすでに決めてある。『ロンバルディア商会』だ。
そして、それらが終わったら遂に初の王都観光、ついでに領主着任式。
「マスター、それは重要度的に逆では?」
んー?いいんだよコレで。ジャンヌだって、観光楽しみだろ?
「いえ、私は護衛ですから。」
ふーん、じゃあいいんだなグルメとか美味しいスイーツとか。
「そ、それは・・・。」
ジャンヌ、魂の契約を結んでから、食事を原力の供給源にしたせいか最近よく食べるよな。王都は美味いモンが山ほどあるぞ〜。
「・・・(ジュルリ)はっ、よだれが。」
まぁ、お楽しみってこったな。
自領で行う簡単な引き継ぎのための式ならこの間終わらせたが、その後に国王に謁見して正式に領地を賜るのがこの国の慣習らしい。
二度手間。メンドクセー。
あとは、大手商会を数社集めて温泉街計画のプレゼンをして資金を集めたい。
せっかく王都に行くんだ、やれることはすべてやっておこう。
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「ほぉほぉ、なかなか広いですなぁ。」
「土地だけは無駄に広いですからね。」
今はギルドの幹部を迎え、掘削予定地を見に来ている。
「この辺りは山の麓で、程良く土地も開けているので良いと思います。」
「そうですね。問題は温泉が湧き出るかどうか。ウチのモンで水脈を調べてみましょう。」
「お願いします。」
土系魔術の専門家が診た結果、全く問題ないそうだ。あとは掘るだけ。
「では、引き続き宜しくお願い致します。」
「ありがとうございました。こちらこそよろしくお願いします。」
視察の後、彼らを我が領の特産品でもてなした。
第一関門突破だ。
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「着いたあああああああ!」
王都だ。ずっと来たかった王都だ!
「この日のために毎日12時間仕事して前倒しで終わらせたんだ、楽しむぞ!」
商会の立ち上げ手続きが一番しんどかった。お役所仕事、マジギルティ。
「ウキウキですね、マスター。」
「そりゃもう、幼稚園児にとっての人生初の遠足並みに待ち望んでたからな!」
「まずはどちらへ?」
「Let's shopping!」
シャサとジャンヌを引き連れて、買い物に繰り出そうとする。
が、
「マスター、お荷物はどうされるのです?」
「あ〜、別荘に置いといて・・・ってのは?」
「ダメです。」
「・・・ケチ。」
はぁ・・・。と息を吐くジャンヌ。
なんか最近、俺の扱い雑になってきてない?
「私たちが荷物運びを面倒臭がっているのではありません。マスターがそのままの勢いで王都を走り回ったら、事故もしくは何らかのトラブルに遭う未来が容易に想像出来るからです。一旦別荘に戻って、浮き足立った心を整えてからにして下さいませ。」
「えぇ・・・。大抵の荒事は固有魔法でなんとかなるやん。」
「着任式の直前に、国王陛下のお膝元たるこの王都で事件ですか?」
「ぐぬぬ。」
ぐうの音も出ない。
「・・・シャサもそう思う?」
「はい!」
にっこりと満面の笑みを浮かべるシャサ。これは勝てそうにないな。
だって2対1だし、文字通り可愛い部下たちだし。
「・・・はーい。降参します。」
両手を上げて恭順の意を示す。
確かに俺は浮かれていた。そして初めての戦いにも勝利したことで、それに驕っていたのだ。
資本主義の魔法さえあれば、大丈夫だと。
だが、荒事を自分から起こすのはただの馬鹿だ。ましてやこのタイミングで。
そして資本も無限にあるわけではない。
むしろ他の領主に比べたら、ヴォルフラム家は貧乏な部類に入る。
今一度、気を引き締めなければならない。
ちなみに我が家の別荘は王都の端にあり、また街中まで戻るのに時間がかかってしまう。だから到着してそのまま観光と洒落込みたかったのだが、二人に諭されては仕方がない。驕っていたことを反省しつつ、少し自分に落胆した。うなだれて別荘に戻ろうと馬車に乗り込む。
ナデナデ。急にシャサが頭を撫でてきた。
「?」
「あっ、すみません。」
慌ててパッと手を離すシャサ。
「急にどうした?」
「いやその、偉いなぁって。それじゃちょっと上から目線ですね。なんて言ったらいいんでしょう?しょんぼりされていたサイガ様を見たら、手が勝手に動いたとしか・・・。」
別にもっとしてくれてもいいんだけどな。
「なんかお姉さんみたいだなシャサ。」
「まぁ、年齢的にはサイガ様よりお姉さんですよ?」
「え、そうなの?」
「ええ、今年でもう27ですから!」
ファッ!?27!?見えねえええええええ!!!!
