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キリングガール  作者: 水溜
3/5

2 TRANSFORM

 プロローグ抜いたら二話目になる話です。たまに文体が変わるのはテンションのせいです。今回はちょっと短かった様なそうでもない様な。

「ぼくと契約した瞬間に、君の身体は悪魔のものになる」

 初めは、その言葉の意味を理解できなかった。私の身体は私のものだ、と。しかしそれに、悪魔が言う。

「そうじゃない。ぼくや他の悪魔達が欲しいのはあくまで魂であって、肉体なんてどうてもいいのさ」

 それじゃあ一体どういうことなのか、と叶は悪魔に問いかける。

「つまりね、悪魔と契約した者は、少しだけ混ざるんだ」

 それは、身体能力に。治癒能力に。そしてそれは精神面にも影響を与える。人間的な感情や善意のタガが外れる。『集』の生物である人間が、『個』の生物へと変わってしまうのだ。そして、それはもはや『人間』と呼べる様なモノではない。

 桐崎 叶も例外ではなく、既に人間ではなくなっていた。


  ◆ ◆ ◆


 時刻は深夜二時を指している。街灯の少ない路地は、あの夜を思い出させる。まだ一日しか経っていないというのに、もう何年も昔の事の様に感じられた。

 叶が来ているのは、駅から徒歩四十分程の場所にある警察署だ。電気は殆ど消えているが、まだ人が残っているようで、所々明かりがついている部屋もあった。

(さて、どこから入ったものか)

 叶は二、三メートルはある高い塀をぐるりと見渡した。深夜で月明かりもないが、まるで昼間の様によく見える。

(んー、正面から行ってもいいかな)

 少し考えるのが面倒になり、正面の入り口から入ろうとした、その時。

「おい君。そこで何をしている?」

 不意に、背中に声をかけられる。ふと見ると警官二人がこちらに近付いてくる。

「君、まだ未成年だろう。こんな時間に出歩いたらだめじゃないか。ほら、ちょっとこっち来なさい」

 ぐい、と手を引っ張られる。もう一人の警官を見ると、何やら無線で話しているようだ。

「おい、何してる。早く来なさい」

 動かない叶に警官の一人が言う。このまま連れて行かれてもさして問題はないのだが、しかし。

(こんな所で遊んでる暇はないんだよ)

 叶が警官の手を強引に振りほどく。

「お……い?」

 手を振りほどかれた警官が、五メートル程後ろに吹き飛ぶ。背中から電柱に激しくぶつかり、そのまま気を失う。

「なっ……!?」

 無線で話していた方の警官が、唖然として叶を見る。女子高生が大の大人を片手で五メートルも吹き飛ばすなんて、誰か予想できるだろう。

 叶自身、一瞬ぽかんとしていたが、すぐに表情を戻し、警官の真横を通り過ぎる。

(気を取り直して、潜入しますか)

 警察署入口近くまで来た時、後ろからタタタ、と誰かが走ってくる音が聞こえた。叶は首だけでそちらを見る。すると、先程の警官(無線で話していた方)が叶を追いかけて来た。

「と、止まれ!手を上げて、ゆっくりこちらに来い!」

 警官の右手には、拳銃が握られていた。人一人吹き飛ばしただけで銃口を向けられるとは思ってもみなかった。最近の若者は血の気が多い。明らかに叶の方が年下だが。

 軽く溜め息をついて、叶はそれを無視し、署の入口へ入ろうとする。

「ま、待て!止まれ!止まらんと撃つぞ!」

 警官が銃口を向けたまま叶に警告する。若干声が震えているのは気のせいではないだろう。

「は、早く!ゆっくりとこっちにこい!」

 早くかゆっくりかどっちだよ、と叶は内心で思う。こんなにテンパッていて、よくもまぁ警官になれたものだ。

 スッ、と警官の方を見て、

「撃てるものなら撃ってみなよ」

 と威圧する。すると、一瞬びくりと身体を震わせた警官が、叶に言う。

「ほ、本当に撃つぞ!?撃たれたら死ぬかもしれないんだぞ!?お、俺は殺したくない!」

 この時、銃を下ろして諦めていたら、この警官は無惨な最期を遂げる事はなかったかもしれない。その言葉が、叶の中の『何か』にかちり、とスイッチを入れてしまった。ヒトとは決定的に違う『何か』に。

(死ぬ?ここで、死ぬ?殺したくない?ならなんでそれ(・・)を向けてる。それは殺すためのモノじゃないのか)

 ドクン、ドクンと、叶の中で何かが膨張し始めた。死んでたまるか、殺す、殺すと。

 __キン、と、何の前触れもなく言い様のない感覚に襲われる。音を、温度を、何もかもが断絶された感覚。叶が殺された夜、悪魔と契約した夜に感じた感覚。

「あは、わかった?どうすればいいのか、さ」

 頭の中に直接悪魔の声が響く。

「怒りを、憎しみを、溜め込むだけじゃ始まらない。それをほら、解き放って」

 その声は叶の身体を、脳を、魂を震わせて、『人間のタガ』を無理矢理外す。

「私は違う。お前とは、違う」

「何が違うって?『殺すために悪魔に魂を売った』きみは、ぼくと、ぼく達と同類だ」

「やめろ。違う。違う違う違う。私は……」

「いつまで目をそらしてる気だい?『それ』はもうきみの中にある。きみのモノだ。ほら、願いに、望みに、欲望に身を委ねて。魂を震わせて!」

 __キン、と、全ての感覚が自分のものになる。警官を見る目は、暗く、冷淡で、先程とはまるで別人だ。ただ一つ違うのが、左眼に刻印が現れているところだ。スッ、と警官に近寄る。遅くもなく、早くもなく、普段と変わらない早さで。

「ッ、と、止まれ!止まれッ!」

 警官が引き金に指をかけるのが見えた。

「撃つぞ!止まれ、撃つぞッ!」

「うるせぇな、その手でどう撃つんだ(・・・・・・・・・・)?」

 叶が警官な目の前まで近付く。警官は「は?」と間抜けな声を漏らし、自分の手元を見る。

 __警官の手は、手首より少し下あたりから、綺麗にスパリと切り落とされていた。

「は……え?は、ぁ、ぁぁあ!?」

 認識した事で痛みが込み上げ、膝からガクンと崩れ落ち、そのままうずくまる。

「な、ぁあ?何、だ……これ!?お前……!?」

「ガタガタ騒ぐなよ、近所迷惑だろ」

 うずくまった警官の目線の高さまでしゃがんだ叶は、怒気も殺気も込めずに淡々と言う。

「こ、れは……犯罪、だぞッ!お前、は……お前を」

 言い終わらないうちに、叶が口を開く。

「うるせぇよ。斬り刻まれて死ね」

 立ち上がった叶は、入口へと向かい歩いていく。その後ろ、月明かりも街灯もない、暗い路地のアスファルトの上で、各関節毎に斬り刻まれて息絶えた警官の姿があった。

 需要のない女子高生の復讐劇、第三弾。べ、べつにあんたのために殺したわけじゃないんだからねっ!

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