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第5話 リンとイグナ

《Side=Rin》


時は第1話までさかのぼり、日本、サイガの自室にて。


「あらまぁ、すごいお声を上げて行かれましたねぇ。」


「ふんっ、彩雅が男らしくガッと行かないから悪いのよ。」


「それにしても、あそこまでする必要は無かったのでは?」


「いつもこんな感じよ?」


「ほぉ・・・それはそれは、サイガ様は苦労されておいでですね。」


「どういう意味?」


この女ズケズケと・・・まぁ正しいけどさ。


「そのままの意味ですよ。」


「喧嘩売ってんの?」


「いえ、そんな気持ちはさらさらございませんが。」


「そう。そろそろ私も行くわ。」


「はい。あ、言い忘れていましたが、記憶操作の魔術がかかっているのは彩雅様のみですので、燐様は『旅人』という設定で、現地人とコンタクトを取ってみてください。」


「そうなんだ。おっけー。」


「では、行ってらっしゃいませ。」


「うん。」


お父さん、お母さん、嘘ついてごめんなさい。メモ、ちゃんと読んでね。


必ず、帰ってくるから。待っていてね。



--------------------



ゲートを出た私は、とりあえず近くの人に話しかけようと思っていた。まずは今日泊まる場所を確保しなきゃいけないわね。


周りの様子をうかがう。・・・森だ。うっそうと木々が生い茂る森。勿論、誰も居ない。


「よりによって山奥・・・。一番ダメなヤツじゃない!もう!」


サイガはゲートを出てから自動で貴族になれるって言うのに、なによこの待遇の差!あの女の差し金かしら?


とりあえず、小屋や狩人などの人や建物を探しながら、森から抜ける方法を探す。

まず、一度来たところであるという目印を付けよう。

道端に転がっている石を拾い、木々に傷を付けながら歩く。


「よし。とにかく急ごう。」


早くサイガに会えないかなぁ・・・。


数時間歩いていると、ポツンと建っている家屋を見つけた。

かなり大きい建物だ。外にはかまど、風呂、薪切り場と倉庫がある。


煙突から煙が上がっているので、誰か住んでいるみたい。


とりあえず、ドアをノックする。


コンコン。


「すみませーん。」


返事はない。


「旅の者ですー!道に迷ってしまいまして、一晩だけでも泊めていただけませんかー?」


「誰も居ないのかな・・・?」


そんなはずはn


ヴォクシッ


っ・・・!?


視界が揺れる。あたまがいたい。なにか重く硬いもので殴られたようだ。無理に立ち上がろうとせず、揺れる視界の中、吐き気と痛みを感じつつ横に転がり、第二撃を避ける。


丁度、転がった先に薪割り用の鉈と斧が落ちていたので、それを持って構えながら、必死に説得する。


「ちょ、ちょっと待って!」


だが相手は止まらない。


「もおおおおおおなんで止まらないのよ!鉈と斧持ってるのが見えないの!?」


「くっ、こちらの武器は椅子、不利ね・・・!殺られる前に殺らないと!」


「ま、待って待って!」


私は武器を足元に置き、両手を挙げて『降参』の意を示す。


「私は本当に旅人よ!何の武器も持っていないでしょう?」


「懐に隠し持っているかもしれないじゃない。」


「だったら鉈と斧なんか使おうとしないわよ!」


「・・・。」


「少し、落ち着いて?」


「すーはーすーはー。」


「そうそう深呼吸深呼吸。」


「ごめんなさいね。早とちりしてしまったみたい。」


「良かった。」


話が通じた。


「でも、まだあなたの事が信用出来ないから、とりあえず魔術をかけさせて頂くわね。」


「え?」


夢魔(メリー)


く、催眠魔法か・・・!


私の意識は、そこで途切れた。



-------------------



「おはよう。」


ゆさゆさと、体を揺すられる。


「起きてくれない?」


そんな事言われても眠いものは眠いんだけど・・・。


「リンちゃん、朝ご飯出来てるけど、要らないの?」


いい匂い!