えっへん!と胸を張るが、残念ながらその膨らみは慎ましやかだ。
「・・・サイガ様、私の胸を見て何か失礼なことを考えてませんか?」
「イヤイヤ、ナニモカンガエテナイヨ」
「・・・。」
じとー。そんな音がしそうな瞳で俺を見つめるシャサ。うん、可愛い。
「ふんっ。どうせ私は貧乳ですよっ。」
あらら、拗ねちゃった。
でもそれがまた可愛いんだよねぇ。
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別荘に荷物を置きに行くと、先に着いていたらしい母と妹がいた。
「あら、やっと来たのね。」
「ええ、始原の神のご加護か、無事に着くことが出来ました。」
書斎の本などで勉強したのだが、この世界では旅の安全や無病息災などの神頼みは、最高神である『始原の神』に祈るらしい。俺もだいぶこの世界に馴染んできた。
「おにーさま!おかえりなさいませ!」
抱きついてくるレヴィ。うーん、最高。
「ただいま。いい子にしてたか?」
「はいっ!おかあさまと一緒におべんきょうをしてました!」
「そうか、もう来年から貴族子女学校だもんな。」
貴族子女学校とは、日本で言うと小学校に当たる、4年制の学校だ。貴族の子女しか行くことは出来ない。あれ、入学金は必要だったかな?後で調べておこう。
「はい、だからいっしょうけんめいしてました。」
「そっかそっか、レヴィは偉いなぁ。」
「おにーさまがお仕事をがんばってますから、レヴィもまけないくらいがんばります!」
嬉しいことを言ってくれるじゃないか〜。
「いい子にしていたレヴィちゃんには、ご褒美をあげないとな〜。」
「本当ですか!?」
おお、目がキラキラしてきた。
「これからシャサとジャンヌと遊びに行こうかなと思ってるんだけど、一緒に行くか?」
「行きたいです!」
「母上はどうされます?」
「みんなが心配だから、一緒に行くわ。」
「じゃあ家族総出で街に繰り出しますか!」
5人で馬車に乗り込み、王都の中心街に向かう。
とりあえず、まずは服屋に行こう。
「いらっしゃいませ〜!」
王都で人気の服屋『アニータ』に入る。上級貴族が行くような高級店ではないが、中流階級の上位層に人気で、最近話題になっている店だ。品質も良く下級貴族クラスも来るそうなので、ドレスなどの品揃えも良いらしい。
「まぁ自由に選んでくれよ。」
俺に女の子のファッションコーディネートなぞ出来るわけがないので、当人たちに丸投げする。
「ふわぁぁぁぁぁ・・・!レヴィ、こんなところに来るの初めてです・・・!」
生まれて初めての華やかな世界に、まんまるおめめをこれでもかと見開いて感動するレヴィ。
「おお、そりゃよかった。」
「あら、私の服も買ってくれるの?」
「もちろんですよ。親孝行ってことで!」
「嬉しいわ。ありがとう。」
「いえいえ。また今度父上のお墓参りにも行きたいですね。」
「そうだねぇ・・・。」
息子からの親孝行が嬉しいのか、娘が天使だからか、ずっとニコニコしている母さん。
「うわぁぁ、こんなに可愛いお洋服がたくさん!ヒャッホォォォォォウウウウウ!」
狂喜して若干キャラ崩壊気味のシャサ。
「綺麗・・・。」
店の雰囲気が落ち着かないのか、様子がおかしいジャンヌ。
服をチラチラと見てはいるが、手に取ろうとはしない。
あぁ、分かった。そういうことか。
「シャサ!」
「はーい!」
山ほど服を抱えてこっちに来るシャサ。
「ちょ、おま、それ全部買ってたら、俺の財布が空になるどころかそれ自体を質屋に入れることになるんだが!?」
「あ、いえいえ、これは候補です。試着してから選別するんですよぉ〜。」
「そ、そうか・・・。」
ふぅ・・・。良かった。
しかし、情けない話だ。服くらい思い切り買わせてあげたいところなのだが、いかんせん今の領地の経済力ではあまり税金が取れない。領民から集めた税金ー国に納める税=領主の収入だが、金欲しさに無理やり民から取り立てるのは屑領主のやることだ。今の俺に贅沢する資格はない。それは領民に余裕が生まれてからやるのが道理だと思う。
・・・どっかの都知事は、そんな考えと頭頂部の毛根を始めっからお持ちでなかったみたいだが。
「ところで、なんで私を呼ばれたんですか?」
「おっと、そうだった。ジャンヌの服を選んでやってくれないか?」
「私でよろしいのですか?」
「いいだろ?ジャンヌ。」
「は、はい。」
恥ずかしそうに顔を伏せる。
「実は、服を選んで着た経験がないのです・・・。」
彼女はいつも鎧を着ている。鎧と言ってもフルプレートでは無く、胸当てや籠手などに分かれたタイプだが、やはり『凛々しい女騎士』といった風情だ。美しいが、つまりそれはリーマンがいつもスーツを着ているようなものだから、今までずっと気を張っていなければならない格好をしていたということだ。
出身はフランスの貧しい農家だったし、オルレアンを解放してからはずっと鎧姿だったのだろう。
火刑に処され、守護霊となった後も召喚者マスターのために戦い続け、彼女自身の幸せを考える者は一人も居なかったのだろうか・・・。
・・・彼女を裏切って火炙りにした奴らやそれを止めなかったシャルル7世、そして過去の召喚者たちに殺意が湧く。
「お願いしていいか?」
「もちろんです!むしろ願ったり叶ったり・・・!」
小声でシャサに、
(とびっきり可愛くしてやってくれよ?)
