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キリングガール  作者: 水溜
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1 CHASE

水溜です。一応これが一話目です。休日なので連続投稿してしまいました。

 目を覚ますと、自分の部屋のベッドの上にいた。暫く頭がボーッとしていたが、起き上がって伸びをすると少しだけ頭が冴えてきた。時計を見ると、朝の五時前だという事がわかった。部屋の扉を開け、階段を降りて一回のリビングに向かう。冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、コップに開ける。それをゴクゴクゴク、と一気飲みすると、完全に目が覚めた。洗面所に行き、鏡を覗く。

(……少し、やつれたかな)

 身体に刺された跡などなく、荷物もメンチカツもちゃんと部屋に置いてあった。まるで昨日のことが嘘に感じる。

(……でも、嘘じゃない)

 鏡を覗きながら、瞼を下ろし、再び上げる。昨日の事は、夢でも何でもない。左眼に刻まれた契約の刻印が、それを語っていた。


  ◆ ◆ ◆


 学校には暫く休むと電話を入れておいた。退学してしまっても良かったのだが、それだと親に何を言われるかわかったもんじゃない。どちらにせよ、もう戻る事はできないのだが。

 時刻は昼過ぎ。叶は黒いズボンと白いパーカーに薄茶色のマフラーを首に巻いた格好で、駅前に来ていた。といっても、メンチカツを食べに来たわけではなく、昨日の夜、叶を包丁で刺し殺した男が姿を表さないか、と探しているのだ。しかしそう都合よく現れてくれる筈もなく、叶はトフ、と近くにあった柱に背を預けた。

 __約十時間前。叶は悪魔と契約をした。それは『自分を殺した男を自分で殺すまで』というものだ。……そう、昨日の晩、叶は確かに殺されたのだ。今は悪魔との契約で一時的に『生き返った状態』になっているが、上以外にも『六十日以内に目的を果たせなかった場合は自動的に魂が悪魔の手に渡る』という条件もある。しかし、叶の『自分を殺した男を殺す力が欲しい』という願いで、叶の身体に大きな変化が起きていた。

「やあやあ、人間。やってるかい?」

 突然目の前に悪魔が現れる。叶は一瞬ビクッとするも、悪魔に問いかける。

「見ればわかるでしょ」

 叶が無愛想に答える。悪魔は「見た分じゃ遊んでるようにしか見えないけど」と戯けて言う。叶はそれを無視して、悪魔に聞く。

「ねぇ。あんたって私にしか見えてないの?」

 先程突然現れたにも関わらず通行人は全く気付かずに通り過ぎていった。或いは『東京だから』で済むかもしれないが、何もないところから現れたら流石に少しは騒ぎになるだろう。悪魔は少しきゃとんとしながら答える。

「え?うん、当然でしょ?」

 「当然でしょ?」と聞かれても、悪魔ではない叶には何が当然なのか全く理解できない。「へぇ」と適当に相槌を打ってから、もう一つの疑問を投げかける。

「ねぇ悪魔。あんた名前とかないの?『悪魔』って呼びにくいんだけど」

 すると、悪魔が先程よりもさらに不思議そうに、

「君達人間に名前なんて教えても意味ないでしょう?」

 と、真顔で返してくる。

(そんなもんなのか……)

 マフラーに口元を埋めながら、叶はそう思った。

 それにしても。手がかり一つ見つからない。当然だ。東京は広い。人口は千五百万くらいはいるだろうし、その中からなんの手がかり無しで男一人を見つけるなんて、広い海の中から一滴の涙でも探してる気分だ。

「夜枕に顔を埋めたくなるような馬鹿なこと考える前にさ、さっさと手がかり探しなよ」

 悪魔が呆れ半分でそう言う。さっきも思ったが、この悪魔、考えてることが読めるのだろうか。聞いてもどうせ「だって悪魔だし」と言われるに違いない。

 スッ、と叶は柱から背を離し、ビル街へと足を向ける。あそこにいても何も始まらない。とにかく、今は足を使うしかないだろう。

 ピタリ。と叶が足を止めたのは、とある家電量販店のショーケースの前だった。二段に分かれてテレビが並んでおり、一つ一つ別の番組を流している。その中の一つ。下の段の左端の薄い最新型の液晶テレビの画面に、叶の目は釘付けになっていた。通りがかる人たちが一瞬、ビクッ、と肩を強張らせる。それ程の形相だった。

 画面では、女性ニュースキャスターが無機質に言葉を発している。

『十年前、都内で起きた連続惨殺事件の犯人、佐久間 十蔵容疑者が一週間前、釈放されたと警察から発表がありました。警察によりますと、「医師の診断によると、佐久間容疑者には精神的な疾患が多分に見られ、法的な刑罰、処置による責任を果たさせる事はできない」との事です。その時の会見の模様を__』

 画面に映った男の写真。あの目、あの口、あの鼻、あの髪。忘れない。忘れもしない。佐久間 十蔵と言ったか。見つけた。

「は、あはは……一度捕まっているのか」

 それなら、話は早い。くるり、と来た道を引き返す。悪魔がひょいと顔を覗かせながら、叶に言う。

「さっきの男。昨日きみを殺した男だよねぇ。さて、どうするのかな?」

 叶は足を止め、悪魔を見据える。

「わかってるでしょ。心が読めるんなら」

「うーん、確かにわかるけど。言葉にしなきゃ変わらないこともあるんだよ?」

「何それ」

 悪魔の真紅の瞳が細められ、妖しく光る。

「言葉に殺意を、憎しみを、望みを、魂を込めて願わないと。何も変わらない。ほら、きみの願いを言って。欲望を震わせて。……早く、きみの魂を僕に食べさ(遊ば)せて」 

 ゾク、と背中を凍りつかせる。忘れていた。こいつは悪魔なのだ。どんなに戯けていても、人間の魂を自分のモノにしたいだけ。

 叶は悪魔を睨み、殺意を込めて言う。

「あいつを殺すまでは、私の魂は渡さない。邪魔をするならお前も殺す」

 それは、一女子高生が発する言葉ではない。殺す、殺すと。悪魔はニコ、と笑い、それに答える。

「もちろん。そのための契約だろう?人間」

「……ふん」

 悪魔に踵を返して、足を進める。行き先はもう決まっていた。

 その後ろ。叶が気付かないところで、悪魔がニタァ、と嗤っていた。


 __その晩。都内のとある警察署内で、警官三人が殺される事件が発生した。

 需要のない女子高生の復讐劇、第二弾(一話目)、如何でしたでしょう。次回、叶の身体に__!?何かなるかならないか。

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