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キリングガール  作者: 水溜
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3 CORRUPTION

 今回は前三つよりかなり長くなってしまいました。

 人間、自分の目的を果たすためなら、本当に色々な事をする。『いつか』を夢見てひたむきに頑張る人間もいれば、法を犯す人間もいる。しかし、人間以外のモノから見れば、『善人』も『悪人』もなく、人間の行動にはまるで興味がない。ただ一つ例外があるとすれば、それは人間でありながら人間をやめた者だ。彼ら悪魔と契約し、自らの望みを叶えるために魂を差し出した者。悪魔と契約した者の行動は、悪魔にとって非常に重要な事となる。契約者がどう行動するかによって、『魂の引き渡し』の時期にも影響が出てくるからだ。言わずもがな、悪魔達は人間の魂を契約条件としている。しかし、契約とはいえ、彼らは基本的に人間を嫌う。明らかに格下である無能な生物に力を貸し、こき使われるのだから。そして、無限のモノ(・・・・・)など存在しない(・・・・・・・)。人間が悪魔の力を求めたとしても、それは例外ではない。

 要するに。悪魔と契約した時点で……いや、心の底から強く願った瞬間から、その契約者たる人間は悪魔の手のひらの上で無様に躍らされているだけなのだ。


  ◆ ◆ ◆


 仕事とはいえ、夜勤は色々とクるモノがある。短い髪をオールバックにした男は、顎のヒゲを右手で抑えつつ、心の中で愚痴った。ここは東京、武蔵野市のとある場所に建つ警察署だ。刑事になって今年で十三年目だが、いつまで経っても夜勤明けの朝日にはどうにも慣れない。それに加えて、刑事なんていう不規則な職に付いているせいで、たった一人の可愛い息子との約束すら守れない。男は上着の内ポケットから、先月八歳になったばかりの愛息子の写真を取り出す。はぁ、と諦め半分に溜め息をつく。小さい頃は「パパ、パパー!」などと話しかけてきてくれていたが、最近では朝食の時間以外で話す事も少なくなってしまった。父親の信用、ガタ落ちた。写真を内ポケットにしまいなおすと、目の前の真っ白な横長のデスクに向かい直す。パソコンを起動させ、報告書やらをパソコンの中に書き溜めていく。今日(正確には昨日)担当(?)した事件の事、自転車の盗難事件の事__。

「あー……そういや、腹減ったな」

 カタ、と指を止め、ふと空腹具合を確かめる。そういえば、夕食もまだだった。

(コンビニでも行って何か買ってくるか)

 パソコンの画面を閉じ、椅子から立ち上がる。と、後ろのドアがギィ、と開く音が聞こえた。「誰か戻ってきたかな?」と何の警戒心もなくドアの方に振り向く。__ガツン。と後頭部に強い衝撃が走る。目の前がチカチカして、そのまま男は気を失った。


  ◆ ◆ ◆


 署内に入ったはいいもののどこへ向かったものか。警察署内の入り口で、叶は辺りを見回して立ち尽くしていた。これまでの人生、警察に厄介になったことなどただの一度もない訳で、当然、どこに何があるのかなんて事は知っている筈もないのだ。

(そういえば、外から見た時、明かりがついてる部屋があったっけ)

 ふと、中には入る前の事を思い出す。確かいくつか明かりのついている部屋があった筈だ。あれは……三階だったか。叶は入り口の右脇にある階段へ向かい、三階へと上がっていく。階段を上りきった所の真正面に部屋が見えた。しかし、どうにもおかしい。明かりがついてる部屋へと向かっていた筈なのに、ここから見える部屋は全て電気が落とされていて、真っ暗な状態だ。

(これは……悪魔の仕業か)

「いやきみが方向音痴なだけだよ。何でもかんでもぼくのせいにしないで欲しいね」

 フッ、と背後に気配を感じる。虚空から現れた悪魔は、叶を見ながら文句を垂らす。

「いやいや。私が方向音痴な訳ないと思うけど」

 悪魔の方に振り向いた叶は、「こいつ何言ってんの?」というような感じで悪魔の言葉を否定する。昔から家の近所で迷ったりしていたのだが、当の本人は憶えていない。なので、自分が方向音痴だという認識はない。実際には最近でも家の近所で迷っていたりするが。

