第0話 マザー・リン、若き日の話を始める
改稿版、スタートしました!今回は自信作です。どうぞお楽しみくださいませ!
2016・06・09追記 大幅改稿しました。
「ねぇねぇ、マザー・リン。マザーの若い頃のお話、聞かせてよ!」
えぇ、昔の話・・・?
「うん、マザーが、皇帝陛下と一緒に、この世界に来てからのおはなし!」
そっか、あの人と一緒に、この世界に来てから、もう30年経つのね・・・。
「うん。吟遊詩人さんからは聞いてるけど、当事者から聞きたいの!」
はいはい、分かったから。いいわよ。
その代わり明日から、お勉強ちゃんとするよね?
「うぅ・・・。分かったよぉ。・・・がんばるっ!」
ふふふ、いい子ね・・・。
じゃあ、どこから話そうかしらね?
「じゃあ、お二人がこの世界に来る前の日から!」
うん、いいわよ。
えっとね・・・・・・
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《Side=Saiga》
「あー、金稼ぎてぇなー。どっかに仕事落ちてねえかな?」
「なんかズレた台詞ね。普通なら、『お金欲しいな、どこかに落ちてないかな?』っていうところじゃないの?彩雅さいがの事だから、お金より労働が欲しいんでしょ?仕事中毒ワーカーホリックにならないでよね、ビル・ゲイツじゃないんだから。」
休日、自分の部屋でゲームをしてくつろいでいる俺のひとりごとに律儀に答えてくれやがったのは、幼馴染の宇佐美燐うさみりんだ。そこまでなら漫画などでベタな設定だが、我が家の隣の家に住んでいる。無駄に現実的なのは、我が家はアパートの一室なのに対し、こいつの家は一軒家だという非情な事実だ。
「その通りだが・・・・なんで俺の部屋に勝手に入ってきてんだよ。お袋に用があったんだろ?あと俺はゲイツ超えるから。」
「はいはい、妄想乙。おばさんとのおしゃべりはさっき終わったとこ。あんたがどうしてるか気になっただけよ。どうせゲームしてるんだろうなとは思ったけど。」
「どうせとは何だ。聞き捨てならねえな。このゲーム、『Mine Farm』は傑作中の傑作だぞ!」
「はぁ・・・。廃人には何言ってもダメね。」
このVRMMOSTG、『Mine Farm』通称マイファムは、全世界で大ヒットしたゲーム・・・の同人作品だ。クオリティは非常に高く、日本と米国でのべ1000万人のユーザーを虜にしている。
「あんた昨日の授業も寝てたでしょう。そして寝不足の原因はこのゲームのやりすぎ。馬鹿なの?死ぬの?全く・・・高校生活を楽しめるのは今だけなのよ。少しは「青春っぽい」事しようとか思わないの?」
「全然。早く大学行きたい。高校なんて、高卒資格くれるから通ってるだけだ。授業は聞いてねえけど、受験勉強はしてるからな。読書も好きなだけしてるし。適当に話の合うやつと3年間過ごして、非効率極まりない『授業』って時代遅れのシステムをただ漫然と受け続けるのが高校生活とやらなら、そんなもんいらん。」
「出たよいつもの。」
燐は呆れているが、これが俺の偽らざる本音だ。ちなみにコイツは、茶道部部長と家庭科部副部長と女子サッカー部エースをかけもちしている上、さらに成績優秀で教師たちの信頼も厚く、容姿端麗で男女問わず生徒からモテモテと青春を謳歌しまくっている。まぁ本人が楽しければそれはそれでいいのだろう。俺には絶対無理だが。ちなみに彼氏は居ないらしい。
「あんまりやりすぎないようにね?学校休んで出席日数足りなくなったら高卒資格ももらえないんだから。」
「へーい。ありがとよ。」
忠告は素直に受け取っておく主義だ。
「じゃあまた明日、学校で。」
燐が帰った後、俺は風呂に入ってから勉強を少しして、それから寝た。
しかし。
ジジジジ・・・ジジッ
俺のパソコンが何故かひとりでに起動した。ブルーライトが降り注いで眠れないので、シャットダウンするために机に向かう。
「間違えてスリープにしてたのかも・・・ん?」
俺はなにもしていないのに、マイファムも勝手に起動している。
なにやらメッセージが書いてある。
「・・・『おめでとう、あなたは序列第3位に選ばれました!』・・・?何のことだ?」
「こんばんは。」
「うわぁ!?」
突然、ディスプレイに女性の顔が映った。
「あら、驚かせちゃいましたか?」
「・・・夜中にPCが自動で起動して、画面覗き込んだら女性の顔が映ったんですよ?誰でもビックリするのでは・・・?」
「そーいうもんですかねぇ?」
首をかしげる女性不審者
「・・・で、貴女は誰ですか?」
「申し遅れました、私、総務省異世界開発課課長補佐、服部麗華はっとりれいかと申します。」
そう言って、彼女は首に提げたプレートを見せる。
「異世界開発課課長補佐・・・?」
何だソレは?
