潔癖症とドッヂボール その1
一学期も終わりに近づいてきたある日、俺たちの学校ではクラスマッチが始まった。女子はバレーボール、男子はドッヂボール、何だか男子だけ幼稚な種目だと思うのは俺だけだろうか。
「なあ、ドッヂボールなんて幼稚だよな」
ドッヂボールなんてするのは小学校以来だと懐かしく思いながら隣にいる座っている海に話しかけた。
「うむ、全くだ。誰があんな野蛮な球技を考えたのだろうか……」
「そんなに野蛮か?」
「野蛮だとも。だってあんなに汚れたボールを体に当てようとしてくるんだぞ……考えただけでも寒気がする」
「地面は湿ってないからあんまり土は付かないぞ?」
「砂がつくだろ?」
「払えばのくし洗えば落ちるだろ」
潔癖症の海にとってはドッヂボールは最悪の遊びだろう。できることならズル休みでもすればいいのだが潔癖症な上に完璧主義の頑固者なのでそれは無理だろう。
ようやく一年生の試合が終わり、二年生の試合となった。初めは俺たち一組対二組その後、三組対四組と続く。
「おっし!勝つぞ!」
クラスのリーダー的存在の是澤が爽やかな笑顔で言った、その掛け声に皆が「おおー!」と言った。
ただ一人を除いては。
そうそのただ一人とは紛れもなく海である。
「どうした、宮内?元気ないな、てか何その軍手!?」
「ボールを触って汚れたくないんだ」
「お、おう、そうか……」
引き気味に笑う是澤、そのくらいで驚いていては海とはやっていけないぞと内心思った。
俺はふといい案を思いついた。
「海、海」
「む、何だ樹」
「あのさ、お前ボールに当たりたくないんだろ?」
こくりと頷く海、そんな海に俺はとっておきの案を提示する。
「お前、外野いけばいいじゃん」
海はめったに見せない笑顔を見せた。
「いい案だな、樹!」
「だろ?」
「お前のことちょっと見直したぞ!」
「もっと褒めろー!」
「じゃあ、ちょっと是澤に言ってくる」
「おう!」
どうやら是澤に言いに行った海は他にも外野候補者がいたのかジャンケンをすることになったようだ。勝てよ、と思いながらもそういえば海はジャンケンが弱いことを思い出す。フラグにならなければ良いのだが……
案の定しかめっ面で帰ってくる海、どうやら負けてしまったらしい。
「負けた……」
「まあ、ドンマイ!」
「抜けるのは一人だけでよかったのに……どうして僕がその中の一人なんだよ……」
「まあまあ、楽しもうぜ」
「雨振らないだろうか」
生憎ながら本日の天候は太陽が顔を出している晴天である。
「……降らないな、これは」
「だな」
がっくりと肩を落とす海を半ば無理矢理引っ張ってコートの中へと連れて行った。