「……はっ、そうか。悪魔の力で建物を」

「それぼくに何のメリットがあるのさ」

 叶のすっとぼけた言葉に、悪魔がすかさずツッコミを入れる。『力』を使った時とは大違いで、まるで別人の様だ。

 さて、と気を取り直して、明かりのついていた部屋__今きた通路を反対方向へ歩いていく。暫く行くと、当初の目的の部屋であろう場所が見えてきた。明かりもついているので、まずここで間違ってはいないだろう。……多分だが。叶がドアノブに手をかけようとした時、ドアの向こう側から「腹減ったな」などという声が聞こえてきた。誰かがいるのは予想していたが、見つかって大声でも出された日にはたまらない。少し考えた後、叶はズボンの背中側に差し込んでいた警棒を取り出す。これは、先程入り口近くで警官を解体した時に何気なく取ったものだ。殺してしまってもいいのだが、色々と情報を聞き出せるかもしれない。再びドアノブに手をかけて、隠れる気配も見せずにギィ、とドアを開く。オールバックの男がこちらに振り向くと同時に、叶は警棒を振り下ろした。


  ◆ ◆ ◆


「あー、一回使ってみたかったんだよね、これ」

 警棒をズボンの背中側にしまいなおした叶は、気絶した男を布やらロープやらで全身を縛り自由を奪った後、先程までこの男が使っていたであろうパソコンを弄る。カタカタカタとキーボードを打つ。刑事ドラマくらいでしか見た事がないが、一度の逮捕歴さえあれば住所くらいわかる筈だ。佐久間の名前を入力し、マウスを動かして画面をクリックする。新しいウィンドウが開き、叶を殺した犯人__佐久間 十蔵の顔写真と経歴などがずらずらとでてくる。その中の一つ、佐久間についての報告書を開く。

《佐久間 十蔵(29)。2004年6月17日に殺人容疑で逮捕。住所は豊島区○○町○−○○。『都内連続惨殺事件』の容疑者として取り調べを行う。しかし裁判になる前、上からの圧力(・・・・・・)がかかり、死刑ではなく10年の懲役刑となった。これにより一般人から非難の声が多く上がっている。》

 報告書は時々更新されていた様で、いくつかに分かれている。叶はそれを順々に開き、読み漁っていく。

《佐久間 十蔵(32)。佐久間が懲役刑を言い渡されてから約三年が経った。その間、一ヶ月毎に事情聴取をしていたが、わけのわからない事ばかり言うだけで、我々では対処が難しくなってきた。そこで、警察専属の精神科医を招き、取り調べ(医師はカウンセリングと言っている)を行ってもらった。医師の話では、佐久間は精神的な疾患をもっており、常人の判断はほぼ不可能らしい。》

 最新の更新は約一週間前になっていた。

《佐久間 十蔵(39)。佐久間が懲役刑を言い渡されてからもう10年経った。専門ではないので詳しい事はわからないが、医師によると精神疾患はこの先もずっと治らないそうで、釈放してもまたすぐに同じ事の繰り返しになるかもしれない。来週には佐久間が釈放される。また非難の声が数多く上がる事だろう。》

 報告書はこれで終わっていて、詳しい事は殆ど書いていなかった。ただ、『上からの圧力』というのは気になる。連続殺人犯を懲役刑で終わらせるなど、警察側にメリットがない。

(となると、何か……別のやつらの?)