ガバッと飛び起きる。


「おはよう!」


ぐうう、とお腹が鳴る。


「ふふっ、よっぽどお腹が空いていたのね。」


正直ホントに恥ずかしかったが、今は気にしていられない。


あれ?そういえばさっき名前を呼ばれたような・・・?


「なんで私の名前を?」


しかも私を起こしたこの女性は、いきなり後頭部を椅子で殴りつけてきた女性だったはず。しかも「殺られる前に殺らなきゃ!」とか何とかヤバい事を言っていた気が・・・。


「ごめんなさいね。魔術で寝ている間に、治癒魔術で頭の傷を治して、それから頭の中を覗かせてもらったわ。」


「」


「だ、大丈夫よ。全部は覗いてないわ!貴女の言葉が嘘でないかどうかと、名前や性別、年齢みたいな基本情報の確認だけだから。」


「ホントですかぁ?」


疑いのまなざし。じとー。


「ほ、本当よ?」


アヤシイ。


「まぁ、他人に言わなければどちらでも構いません。」


「あら、寛容なのね。」


「大雑把なだけです。」


「ふふっ、そうなの?」


「ええ、昔から『気が強すぎる』って言われ続けてきましたからね。高校に入ってからは抑え気味にしていましたけれど。」


「まぁ、高等学校に行けるような家柄のお嬢さんなの?」


あ、異世界と現代日本でちょっと違うんだった。まぁ都合が良いし、このまま『良いトコのお嬢さん設定』でやらせてもらおうかな。


「そんなところです。」


「そっか~。どうして旅に出ているの?」


うーん、どう答えようか。


「昔、とても仲良くなった貴族の男の子が居るんです。その子にどうしても会いたくて、両親を説得して家を出てきました。」


ウソはついてないよね。


「すごい行動力ね。一人で出てきたの?」


親がこの年の娘を一人で出すとは考えにくい。護衛とはぐれたという事にしておこう。


「ちょっと護衛と離れちゃって・・・。」


「あら大変。お家に帰ったら連絡取ってあげるわ。」


「・・・えっと、どうやって?」


「まぁ、コネがあってね。」


「そうなんですか。助かります。」


どんなコネクションだろう?というか連絡先なんて存在しないんだけど、どうしよう・・・。


「ところで、貴女のお名前を教えて下さいませんか?」


「あら、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ。マディリアよ。マリアと呼んで。」


「マリアさん、よろしくお願いします。」


「ええ、よろしく。」


「とりあえず、朝ご飯いただいてもいいですか?もうお腹ぺこぺこです。」


「あら、ごめんなさい。じゃあ、いただきましょうか。」


席に着く。


「「いただきます。」」


美味しい。ハムエッグのようなものとクリームシチュー。異世界の食事だからどんなものかと少し身構えていたけれど、あまり日本と変わらないわね。


「あれ、3人分ありますよ?」


「あぁ、それはね・・・。」


ガラッ


「おはよー。ふわぁぁああああ。」


マリアさんが言いかけた時、扉が開いて男の人が出てきた。


「あら、おはよう。今朝は早いのね。」


「うん、いい匂いがしたからね。」


「あの。」


「うん?」


「どなたですか?」


「あぁ、昨日マリアがぶん殴った子か。僕はジン。一応マリアの旦那だよ。」


「マリアさんの旦那さんですか!すみません、お先にご相伴にあずかってます。リンと申します。」


慌てて立ち上がりお辞儀する。


「もー、その話はしないでって言ったでしょう?」


「いや、マリアらしくていいじゃないか。」


「どういう意味よ。」


「おっちょこちょいなところが可愛らしいなー、と。」


「な、何言ってんの!?」


夫婦仲はとてもよろしいようで。



--------------------

閑話休題。


どうも話を聞くと、二人はいつもこの家で生活しているのではなく、休暇の間だけ夫婦水入らずで過ごしているのだそうだ。別荘ということは、お金持ちなのかと思って聞くと、


「う~ん、どうなんだろう?この小屋は僕のおじいさんが作ったものだし、別にお金持ちではないんじゃないかな?」


