潔癖症とドッヂボール その2
「「おねがいしまーす!」」
両陣営があいさつを交わす。隣にいる海を見ると溜息をつきながら頭を下げた。クラス全体の士気を下げるほどのテンションの下がりっぷりである。
まずは俺たちのいる一組が先にボールを投げることになった。
まずは一人当たったがこっちも一人当たった。攻防戦が続く中、とうとう中には数人しかいなくなってしまった。俺も当てられて外野になった。だが、その中には海がいた。
ボールに当てられるのが嫌な海は地味に避けるのがうまかった。しかし、頑なにボールには触ろうとはしない。そんな海はとうとう一人になってしまった。
「おいっ海!外野に回せ!」
俺は大声で海に助言したのだが、本人は至って冷静に言った。
「無理だ、取れない」
その一言にクラスのみんなはブチギレた。
「何言ってんだ!」
「気合でとれよ!」
外野が文句を言っていても海は顔色一つ変えることなく避け続けている。これでは中に入ろうともは入れないし、もうこちらの負けは一目瞭然だった。
「お前、軍手してるだろうが!」
その一言を俺が海に言うと海は「あ、忘れてた」と信じられない一言を口にした。それを思い出した海はボールを取って一組の陣営まで投げた。俺がボールを取り、投げたが当たらなかった。
そして、そのボールは相手に渡り、海はとうとう当てられてしまった。
俺たち一組の負けだった。
「まあ、あの状態での逆転は無理だったよなー」
是澤がそう口にした。
確かに不可能に近かっただろう。
「あんまり気にすんなよ、じゃあな」
そう言って是澤は爽やかにその場から立ち去って行った。多分、海はあまり気にしていないと思うが。
「てかさ、お前すごいよな」
きょとんとした顔で海は俺を見る。なんで褒められているのかわからないと言った表情だ。
「いや、あんなに集中攻撃されてたのにほぼかわすなんてすごいよ」
「あれは……なんと言うか、本能とでも言おうか」
「そんな感じだな」
「来年からはドッヂボールはやめて欲しい」
「何がいいんだ?」
「ふむ、例えば……マラソンとか人とかボールとかが当たらないものがいいな」
「ほとんどのスポーツできないじゃないか!」
こんなふうにしてクラスマッチは終わった。
その後しばらくは海はボールをかわすのが天才的だとクラスの男子から注目されていた。