潔癖症と鍋パーティ 3
鍋の中のスープに昆布を入れて煮詰めているのを俺らはただ黙って見ていた。本当はここにいる皆、腹が減ってしかたないのだが海の今までに見たことのない笑顔を見ては何も言えなかった。
だが、海が昆布を鍋から出したとき是澤が言った。
「なあ宮内、もう全部入れちゃってもいいか?」
「ダメだ」
海ははっきりと断った。是澤は昨日と同じような顔をして固まっている。
そして周りからは当然のごとく批判が飛び交う。早く食わせろ、遅いんだよ、この潔癖野郎!などさまざまな罵声が。さすがの俺もこればかりはフォローしきれない、なぜなら俺もとてつもなく腹が減っているからだ。
男子高校生の腹の減りの早さを侮ってはいけない。
海はずっと黙って聞いていた、しかししばらくしてずっと閉ざされていた口を開いた。
「……美味しい鍋が食べたいだろう?」
その一言に皆の動きが止まる。それを見た海はニヤリと笑う。
「本当にうまい鍋が作れるのかよ?」
是澤が力のない声で言った。
「うむ、任せろ」
その一言は空腹で考える力もなくなってきた俺たちを信用、というか諦めさせるのには簡単だった。
「宮内」
是澤は皆を代表して海に一言言った。
「後は、頼んだぞ……」
そう言って是澤を初めとする海以外の男子は椅子に座った、もちろん俺もだ。海はそんな俺らの様子を見てこくりと頷いた。
しばらくすると鍋のいい匂いが漂ってきてさらに空腹を増長させた。
「よし、出来た」
その一言を飢えていた俺たちは待ちに待っていた。
「「「よっしゃあー!」」」
そうして俺たちは鍋に近づいた。それは男子高校生が作ったにしては上出来な鍋だった。肉が七割、野菜が三割の鍋、海が注ぎ分けて皆勢いよく食べ始める。うん、確かに美味しい。
「樹、味はどうだ?」
「ああ、めちゃくちゃ美味いよ!」
そう言うと海は誇らしげな顔で言った。
「やはり空腹は最高の調味料だな」
まあ、その通りかもしれない。
「海は食わないのか?」
「む、食べないぞ」
「何でだよ、せっかく自分で作ったのにもったいない奴だな」
「僕は皆に食べてもらうために作ったから食べない」
ぐぅと情けない腹の虫の音を響かせながら海は言った。