潔癖症とゴキ○リ
今日の朝のホームルームに海の姿はなかった。無遅刻無欠席を毎年目標にしている海が遅刻か休みか何て珍しいこともあるものだ。
一時間目の休み時間、初っぱなから授業は数学だった。俺は数学が苦手、というか体育以外の教科は全て苦手である。
一方で海はどの教科もまんべんなくでき、順位も上位の方にいつもいる。だが、海はあまり運動神経はよろしくなく加えて潔癖症なのもあって体育の成績はあまり良くないらしい。
海本人は結構気にしているのでそのことを迂闊に触れてしまうと怒られる。
チャイムが鳴る五分前、教室のドアがガラリと大きな音をたてて開いた。そこには息を切らした海が立っていた。
「おー!遅刻か?珍しいなー」
俺が近づくと海は睨んできた。その目の下には黒いくまができていた。
「寝不足か?すごいくまだぞ」
「ああ、そうだ」
「勉強してたのか?」
海は首を横に振る、何だか元気がなさそうだ。
「じゃあ、何してたんだよ」
「……ゴキブリが」
「ゴキブリ?」
「ああ、ゴキブリが部屋に出たんだ……」
「ふーん、で?」
「む?」
「何でゴキブリが寝不足の原因なんだよ?」
ゴキブリなんて殺虫剤を振り撒けば倒すことができる。だから寝不足に鳴ることなどないと俺は思っていた。
海は俺の一言が切っ掛けで何かに火が着いたように捲し立てるように話した。
「殺虫剤が見つからなかったんだ!ゴキブリを野放しにしたまま眠れるか?いや眠れない、それに……奴は、いきなり姿を消したんだ……」
「居なくなったなら寝ればよかったのに」
「寝れるわけないだろ?ドアも窓も開けていない、つまりゴキブリがまだ僕の部屋にいると言うわけなんだ。だからそんな状態で寝てもし顔にゴキブリが這ったらどうする?考えただけで恐ろしいと思わないか?」
まあ、確かに嫌だが。
「寝てたら分かんないだろー」
「……樹はゴキブリが恐ろしくないのか!?」
「怖くはないけど、好きではないな」
その後も海は一日中ぶつぶつ、ぶつぶつゴキブリへの恨み辛みを吐き続けていた。
正直、面倒な奴だ。