潔癖症と遠足 その1
そろそろクラスにも慣れてきたころ、一枚のプリントが配られた。遠足のお知らせである、今年はハイキングコースを歩くらしい、運動が嫌いではない俺は年甲斐もなくウキウキとしていた。
だが、反対に海は去年と同様浮かない顔をしている。まあ、潔癖症には少し厳しいかもしれないなと思う。
「海、帰ろうぜ」
帰りに渡された遠足のプリントをじっと眺めている海は俺の声がまるで聞こえていないかのようであった。そんなに遠足が嫌なのか、潔癖症も大変である。
「聞こえてるか!?」
「……ああ」
「そんなに遠足が嫌なのかよ」
「うむ、嫌だな」
即答である。
「何でだよ、いい空気を吸いながら食べる弁当もきっとうまいぜ」
「……風と一緒に砂埃が飛んでくるんだぞ。そうなると樹は砂埃がうまいと言っているようなもんだ」
海の考え方はいつも予想がつかない。真剣な顔で言う海を諭すように俺は言う。
「別に見えないからいいだろ。そんな事言ってたら生きていけないぞ」
「こうして今まで十六年間生きてきたんだから大丈夫だ」
「お前生まれた時から潔癖症なのかよ!」
「僕は他の人より少しだけ綺麗好きなだけだ」
「絶対にレベルが違うと思う」
まだ海はその後も砂埃だ泥だ何だと語っていたが俺は無視して歩き始めた。話を聞いていたら夜が明けてしまう。
「そんなに嫌なんだったら休んだらいいんじゃねぇの?」
「休んだら皆勤じゃなくなるんだ」
「あー、そうか」
そうだった、忘れていたが海は完璧主義なのだった。
「さて、今日は忙しくなるな」
「お前、何する気なの?たかが遠足だぞ?」
「じゃあ、また明日」
「話聞けよ!また明日な!」
とにかく明日、海が何をしでかすのか不安である。
翌日、天気は晴天、気温も程よく遠足にはもってこいの日和である。
学校に着くといつも制服の生徒が今日ばかりは体操着でお菓子を取り出して見せ合いをしたり、一緒に食べる約束をしていたりして皆が浮かれていた。やはりいくつになっても皆楽しみなのだなと思った。
「おはよう、樹」
「ああ、おはよ……ってなんだその荷物!」
「これか?遠足の荷物に決まってるだろ?」
何を言っているんだと海は言った。こっちが言いたい。
海が持ってきていたのは登山家のようなリュックでその中身はいろいろなもので膨れ上がっている。何を入れたらそんなになるのか気になってしまう。
「遠足だぞ!?登山じゃないんだぞ!」
「まあ、似たようなもんだろ」
「似て非なるものだ!」
「朝から樹は元気だな、そんなに遠足が楽しみなのか」
「いやいや、お前が変だからだよ!」
案の定、教室に入った瞬間海は皆の注目を浴び、先生にはいらないものは置いていけと怒られたがそこは海である。
「全ている物です」
全くぶれない姿勢は天晴れである。