とのこと。


とりあえず、ちょうど休暇の最終日だったらしく、三人でジン・マリア夫妻のお宅にお邪魔することに。


何回か休憩しつつ山道を下ること3時間。


巨大なお屋敷の前に到着した。


「着いたわ。」


「ここだよー。」


「・・・え?」


「だからココだって。このお屋敷。」


「・・・お二人ってもしかして。」


「あれ、言ってなかったっけ?」


「聞いてませんよ!」


「そっか。どうも、改めましてジン・アークライト子爵です。」


「その妻、マディリア・アークライトでーす!」


「「どうぞよろしく(!)」」


「先に言っててくださいよおおおおおおおおおおおおおお!?」


私は絶叫した。



--------------------


《Side=Iguna》


私の名はイグナ。肉体労働の仕事をしながら、スラム街で生活をしている。

今は、弱者である私たちの足元を見て、給料をピンハネして私腹を肥やす現場監督に対し、組合を組織してストライキを敢行し、勝利した後の帰り道。これまでの未払い分が入ってきたので、気分が良い。サラにはいつもより上等なミルクを買っておいた。


「ただいま。」


「おかえりなさいませ。」


バラックで俺を待っていたのは、メイドの中で唯一俺についてきてくれたルシアだ。妹、サラの子守りをしてくれている。


「未払い分が入ってきたから、いつもより良い食べ物を買ってきたよ。」


「あ、ありがとうございます。これでサラ様の体調も良くなっていくでしょうか・・・。」


不安げなルシア。最近、サラの咳が酷い。顔色も良さそうには見えない。


「いつもサラを見ていてくれてありがとう。感謝してもしたりないよ。」


「そんなこと・・・!私はもともとヴィルヘルム家に拾われた身です!ここで恩を返さずしていつ返すというのですか・・・!」


「他にも何人か、拾い子からメイドや下働きになった者は居ただろう?新しく来た領主に仕えればまた働けたしな。それを捨ててこんなところまでついてきてくれたのだから、感謝するのは当然さ。」


まだなにか言おうとするルシアを制し、袋からミルクとパン、干し肉にサラダを出す。


「さあ、食べよう。」


三人で食事を摂る。私が買ってきたミルクを飲ませてもらってご機嫌のサラ。それを見て微笑むルシア。黙々と食べる私。・・・何物にも代えがたい時間だ。


・・・ふと、ルシアをからかってみたくなった。


「こうして何日も生活していると、私が父で、ルシアが母で、サラが子供の三人家族のように思えてくるなぁ。」


「いえそんな・・・私がイグナ様の妻など恐れ多いです・・・。」


没落した貴族でしかない私を、前と変わらず接してくれるルシア。

私にはそれが嬉しく、同時に、少し不満でもある。


「・・・じゃあ、本当に家族になってしまおうか。」


つい、小声で発してしまったその言葉は、ルシアにもしっかりと聞こえていた。


「え・・・?」


どうする?誤魔化すか、それとも思い切ってはっきりと言ってしまうか。ええい、ままよ!一瞬で決断する。


「・・・好きだ。ルシア。私の妻に、なってはくれないか?」


人生初のプロポーズ。表面上は平静を装っているが、内心はいままで経験したことがないほど緊張している。


「そっそんな、身分が違いすぎますわ。」


「今はもう没落貴族。身分なんて意味をなさないだろう?」


「あぅ・・・・・・。」


顔を伏せるルシア。そして訪れる長い沈黙。・・・冷や汗が出てきた。


「少し時間をいただけませんか・・・。」


「・・・分かった。返事はいつでもいい。」


「・・・外に出てきます。」


「あ、あぁ。」


何とも言えない空気から逃げ出すように、ルシアはバラックから出て行った。

ここまでお読み下さりありがとうございます(*≧∀≦)ゞ

彼ら一人ひとりの物語が交差するのはいつになるでしょう?

(`・∀・´)ニヤッ

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