潔癖症と手洗い
俺、桜井樹の友人は重度の潔癖症である。見ているとこっちが疲れてくるほどの潔癖症、汚れるのを嫌い、だらしなくするのもだめ、雑巾を触るのなんてもってのほか。
そんな俺の友人、宮内海は昼休みに手をかれこれ十分ほど洗い続けている。神経質そうな顔で一心不乱に手を洗い続けている。
「おい、まだかよ、早く飯食おうぜ」
「まだ、手のひらの菌が死んでいない」
「そんなに洗い続けてたら手の皮が剥けるぞ!」
ようやく泡を洗い流し、青色の清潔なハンカチで手を拭きながら海は言った。
「そういえば、樹は手を洗わないのか?」
「洗わない」
そう答えると海は汚物でも見るかの様な顔で俺を見た。
「何だよ、その顔は」
「今、お前の手のひらには無数の菌がいるんだぞ、その手で弁当を食べるのか?」
「見えねぇからいいだろ、面倒くさいし」
「信じられない……そんなの奴とご飯を食べるだなんて、トイレで便器に座って食べてるのと一緒だ」
「そこまで言うか!?」
「早く手を洗え、三十秒あればすぐ済むだろ」
「わかったよ」
渋々手を水で洗う。三十秒きっかり洗って海の方を向くと目の前に石鹸を突きつけられた。
「ちゃんと石鹸で洗うこと」
「もういいだろ?ほら綺麗綺麗」
「うわ、水を散らすな!ハンカチで拭けよ」
「持ってねぇもん」
そう言うと海は信じられないと言った表情で俺を見た。基本俺はハンカチを持たない、持ってきていたのはせいぜい小学二年生までだった、その時もハンカチをあまり使っていた記憶はあまりない。持ってきていても持ってきていること自体を忘れてしまうのだ。
「普段何で拭いているんだ?」
「ズボンか自然乾燥」
「ありえない」
「男子なんて大抵そんなもんだろ。てか、腹減った、早く教室帰ろうぜ」
「……分かった」
「……おい、何でそんなに離れて食うんだよ。一緒に食べてる意味無いだろ!」
「黙れ汚物」
「お前!友達に向かってそれはないだろ!」
「唾を飛ばすな!」
「飛ばしてねぇよ!」
大体俺の友人はこんな感じである。潔癖症とは正反対の俺はただただこいつが変人に見えて仕方が無い。
しかし、見ている分には面白いのだ。
なんやかんや言われるが俺はこいつの事が嫌いではない。