潔癖症の悪夢
久しぶりの更新です。
コメディーやギャグはなかなか思い付きが難しいですね。
今回は少しお下品なので苦手な方はご注意を!
「聞いてくれ、悪夢を見たんだ」
爽やかな青空が広がるこの良き日に俺の友人である海は目の下にくっきりとくまをつくっていた。そんなに怖い悪夢を見たのか、それは気の毒だ。
「どんな悪夢を見たんだよ」
「うむ、口にするだけでも恐ろしいんだが……」
そう言って海は俯く、海が全身から放つ重々しい雰囲気に思わず身構えてしまう。そして海はたっぷり間を溜めた後、こう言った。
「犬……」
「犬?犬に追いかけられたのか?」
「違う……」
なかなかはっきりと物を言わない海に俺は痺れを切らして強めに言う。
「早く言えよ!たかだか夢だろ?」
その一言に海は素早く反応した。「たかだかだと?」と言った海の目は完全に据わっている。
まずい、何か地雷を踏んでしまったらしい。俺は溜め息を吐きたい気分だった。こうなってしまったら海は何かと面倒くさいのだ。普段感情の起伏が薄いので爆発するとなかなか鎮まらない。
「い、いやごめん。今の発言取り消す!」
慌ててそう取り繕うと納得してくれたようでほっと安堵する。
よかった、面倒なことにならないで。
「それで、どんな悪夢見たんだよ」
「……心して聞いてくれ」
「お、おう」
「……犬の、糞を踏んでしまった夢を見たんだ」
何だそんな夢だったか。どんなに怖い夢を見たかと思ったがその程度だったか、いや潔癖症にとっては最低最悪の悪夢だったのだろうとは思うが何というか拍子抜けしてしまった。
思い出しているのだろう、海は苦虫を噛んだかのような顔をして机を叩いた。
「ま、まあ夢でよかったじゃん」
「正夢になったらどうするんだ」
「それはまあ、運が付いたと思えば……」
「そんな汚い物でつく運なんているものか」
こいつ何で今日はこんなに後ろ向きなんだ。
「それも素足で踏んだんだ」
「うわあ……」
それはさすがに潔癖症でない俺でも嫌だ。
「今でも感触が残っている……」
「落ち着け、それは気のせいだ」
怯えや恐れを通り越して海は震え始めた。こうなってしまっては宥めようがない。
「それだけ嫌な夢見たんだったら今日はいい夢見られるかもな!」
努めて明るく俺は言った。
今日一日を海にこのテンションでいられては困る。俺まで海の気分に飲み込まれて暗くなってしまいそうだ。
「……む、そうだな。今日はトイレ掃除をピカピカにするまでする夢でも見られればいいな」
「それはお前にとっていい夢なのか」
俺にとっては犬の糞を踏むのと同等くらいの悪夢だ。
次の日も海はくまを作ってきていた。それも今度は昨日よりもひどいものになっていた。
「どうしたんだよ、また悪夢を見たのか?」
「いや、ただ単に寝てないんだよ」
「そりゃまた何でだよ」
「……帰り道踏んだんだ、正夢だったんだよ」
「あ~……」
それは気の毒に。
「それで家に帰って靴を洗って、お湯で消毒して、消毒液とか諸々で手入れしていたら気づけば朝だった……」
「どんだけ執念持ってんだ!そんなに嫌なら新しいの買ったほうが早いぞ!」
それを言うと海は今気づいたことのようにはっと顔を上げた。
「それは、盲点だった。樹お前は天才だな」
「これくらいで天才って呼ばれるんなら誰だって天才だよ」