潔癖症と保育実習 2
あれから早くも一週間経ってしまった。俺たちは今は近所の堀沢保育園に来ていた。外からでも子供たちの元気な声が聞こえてくる。小さな建物には懐かしさを感じた。
「では一班の人は先に年長さんのところへ言ってください。二班の人は先生と一緒に年少さんのところへ行きましょう!」
山田先生が全員に声が届くように声を張り上げながら言った。
俺と海は一班なので先に年長組のところだ。
「海、行くぞ」
海は露骨に嫌そうな顔で「ああ」と言った。
「お前、頼むから子供たちの前でその顔はやめろよな!」
「生まれたときからこんな顔なんだ」
「嘘つけ!いつもはもっと普通の顔だろ!」
「行きたくな……」
「つべこべ言わずに早く行くぞ」
埒があかないので海を引きずりなぎら園の中へと入っていった。
「はーい、皆さん、高校生のお兄さんお姉さんが来てくれましたよー!」
園の先生が子供たちにそう言うとわー!と園児たちに元気な笑顔が浮かんだ、無邪気で可愛いな。
それに引き換え隣にぼんやりと佇むこの男は邪気の塊である。一件無表情だが俺には分かる、内心めちゃくちゃ面倒くさがっているだろうことを、早く帰りたいと思っていることを。
「お兄ちゃん!遊んでー!」
俺らのもとに一人の男の子がやって来た。それはもう溢れんばかりの笑顔を浮かべて。
俺は事前に先生から言われた通りしゃがんで園児と目線を合わせた。
「いいよー、なにして遊ぶ?」
「うんとねー、あっちで皆でおままごとするんだって、お兄ちゃんたちもしよう!」
舌足らずな声で一生懸命しゃべる姿に少し胸を打たれる。
「分かった、おい海、行くぞ」
「はあ……」
「ため息つくな」
「おままごとか……」
珍しく懐かしむような表情を海が見せたので少しそのことに感動していると、そんなものは水泡のごとく消え去っていった。
「あれだろ?家族ごっこだろ?偽りの、懐かしいな」
「言い方ってものがあるだろ!子供はそんな細かいこと考えないんだよ!純粋なの!お前と違って!」
「む?何をそんなにむきになっているんだ。分かった、カルシウム不足だな、帰ったら牛乳を奢ろう」
俺の怒りは頂点に達し噴火する。
「頼むからボケ倒すな!カルシウム?足りてるよ!毎日飲んでるならな!」
俺の叫びは園内全域に響き渡り、俺は山田先生に呼び出され優しく厳しくお説教されたのだった。