(モチロンです!)
シャサ「b」 俺「d」 親指を立て、グットサインを交わす。
「今以上に可愛いジャンヌ・・・。」
目を閉じて想像もうそうするシャサ。
突然タラーと鼻血を流し始める。
今までで一番良い表情で、
「天使ですね。」といってきた。
いやいや、「天使ですね(キリッ」じゃねえよ。
とりあえず鼻血拭け。
「シャリア様、血が・・・!」
甲斐甲斐しく鼻血をちり紙で拭ってあげるジャンヌ。
妄想上の天使と現実の天使が重なり合って、おそらく今のシャサの脳内はもうヘヴン状態だ。
眼光を光らせ手をわきわきさせるシャサ。今日のお前キャラ崩壊しすぎだろ。
獣人だからって目を光らせなくていいから!生まれ持った才能の無駄遣いって言うんだよソレ!
「さあ行きましょうジャンヌ!」「は、はい、よろしくお願いいたします。」
シャサがジャンヌの手を引いて行く。
・・・なんか不安になってきた。ビキニとか着せるなよ、シャサ?いやまぁ見たいけどさジャンヌビキニ。
「これなんかどうですかね〜!」「こ、こんなはしたない・・・!」
「そんなことないですよ!」「でも裾が・・・。他のものはありませんか・・・?」
「でしたらこれは?」「そうですね、これなら・・・。」
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やはり女子の買い物は長い・・・。まぁこういう時男がすべきなのは我慢だよな。
ちょうど書斎から持ってきた本があるからそれでも読んでよう。
「じゃあ試着室行きましょう!」「は、はい・・・。」
「ふむふむスリーサイズは「い、言わないで下さいっ!マスターに聞こえちゃうじゃないですか!!」・・・おっぱい大きくていいですねぇ〜。」「シャリア様ぁ!」
姉妹みたいで仲いいねぇ二人とも。微笑ましいものだ。
「レヴィ、これなんかどう?」「可愛いですー!」
「これは私のだけど、似合うかしら?」「綺麗ですー!」
「あんたわかってないでしょ?」「美しいですー!」
「えいっ。」「ふみゃっ!?」
いや、母さん、レヴィは服屋に来るの自体初めてだってば。
可哀想だから鼻つまむのはやめてあげなよ。
しばらくして。
シャサが試着したのは、レモンイエローのトップスとカーディガンに白いロングスカート。
ジャンヌが試着したのは、青いグラデーションのサマードレス。
「どうですか?悪くないでしょう?」
「ま、ますたー、いかがでしょう・・・?」
・・・!!!!!!
「ますたー?」
「どうしたんですか?もしかして、私たちに見惚れちゃったんですか?」
もじもじと恥じらいながら、上目遣いで俺に感想を求めてくる天使。
清楚なロングスカートに身を包み、どや顔で俺を見る女神。
か、かわえええええええええええええええええええ!!!
「にいさまー、レヴィもかあさまに選んでもらいましたー!」
レヴィは桃色と白のボレロ。
かわええええ・・・・!
「私は遺影の前で着てあの人に見せるわ。」
「・・・そうですね、それがいいです。」
「ありがとう、サイガ。服を買ったのなんて久しぶりだわ。あの人が死んでからは随分と出不精になってしまっていたから・・・。」
「父上も、元気な母上のお姿を見たいときっとお思いですよ。」
「ふふ、この服を着たら惚れ直してくれるかしら?」
服を自分の体にあてがう。若いな・・・。お世辞じゃなくマジでマリエットさんは若い。具体的に言うと、その美容法やアンチエイジング商材を日本で売り出したら確実に大富豪になれるレベルで。
「ええ。絶対メロメロですよ。」
良かった。少しは元気付けられたようだ。
その後代金を払い、店を出て5人で大通りを歩いていると、
「テメェ、どこ見て歩いてんだ!!!!!」
大通りから怒号が聞こえてきた。喧嘩だろうか?
「なにやら剣呑な雰囲気ですね、女性がガラの悪い男たちに絡まれているように見えます。」
5人で様子を伺う。野次馬も集まって来ている。
「サイガ様、助けに行きましょう!」
5人の中で最もお人好しのシャサ。気持ちは分かるのだが・・・
「・・・うーん、まぁいいよ。」
俺がなぜ気が乗らないのかというと、この程度の騒ぎは王都なのだからよくある事だと思うからだ。衛兵も来るだろうし。資本主義の魔法はコスパが悪いしな・・・。
とりあえず、衛兵が来るまで時間稼ぎをしようと、騒ぎの中心に向かう。
サイガがリア充すぎて羨ましい(血涙)