「さて、身分を証明したところでご説明させていただきますと、このゲーム、『Mine Farm』はですね、選抜機械なんですよ。」
「どういう事ですか?」
「つまり、このゲームの世界ランキングの上位10人を選ぶんです。」
「選んで、どうするんです?」
俺は身構える。
「異世界に送るんですよ。」
「・・・はい?」
「異世界に送るんです。」
「異世界ですか・・・行ってみたいっちゃ行ってみたいですけど。」
「行けますよ。」
「・・・マジすか?」
「ええ。あなたはマイファムのワールドランキング3位の実力者廃人ゲーマー。私達、異世界開発課は10位以上の上位ランカー達全員に異世界行きの資格を与えているんです。」
「何のために?」
「手つかずの資源や土地をこちらの技術で開発し、現地の文明を発展させて欲しいからですよ。」
異世界を発展させる・・・?そんな事をして、こいつらになんのメリットがあると言うのだろうか。
そこまで考えて、俺は一つの仮説に辿り着いた。
「・・・そして肥え太った異世界を喰ってとりこんで日本は世界より優位に立つと、そういう事ですか?」
「・・・さぁ、それはどうでしょうねぇ。ただ一つ申し上げておくならば、これは最重要機密の国家プロジェクトです。」
ニタァリ、と気色悪い笑みを向ける女。おそらく総務省直属というのも隠れ蓑というか、建前である可能性が高い。実質的な上層部はどこなのだろうか。
「で、行くんですか行かないんですか?」
「こっちには戻って来れますか?」
「5年後には。」
「なるほど。それで、僕にとってその突拍子も現実味も無い話を受けるメリットは?」
「あなたが求める、仕事がありますよ?」
「・・・?」
「周囲へ記憶操作を施して貴族になってもらい、その家の領地が与えられます。」
「なるほど・・・すごい技術ですね。」
「あなたが大学卒業後に起業するとして、あと5年。対してこちらは思い立った日からすぐに領地経営者です。」
「それは魅力的ですね・・・。もし僕が他のランカーを潰したり領地を吸収したりしたらどうなりますか?」
「殺しはいけませんが、そうでなければ別に構いませんよ。むしろ報奨金が出るんじゃないでしょうか。」
「はぁ、なんだか野蛮な計画ですね。」
「で、どうされますか?」
「行きますよ。家族と友達に別れの挨拶をしてから行ってもいいですか?」
「いやそれは止められるでしょうからお奨めしません。もし志ノ宮様が宜しいのであれば、明日伺いましょうか?」
「うーん・・・。」
「別に直接言わなくていいですよ。別れの言葉だけ紙に書いておけばそれで。他のランカーのみなさんはそうされています。」
「・・・そうですね、そうしておきます。親権同意書とかは必要ですか?」
「大丈夫です。このプロジェクトに参加した時点・・・・・・で、我が国では成人扱いになりますから。では明日の夜9時に、この部屋で。」
「承知しました。」
「それでは。」
・・・この部屋に来るの?
あ、必要な持ち物聞くの忘れた。
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失敗した。異世界に持って行く荷物をバックパックに詰めていたら、いきなり燐が入ってきたのだ。
「・・・なにしてんの?」
「・・・えーとまぁちょっと家出?的な。」
「あんたおばさんと仲悪かったっけ?親子喧嘩してるところ見たことないけど?」
クソ、良く見てやがる。さすが幼馴染。
「知り合いに誘われてな。一か月ぐらい外国行ってくるよ。」
「おばさんに言った?」
「いや、内緒だ。」
「だめよそんなの!」
「もう行くって決めたから。」
「ダメだって!」
「うるせぇな、関係無ぇだろお前には!」
「関係無い訳無いじゃないッ!!!」
今まで燐から聞いたことがないような大声だった。
「な、なにキレてんだよ。」
「・・・」
無言で倒れかかってきた。
「うわっ!?」
どすん。床に体をぶつけてしまう。
「なによこの荷物。本ばっかり。」
「なに勝手に見てんだよ!」
マウントポジションを取った燐から本をひったくってバックパックに詰める。なにせ異世界の貴族だ、衣食住は準備されているだろうから、大事なのは技術書や歴史書だろう。そう思って、午前中にめぼしい本を買い込んだのだ。
ちなみに新しい本は全て電子書籍にしてある。キン〇ルペーパーホワイトだ。充電器と手回し発電機も持っているというこの用意周到さ。これも異世界転生系のライトノベルを予め読んでいたおかげだ。
「・・・ねぇ、本当はどこに行くの・・・?お願い、教えて。」
なぜか泣きそうな表情をして、俺に問いかける。
「・・・異世界だよ。」
顔を逸らして答える。クソ、こんな顔されて答えない訳にはいかないだろう。
「異世界?」
「マイファムの上位ランカーを招待してるんだと。」
「どうしてそんなことを?」
「さあな。ただ、国が関わってるのは間違いない。」
最初から変だとは思ったんだよなぁ。
カテゴリは同人ゲームなのに正規品よりクオリティ高かったし。
「・・・なるほど。分かった。」
「あっさり信じるんだな。『厨二病、乙!』って言われそうな話なのに。」
「信じるわよ。彩雅が言ってるんだもの。」
それはどういう意味なんだ、と聞こうとしたが、その前に燐の奴がとんでもない事を言い始めやがった。
「じゃあ、私も連れて行きなさい。」
「・・・は?」
「だから、私も連れて行けって言ってるのよ。」
「んなこと出来るわけねぇだろ!」
「そう言われたの?」
「い、いや、言われたわけじゃあ無いけど・・・。」
「だったら大丈夫よ。」
「いやいやいや、ダメだって。5年後にしか帰れないんだぞ?」
「あら、帰って来れるの?なおさら行くわ。」
「」
帰れない前提でその発言ってお前どうかしてるぞ!
