ヒーロー罪
2018年現在、日本にはガバメントマスターがいる。日本の中央省庁を模したフォームチェンジを駆使し、世界統一委員会による犯罪行為を阻止している。
「しかし、彼が行っていることは殺人です。世界統一委員会の構成員は我々と同じ人間なのですから、話し合いで解決を目指すべきです」
「話し合いが通用しない相手であることは明白でしょう。言葉でわからないならば拳、これが当然ですよ」
「あなたには相手を思いやる気持ちがないのか?」
「そう言うあなたには危機感が足りない」
あるテレビ番組では、このガバメントマスターについて賛成派と反対派の議論が行われた。元防衛省幹部、現役警視庁長官補佐、女性差別撤廃を求める『女性が住みよい社会の会』会長と副会長、人権保護団体『ライトレボリューション』代表という微妙な顔ぶれではあるが、番組内では白熱した議論が展開された。
2年前の2016年、世界を震撼させた欧州同時多発テロ。その首謀者は世界統一委員会を名乗り、現在も世界各地でテロ行為を繰り返している。その活動範囲は日本にも及び始めていた。世界統一委員会は地球上から国家という概念をなくし、新たな社会を作る『反逆者』を自称した。世界の若者たちにとってこの反社会的、反権力的思想は好印象だったらしく、少しずつ規模を拡大している。
これまでは警察ではなく自衛隊が彼らの犯罪行為に応戦していたが、日韓関係も悪化しているため、自衛隊はできる限り国外の脅威に備えさせたいのが政府の本音だ。しかし警察ではマシンガンやミサイルを飛ばすこともある世界統一委員会の活動を止めることは難しい。
そこで日本政府が大学や企業と協力して開発したのがガバメントマスターだ。2017年8月より運用しているが、その活動には賛否が分かれている。なぜなら、たとえテロ組織世界統一委員会と言ってもガバメントマスターが実際に戦う相手は同じ人間だからだ。
これが人外との戦いならば批判も少なかっただろう。特撮もののようなヒーローと違い、ガバメントマスターは敵を倒して批判される場合がある。例のテレビ番組では資料として、ガバメントマスターが発砲する中で、世界統一委員会のメンバーの母親が泣き叫ぶ映像が流された。
国会議事堂周辺ではガバメントマスターの運用廃止を求めるデモが起きている。その一方で、インターネットを中心にガバメントマスターを擁護する動きもある。掲示板サイトには「人を助けることが悪なのか」「日本には『ヒーロー罪』でもあるのか」という書き込みも多い。
ガバメントマスターが攻撃すれば、悲しむ人がいる。しかし、ガバメントマスターが攻撃しなくても悲しむ人が出てしまう。さらに難しいことに、国連ではガバメントマスターが日本の戦力ではないかという批判も出ている。政府のこれからの対応に注目が集まっている。