 叶はパソコンの画面を閉じて、考える。しかし材料が少ない。もう少し、何か情報が欲しいところだが__

「んぐ?も、モガ!?モモガ!?」

 後ろでモガモガと声が上がる。さっき気絶させた男が目を覚ましたのだろう。叶は椅子から立ち上がり、男と向かい合わせにしゃがむ。

「何?桃がどうしたって?」

 男を見下ろしながら叶が言う。桃が食べたくなったのだろうか。生憎と手元にないのだが。

「も、モガ、モガガ、モモガモガー!(お、おい、何、なんだ、外せこれー!)」

「だから何だって?ちゃんと日本語で言えよ。子供じゃないんだから」 

 大声をあげられないように、と縛ったのを棚に上げて叶が言う。この状況ではどうやっても日本語には聞こえないではないか。

 男は軽く辺りを見回すと、叶に目線を戻し、外してくれと訴える。叶もそれに気が付いたのか、少し近寄ってから男に言う。

「外して欲しい?」

 コクコク。

「大声出さない?」

 コクコク。

「出したら殺していい?」

 コクコ……

「へぇ、大声、出すつもりなんだ」

「む、むー!むーむー!」

 ぶんぶんぶん、と頭を左右に大きく振る。さっきよりも強い目線で外してくれと訴える。大声も出さないから、という念も込めて。

「どっちにしろ外すけど。大声出したら殺すから」

 叶が男の口元の布を解いてやり、喋れるようにする。男は暫くはぁはぁと息を整えていたが、落ち着いたのか、数十秒後に叶に話しかけてきた。

「なあお前。こんなことして、どうするつもりだ?」

「黙って。質問は私がする。アンタはそれに答えてればいい」

 男の言葉には答えず、叶がそう言う。さっきの報告書がこの男の書いた物なら、報告書以上の事が聞けるかもしれない。

 叶は男を見下ろしながら、質問する。

「一つ目。当時佐久間 十蔵の事件を担当していたのはアンタ?」

「……悪いが、部外者に教えれる事は……」

 男が言い終わらないうちに、叶の左眼に刻印が浮かぶ。男の左手の人差し指が切断されていた。

「いッ、が、は!?」

 男が痛みで顔を歪ませる。それを無視して叶が言う。

「もう一度聞く。佐久間を担当していたのはアンタか?」

 さっきとは言葉遣いも目つきもまるっきりの別人のようだ。姿を隠したまま、悪魔がクス、と笑う。

「答えないなら、アンタの指を一本ずつ切り落としていく。それが嫌ならさっさと答えろ、愚図」

 涙目になりながらのたうち回る男を軽く爪先でつつく。男は叶を睨み、口を開く。

「お、俺は刑事だぞ。こんな事をして、ただじゃ済まない。お前みたいな奴に教える事は……」

 スパ、と左手の中指が切断される。またも男の表情が苦悶に歪む。

「うるせぇよ愚図。さっさと答えないとテメェの指が全部なくなるぞ」

 足の爪先で、今度は強く男の鳩尾を蹴る。がは、と男が血反吐を撒き散らす。

「十秒以内に答えないなら、次は薬指だ。さっさと答えろ」

 男が涙と血とを垂らしながら、叶に言う。

「こ、こんなんじゃ痛くもねぇ。今吐いたら信用がガタ落ちになるだろ。どんなトリックがあるか知らねぇが、指くらい何本でも」

「あっそ、なら遠慮なく」

 左眼に刻印を浮かばせて、力を解放する。が、切断したのは薬指ではなく、男の右耳だ。

「ッあ"あ"あ"あ"あ"!」

 人は予想外の出来事に対して、非常に弱い。左手の薬指からくるはずだった激痛が、急に側頭部からやってくるのだ。

「さて、じゃあ次はどこに__」

「ま、まて!待ってくれ!そう、俺が佐久間の担当だった!」

 男が観念して質問に答える。叶は淡々と質問を続ける。

「そう。なら二つ目。『上からの圧力』ってのは?」

 男は苦悶に表情を歪ませたまま、その質問に答える。どうやら観念したようだ。

「よ、よくは知らない。俺はただの一刑事だ」

「そう。なら用済みだ」

「ま、待ってくれ!よくは知らないが、少しだけなら聞いたことがある!金融会社のヤクザ共だ!そいつら、警察の上層部と繋がってるって話だ!だからきっとそいつらの仕業だ!」