そう言おうとしたが絶句して言葉が出てこなかった。
「親には・・・彩雅と駆け落ちした事にしようかしら。」
「ハァ!?」
「じゃあ支度してくるわね~。」
「おい、ちょ待てよ!そんなことしたら燐の親父さんに俺が殺されるって!」
「大丈夫よ~。」
「いや、大丈夫じゃねえって!・・・オイ話聞けよ!」
俺の魂の叫びは、燐の耳に入ったもののそのまま反対側の耳から出て行った。
これこそまさに馬耳東風。・・・じゃねえよ!
燐の親父さん黒帯なんだよ!コロサレル!
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「いいですよ?」
「いいのかよ!」
「やったぁ!」
俺は頭を抱え、燐はぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
どうやら燐も異世界に行けるらしい。やけに喜んでいるな。
宇佐美うさみという名に恥じぬ跳びっぷりだ。
「では早速行きますか?」
「ああ、そうしてくれ。」
「では。」
そう言うと服部さんはどこからともなく真四角のフレームを取り出した。
「この枠の中に入って行って下さい。」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です。」
うーん。どこでも〇アじゃあるまいしなぁ。
しばらく俺がフレームを矯めつ眇めつためつすがめつしていると。
「ああああもうじれったい!男ならさっさと行きなさい!」
ゲシッと、イラついた燐が俺の背中を全力で蹴り出す。
「うわああああああああああああああああああああああ!!!!」
そのせいで俺は情けない叫び声を上げながらどこでも〇アモドキに頭から突っ込んで行ってしまう。
クソ、地球にさよならを言ってからにしようと思ったのに、燐のヤツ・・・!
視界が、暗転する。
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「ふわあぁ・・・。よく寝た~。」
目が覚めて伸びをする俺。
「・・・ん?ここどこだ?」
辺りを見回す俺。
「家・・じゃねえよなぁ。」
少なくとも俺の部屋ではない。豪華だが悪趣味ではない装飾。例えるなら質実剛健な貴族のような・・・?
「失礼致します。お目覚めですか、サイガ様?」
「っ!?」
急に何者かが部屋に入ってきた。
「今朝は珍しく早いんですね。朝食はお米と麺麭パンのどちらになさいますか?」
そう言いながら、謎の獣耳メイドさんはカーテンを開けながら俺に問いを投げかける。
・・・アレは狼の耳だな(確信)
あ、そうだ思い出した、異世界に来たんだった。いかんいかん、耳をじっくり観察している場合じゃない。
「おはよう、えーっと、君の名前はなんだったっけ?ごめん、ど忘れしちゃった。」
「・・・ええええ?笑えませんよサイガ様、そのジョーク。」
「その、何故かは分からんが記憶が曖昧でさ。」
「・・・もしかして、本気でおっしゃってるんですか?」
「ああ。」
「私はメイドのシャリアサードです。シャサとお呼びください。以後お見知りおきを。サイガ様に忘れられるというのは少し、若干、いえかなりショックなんですが・・・。」
「本当に申し訳ない。しかしこんな突拍子も無いことをあっさりと信じてくれるんだな。」
「ええ、それはまぁ、サイガ様がおっしゃる事ですから。」
「そうか。俺はもしかして貴族の息子だったりするのか?」
「ええ、そうですよ。もうすぐ領主着任式です。」
「うーん、まずは色々情報が欲しいな。今から朝の準備しながら色々質問してもいいか?」
「大丈夫です。ところで朝食はどっちになさいます?」
「ご飯で。」
「承知いたしました。」
こうして、俺の異世界領主生活が始まった。
この出来事が、地球とこの世界を巻き込む大騒動の発端になるとは、この時の俺はまだ、思ってもいなかった。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございます(≧∇≦)
感想、レビューお待ちしております!
今度こそこのシリーズで完結まで書き切る予定ですので、そのつもりで追いかけてきて下さい。
(`・ω・´)キリッ
これからもどうぞよろしくお願いします。
※追記 四宮燐→宇佐美燐
金田彩雅→志ノ宮彩雅