潔癖症と肌荒れの季節
今日も今日とて宮内海は昼休みになるとご飯を食べる前に手を洗っている。それはもう熱心に石鹸が泡だらけになるほどに。
夏はいいかもしれないが今の季節は冬だ、冬といえば何より寒く水も冷たくなるのだが気になるのは肌荒れだ、俺はそこまで気にしないが母さんの手にはもうすでにあかぎれが一つできていた。
海はどうなのだろうか、あんなに洗っていてあかぎれの一つもできないはずがないだろう。
ようやく長い長い手荒いが終わって淡い水色のハンカチで手を拭いている海に尋ねてみた。
「なあ、お前あかぎれとかできないのか?」
そう言うと海は何故だか誇らしげな顔をした。何だか腹立つ顔だ。
「できない、なぜかというと……」
なかなか海は答えようとしない。今の俺の問いに一体どこにそこまで間を置く必要があるのか。
「もったいぶらないで早く言えよ!」
「……俺はとあるもので手を保護しているんだ」
「へー、何なに?」
「……刮目せよ!」
そう言って海が取り出したのは至って普通のハンドクリームだった。
「お、おお……」
別に俺は何もハンドクリームに驚いたわけではない。あまりにも得意気にハンドクリームを取り出した海に驚いたのだ。
「驚いたか?」
「いや、俺が驚いたのはお前にだよ」
「む、なぜだ」
「いや、だってそれただのハンドクリームじゃねぇか」
俺の一言を聞いた海は肩をすくめた、何だろうか、今日は妙に俺の神経を逆撫でするようなことばかりしてくる気がする。しかし、本人には悪意はないようなのでぐっと堪える。
「これはただのハンドクリームじゃないんだ」
「まじか!」
「これは、保湿成分が手を洗っても落ちないんだ」
「ほー、お前にはぴったりだ」
「うむ、僕はこのハンドクリームをもうかれこれ……八年間愛用している」
「八年ってことは……小4のころから使ってるのか?てか、海お前いつから潔癖症何だよ」
「生まれたときからじゃないか?」
「そんなアホな」
いや、こいつならあり得るかもしれない。ハンドクリームを丁寧に塗りたくっている海を見ながらそう思う。
「てか、腹減ったんだけど」
「む、そうだな。待たせてすまなかった」
これを言うのは海には悪いのだがこいつと友達になってからやけにトイレに行く回数とトイレの滞在時間が増えている気がする。