潔癖症と保育実習 1
四時間目、誰もが空腹と戦う時間、当然俺も戦っていた。
今日の四時間目の授業は家庭科だ、最近の家庭科は保育のところで近々保育実習へ行くと家庭科の先生、山田先生が話している。
山田先生は若い女の先生で男子に高い人気を得ている。女子からも人気を得ているようだ、何でも優しく面白いところが大好きらしい。
「一週間後の今日、堀沢保育園で一日保育実習をさせてもらいます。皆さんは二グループに分かれて午前と午後で入れ替わります。グループ分けは先生の独断で決めます」
先生の説明が終わるとクラス全体がざわめき始める。「ええー」と不満を漏らすもの、「楽しみー!」と笑い合う女子たち、その中で少し気になったのは海の反応だった。
一体、彼はどのような顔をしているのかーー
「えぇ……」
海の顔は、まあ、半分予想はしていたがやる気の無さそうなげんなりした顔だった。そこまで露骨に感情表現できるのかよ。
「お前、何て顔してんだよ」
「む……どんな顔してるか教えてくれ」
「魂が抜けた後の死体のような顔」
「それは……仕方ないだろう?」
さも当然とばかりに首をかしげながら海は言った。
「何でだよ」
「子供と言えば樹はなんだと思う?」
「元気があって可愛い?」
そう言うと海は深いため息を吐いた。俺の答えに不満があったのだろう。
「何だよ、何が不満なんだよ」
「樹は考えが甘いな」
「は?俺のどこが甘いんだよ?」
「模範解答は」
「なんだよ模範解答って、テストか」
「涎、鼻水、泣きわめく、の三点だ」
どうだ、と言ったような顔で海は俺を見る。何をいっているんだこの阿呆はと俺は呆れる。
「子供は可愛いだけじゃあない」
「自分だって昔は鼻水や涎垂らしてたんじゃないのか?」
「樹と一緒にするな」
「俺は垂らしてない!」
いや、垂らしてたかもしれない、覚えていないが。
「とにかくお前子供の前で変なことばっか言うなよな。嫌われるぞ」
「その日しかどうせ会わないんだから嫌われたって大丈夫だろう」
こいつに何を言ってもダメだ。保育実習に不安が募る。
山田先生、こいつに何かがつんと言ってやってくれ。
だが、心優しい山田先生はこの阿呆を叱らないだろう。