 男が一気に質問していない事まで話す。叶は男を見下ろしたまま、続ける。

「そのヤクザ共はどこにいる?」

「事務所は確か……江東区の○○町○○−○だった……気がする。」

「……江東区、ね。佐久間の家からも少し離れてるな。」

 スッ、と立ち上がり、今得た情報をプリントアウトした佐久間の報告書の裏にメモする。まあ、ヤクザの方は佐久間の家近くで鉢合わせたりしない限り、放っておいても問題はないだろう。警察上層部とやらも、邪魔なら殺せばいいだけだ。

「な、なぁ。佐久間の事なんかお前が聞いて、どうするんだ?」

 男が叶に質問する。どう見ても未成年な上に、関係があるようには見えない。叶は男の方を向くと、冷たい目でこう言った。

「アンタは知らなくていい。もう用はすんだ。死ね」

 一瞬、呆気に取られていた男だが、その言葉の意味を理解した途端、慌てて助けを求める。

「た、頼む!助けてくれ!家族が、家族がいるんだ!それに話しと違う!」

 必死になる男を無表情に見下ろしたまま、叶は言う。

「アンタの事情なんか知るか。それに、殺さないなんて一言も言ってない。見られたからには殺す」

「ま__」

 待て、と言おうとしたのだろう。が、その言葉は発せられる事はなく、男の首から上が切断されていた。それを気にも留めずに、叶はドアの方へと歩いていく。

「__止まれ!」

 しかし、ドアを開けたのは叶ではなく、一人の警官だった。おそらく、ここに入る前に吹き飛ばして気絶させた方の警官だろう。すっかり忘れていた。

 警官は叶の後ろをみて、青ざめた顔をしながら叶に問う。

「お、お前が、やったのか。入り口のやつも、それも」

 手に銃を握り、叶の頭に向ける。__ああ、またこのパターンか。面倒だ。

 警官を無視して、ドアへと歩いていく。警官はビクッ、と肩を震わせ、言葉を放つ。

「止まれ、止まれ!!お前を殺人容疑で」

「テメェらそれ以外に何か言えないのか?バカの一つ覚えみたいに殺人容疑、殺人容疑……ウザいんだよ、死ね」

 そう放って、警官の横を通り過ぎ、ドアを抜けて通路に出る。階段へと足を向けて歩く。

 __キン。と、全ての感覚が無くなる。これは、悪魔が魂に触れようとしている時の感覚だ、とわかった。

「ふふ、どうだい?気持よかっただろう?きみの力、『切り裂き魔ジャック・ザ・リッパー』はきみの願いの具現。それで人を殺すのは、堪らなく愉しいだろう?」

 頭に直接、声が響く。叶の魂を取ろうと、悪魔が囁いてくる。

「私はあいつを殺す。そのために__」

「違うでしょ、人間。それだけならあの人間達は殺さなくてよかった筈。認めなよ、愉しいって。もう三人も殺した。切って、斬って、殺した。愉しかっただろう?人間が無様に呻く姿は」

「違う、そうじゃない。あいつを殺すためなら、私は__」

「いつまで自分に嘘をつくのさ?認めなよ、だってきみはもう__」

 __キン。と感覚が戻る。危なかった。あのまま囁かれ続けていたら、魂を持って行かれるところだった。ズキン、と頭が痛む。どこかで打った覚えなどはないが、今は一先ず、あいつの__佐久間の家へ向かおう。


  ◆ ◆ ◆


「あ、オヤジ!あの野郎、まだ返済してこねぇんですよ」

 若い男が障子を開いて畳張りの部屋の中央に座る厳つい男に話しかける。オヤジと呼ばれた男は若い男の方を向き、低い声で静かに言う。

「そうか。もう期限は過ぎている。これ以上は待てん。明日、奴の家へ向い、奴を連れて来い」

 若い男はコクリと頷く。

「わかりました。明日、昼頃に奴の家へ向います」

 若い男はそう言い残すと、障子を閉めて去っていく。オヤジと言われた男__亜門 兼続は、目の前のちゃぶ台の上にある日本酒を開けると、それをお猪口に注いで口に運ぶ。二、三回飲んだ後、一人、部屋の中央で口を開く。

「奴を……佐久間の使える臓器を、売り飛ばす」

 まだまだ続いてしまいます需要のない女子高生の復讐劇。次回、波乱の予感……!?

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