潔癖症と鍋パーティー 1
期末テストも終わりに近づく四日目、とうとう明日で終わるという希望とこれまでの勉強の疲れもそろそろ限界を迎えようとしている。それはもちろん俺も例外でなく勉強嫌いながらも赤点回避のためテストと格闘していた。
「おい海、帰るぞ」
「うむ、帰ろう。それはそうと樹のその目の下のくまはすごいな」
「赤点とらないように必死なんだよ……眠い」
「普段から勉強しないから……」
そういう海はいつも通りの健康体だ。コツコツ型の海と一夜漬けの俺とでは言わずもなが海の方が何倍も点がいい。
「おーい!樹、宮内!」
「是澤」
「む?」
是澤がよく通る声で俺と海の名前を呼んだ。
「何か用か?」
「期末テスト終わったらさ皆で鍋パーティーしようぜって話になってんだけど、お前ら来るか?」
「鍋か、いいな、行きたい」
「オッケー、宮内は?」
「……鍋、か」
海は困ったような顔をした。
「鍋パーティーは遠慮しておこう」
俺は何となくその理由は分かったが是澤は気づいていないようで海に詰め寄っている。
「何でだよ、鍋パーティー楽しいぜ」
「いや、僕は他人と同じ箸で鍋をつつくのが嫌なんだ」
場の空気が一瞬凍ったのが分かった。海は気づいていないようで堂々と胸を張って続ける。
「だから僕は行かない」
「そ、そうか……まあ、気が向いたら来てくれ。樹、場所は後で連絡するな」
「おう」
是澤は顔をひきつらせながらそう言うとその場を足早に去っていった。是澤がいなくなった後俺は海を横目で睨む。海は不思議そうに俺の顔を見ている。
「お前……ちょっと失礼だぞ」
「そうだったか?」
「そうだ」
「ふむ……自分では分からなかった」
少し考えた後海は言った。
「お詫びも兼ねて鍋パーティーに参加しようか」
「……え?」
俺の心の中を驚きが半分以上を占めた。海は名案だとばかりに何度も頷いている。
海がいいのならば別に参加するのは構わないのだが、俺は不安に思ったことを口にした。
「お前、これ以上是澤に追い打ち掛けるようなことすんなよ?」
「するわけないだろう、まったく心配性だな樹は」
いや、お前と一年間もいたら誰だって思うことだと思う。
「鍋パーティー、楽しみだな」
「ああ、そうだな……」
爽やかに笑う是澤の顔が頭に浮かんで消えた。