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潔癖症とお風呂

俺のもとに友人である宮内海からメールがきたのは帰宅してからすぐのことであった。海からメールがくるなんて珍しいこともあるもんだと思いながらメールを開くとそこには自分の家の風呂が事情により入れなくなったので今晩だけ入らせてもらえないかといったものだった。

もちろん断る理由もないので承諾したのだがあいつは人の家の風呂なんて入れるのだろうか、そこだけが疑問だった。

海が我が家に来たのは午後7時を少し過ぎた頃、インターフォンが鳴ったので出てみるとトートバックを肩に提げ、手には洗面器を抱えた海が立っていた。


「おお、いらっしゃい」

「突然変なお願いして悪かったな……お邪魔します」


先程からずっと感じていた疑問を聞いてみることした。


「なあ、何で家の風呂が使えないんだよ」

「僕の妹の友達が泊まりに来ているんだ、出てくるのに時間がかかりそうだったし、かといって銭湯なんて死んでも行けないしな。消去法でいつきを頼ることにしたんだ」

「消去法、ねぇ……」


頼られるのは嬉しいが消去法と言われれば複雑である。まあ海はこういう奴なので今さらどうこう言う気はない。よく言えば裏表のない奴なので悪いやつではない。


「あら?海くん来たのね」


我が母の登場である、海が俺の家に来たのは今日が始めてではない、なので俺の母とも何度かあったことがある。


「夜分遅くにお邪魔しています」

「いえいえ気にしないで、ゆっくりしていってね」

「はい、ありがとうございます」


そう言って母は去っていった。

去っていったのを見送った後で海が一番気にしているであろうことを告げた。


「安心しろ、まだ誰も入ってないからな」

「うむ、ありがたい」


そう言って海は脱衣場へと入っていく。

何も問題はなかったようで廊下にシャワーの水音が響き渡る。

一安心して俺はリビングで漫画雑誌の続きを読み始めた。


時計の針は午後八時を指している、海が風呂に入ってからもう一時間以上が経とうとしていた。さすがに心配になった俺は海の無事を確認するために脱衣所まで見に行くことにした。

シャワーの音が止まっていた。

もしかすると湯船で逆上せているのではないか心配になる。失礼を承知して風呂場のドアを開けてみた。


「む?」


そこにいたのはゆでダコになっている海でも溺れている海でもなかった。タオルを腰に巻き風呂掃除を熱心にしている海だった。


「お、お前何やってんだよ!」

「風呂掃除だ」


さも当たり前のように海は言う。

それは見れば誰でも分かる。


「何で掃除してんだよ!」

「いや、他人が入った風呂なんて嫌だろ?」

「別に俺らは気にしないから、早く出てこい!顔真っ赤じゃねえか!」

「……そうか、遅くなってすまないな」


海が着替えて出てくると俺はコップに冷えたスポーツドリンクを渡した。


「ああ、すまない」

「いや、風呂掃除ありがとな」

「いや、むしろ迷惑じゃなかったか?」

「迷惑じゃないよ、母さんに話したら大喜びしてた」

「そうか、それならよかった」


スポーツドリンクを飲み干してしばらくしてから海はそろそろ帰ると言った。


「また明日な!」

「ああ、今日はありがとう」

「またいつでも遊びにいらっしゃい」

「はい、お邪魔しました」


そうして海は自分の家へと帰っていった。





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